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本編 49 〜トリニティ・タワー 23 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

67.生還?

 その頃……

 S.Aikiはゆっくりと目を開けていた。

 目の前には瑠璃の姿。心配げに見つめる顔は……随分と懐かしい感じがした。

「あ、……瑠璃。無事だったか?」

 何故か自身よりも瑠璃のことを心配した……訳ではなく、単に挨拶程度に尋ねた。

 だが……相手にとっては挨拶とはならなかった。それはS.Aikiにとっても……

「は……はいっ! ありがとうございます。このとおり瑠璃は無事ですっ!」

 いきなり抱きつかれ……例によって全身の骨が軋むのを……いや、体内に骨が崩壊する音が響き渡り……S.Aikiは再び、気絶した。

「……あれ? 御主人様? 大丈夫ですか?」

 気絶したS.Aikiの胸に耳を当て心音を聞く。

「……生きてますね。大丈夫。この瑠璃が一生懸命、看護致しますから」

「瑠璃姉ぇの看護だと……反って悪化しそうですけど?」

 見上げれば……瑠璃1達が呆れたような顔で見下ろしている。

「え? ……やぁね。瑠璃1。そんな冗談を……」

「冗談かどうかは兎も角……早く、起き上がって下さい。御主人様が潰れてしまいます」

 瑠璃がいたのは……第4展示フロア。の控え室だった場所。

 瑠璃10達と共に破壊尽くした場所の一角。先の破壊の際に邪魔だとばかりにソファの類を積み上げた山の中。いやソファの残骸のクレーターの中。

 そして瑠璃1はクレーターの外周山の頂からクレーターの底にいる瑠璃を見下ろしていた。

「それにしても……よく咄嗟に反応しましたね?」

 瑠璃は……崩壊するビルと共に落下するS.Aikiへと身を投げ、確保し。そしてビルの残骸を蹴り飛ばして……この第4展示フロアの窓へとS.Aikiと共に突入し、結果としてソファの山の中に突入したのであった。

 S.Aikiにとって運が良いことは……瑠璃を所有していたことだろう。御陰で助かっている。

 だが……ついでに言えば……S.Aikiにとって運の悪いことをも改めて言及するならば瑠璃は方向と蹴り上げるコトによる速度調整に精一杯で突入時にS.Aikiを瑠璃自身の下敷きにしてしまったことだろうか。

 それでもソファが積み重なっていた場所に突入したことで致命傷にはならずにいたのだが……先程の『抱きつき攻撃』によって止めを刺された。

 ……そんなところである。

「……そうね。やっぱり対テロ用アンドロイドとしては所有者、御主人様に献身するのは……存在理由の総てでしょ?」

 その存在のために重傷になっているのだが。

 というか、瑠璃を所有していたが為にS.Aikiはこの騒動に巻き込まれているのだが……


 その時、不意に荷役用エレベーターの扉が開いた。

「おや? みんな揃っているね」

「あらぁ? 御主人様と瑠璃様達じゃありまへんか? ご無事で?」

 エレベーターから出て来たのは瑠璃4と瑠璃5。

「完全に無傷というか無事ではないけど……まぁなんとか、このとおり。って、アナタ達も何? その格好は?」

 瑠璃1に指摘されて……改めて自分の姿を見る瑠璃4と瑠璃5。

 2人の格好も……地下鉄駅での騒ぎと地下倉庫での戦いでボロボロだった。

「ま、全員が揃ったというのは良いことです。では、皆さん。撤収……じゃない、帰りましょう」

 瑠璃の言葉に瑠璃1が慌てた。

「え? いいんですか? テロリスト達の始末とか……警察とかの事情聴取は?」

「瑠璃1? テロリスト達の殲滅よりも御主人様です。一刻も早く帰って、御主人様を看護するのが最優先。それが秘書としての努めですっ!」

 ……その言葉の何処にも秘書としての仕事はないのだが。

「では? さぁさぁ。こちらに。エレベーターで地下に行って……脱出しましょ。さもないと……」

 瑠璃5がエレベーターの扉を片手で押さえながら、もう片手でひらりと壁に掛っていた大型モニターを指した。

 そこには……大勢の警察官が押し合い圧し合いしながら突入してくる様が映し出されていた。

「あら? いまごろ?」 呆れる瑠璃1。

「あんなに沢山……」 同じく呆れる瑠璃10。

「統制が取れてないのであれば無駄が多い……私達が無効化したテロリストも取り逃がしそうですね」

 呆れきっている瑠璃30。

「ま。いないよりはマシでしょ?」 笑う瑠璃31。

「そういうコト。さて? 面倒になる前に撤収しましょ」 呆れながらも笑う瑠璃4。

「そうそう。さぁさぁ、皆さん乗ってくださいまし」 改めて全員を促す瑠璃5。

「そういうことです。いまは行動あるのみ」

 先頭を切って乗り込むのは気絶したS.Aikiを背負った瑠璃。

「……え〜と。何か忘れているような気がするんですけど」

 最後に……全員が乗り込んだエレベーターの前で、未だにぼーっとした目の瑠璃3が疑問の中にいた。



「みんな酷いっ! 瑠璃2のことを忘れていたなんてっ!」

 ぷんすかと怒りながらも先頭を歩いているのは瑠璃2。

 そうだ。瑠璃2がいない。瑠璃2は何処だ? と騒ぎになり、取り敢えず下に降りて捜しましょう。と……地下に降りたらエレベーターの前に瑠璃2がいたのである。

「ごめんよ〜 忘れていた訳じゃないんだけど……それにしても、アンタは良く無事にいたね?」

 謝罪しながらも問い掛ける瑠璃1。

(この子に……そんなに戦闘能力あったっけ?)

 改めて考えれば……瑠璃全員の中では一番戦闘能力はないはずだ。

(それに……何でこんなルートを瑠璃5が知っていたんだろう?)


 瑠璃2と合流した瑠璃達は瑠璃5の案内に従い、地下鉄の整備用か何かで造られた地下道を歩き、出た場所は……トリニティ・タワーから駅にして2つ、3つほど離れた埠頭横の廃線駅だった。

 潮風が心地よい。

 夕暮れに向かおうとする太陽の光が波に反射して全員を柔らかに照らしている。

 そして、近くの駅へと歩きながら話している。


「ん〜? ずーっと隠れんぼしていたから、大丈夫だったよ?」

 きょとんとした顔で見つめ返す瑠璃2。

「そうか。隠れんぼか」

「忍者みたいに隠れてましたんですかぁ」

「そだよ。瑠璃2は隠れんぼだと忍者さんなんだよ」

 瑠璃30と瑠璃5に感心されて瑠璃2は得意げに笑った。

 ……後ろで瑠璃1達が苦笑しているのには気づかずに。



 S.Aikiは長身で美貌な秘書姿の瑠璃の背中でまだ気絶している。

 サイズのあってない白衣を羽織っている瑠璃1は瑠璃の横でS.Aikiの容体を見ながら瑠璃2が何処かへ行かないようにと監視している。

 瑠璃2は元気にみんなを先導している。はしゃいでいる子供のように。

 銀糸で刺繍された白衣を着ている瑠璃10は瑠璃1と共にS.Aikiの容体を見ている。

 瑠璃3はまだぼーっとした顔で周囲を驚かさないようにと壊れた左腕を布でぐるぐる巻きにして首から吊っている。のだが、バニー姿では目立たない訳はない。

 瑠璃3の左右に従う瑠璃30と瑠璃31も騒ぎにならないようにと銃火器は捨ててきたのだが、コンバット・ジャケットを着たままでは……という以前に根本がバニー姿なので目立っている。

 最後尾に従う長身でマッシーな瑠璃4は破れかけたボンデージ・ドレス姿、横の華奢な瑠璃5は乱れた着物姿。


 何の仮装行列かとすれ違う人々はちらちらと眺めてはいたが、やはりトリニティ・タワーの増設部分が崩壊し、そして立て籠っていたテロリスト達を伝説ともなっている最強の対テロ用アンドロイド Lapis Lazuliがあっという間に鎮圧したとの報道に我先にと現場へと急いでいた。

 そんな人々の流れと逆行し駅へと向かう瑠璃達。

 全員、何故か……何処かしら満足げでいた。



 その頃……

 トリニティ・タワー前でLapis Lazuli はマスコミ達に取り囲まれていた。

「あ、ハイ。マスター? ごめんなさい。周りが五月蠅くて……」

「Lapis Lazuliさんっ! 携帯電話なんかしないで我々のインタビューに……」

「そうですっ! アナタが突入したというだけでテロリスト達は蜘蛛の子を散らすように退去してしまって警察もテロリストを1人として捕まえられなかったんですからっ!」

「あ、はい。ハイ? はいっ! 判りましたっ!」

 Lapis Lazuliは携帯電話を仕舞うとマスコミ達に深々と一礼した。

「ごめんなさい。これから帰って晩御飯を作らないと行けないので。では、さようならっ!」

 Lapis Lazuliはそのまま身を屈め……陸上の短距離選手のようにダッシュで逃げ出した。

マスコミ達を蹴散らして……

 インタビューできなかった1人が取り繕うようにTVカメラに向かってまとめた。

「お聞き頂けましたでしょうかっ! トリニティ・タワーを占拠したテロリストの掃討はあの伝説の対テロ用アンドロイド Lapis Lazuliにとって夕御飯の買いだし程度だった模様ですっ!」

 ……そうか?

「なるほど」

「凄ぇ」

「流石、実質的な対テロ用アンドロイドコンペでの優勝機体だけはある」

「そりゃ、そうだろ? たった独りで、しかも拳銃だけで軍事用ロボットのガンアーム相手に勝ったんだからな」

「それいうならばガンアーム4体を同時に……」

「いや? ガンアームは全部で6体だろ?」

「いやいや。その後で会場の地下道から……」

 周りの野次馬達は納得し、口々にLapis Lazuliへの賛美と自分の知識を言い合っていった。

 野次馬の中で独り……ウェスト・ゴォームことビショップ・オブ・ルビーは無が虫をかみ潰したような渋面を浮かべて……誰にも気づかれることなく静かに立ち去った。



 その夜。

「さぁっ! さっさと稼がないとねっ! いいかい? アンタ達はアタシに貢ぐためにその存在を許されているんだからね? 判ってぇっんのかいっ!」

 何処かで瑠璃4が気合を入れていた。



「そうどすぅ。トリニティ・タワーの近くに居りましたんぇ。えぇ。それはもうてんやわんやの大騒ぎ。私ぃはこれでも看護の経験……というか知識がありますぅからぁ、救急車んが着くまで頑張りましたんよぉ。そんななんで来て大丈夫か? って、心配ありがとぅですぅ。けど、ウチの旦那がビル1本分の借金負いそうなんでぇ。ウチが頑張りませんと……え? そぅですかぁっ! 今日は大盤振る舞いして下さるぅんでえすぅかぁ! ひゃあ。ありがとさんです。ママさぁん。こちらの大旦那さんが皆さんにフルーツの大盛りを御馳走して下さるんですってぇ。ありがとさんですぅっ!」

 別の何処かで瑠璃5も稼ぎまくっていた。





 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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