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本編 48 〜トリニティ・タワー 22 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

66.崩落の後の祭り

「ご、御覧下さいっ! トリニティタワーっが……工事中の第5層第3キャピタルがっ! 内部からの爆発によりっ! たった今っ! 海へと崩落しましたっ!」

 野次馬の中で実況中継中のアナウンサー達が叫ぶ。TVカメラもゆっくりと崩落するビルを映していた。


 その騒ぎの中……

「あっ! たった今、Lapis Lazuliが戻ってきましたっ!」

 トリニティ・タワーの正面玄関からLapis Lazuliが怪訝な面持ちで帰ってきた。

「あの〜? 中に誰もいないんですけど?」

「皆さんっ! 聞きましたか? Lapis Lzuliが全部のテロリストを1人残らず倒してきたと……え? 誰もいない?」

 マイクを握るレポーターが……今度は流石に曲解せずに疑問を返した。

「はっはっはっ! それは弊社の製品であるアルファ・T2がテロリスト達を殲滅したからに他なりません」

 割って入ってきたのはビショップ・オブ・ルビー。……のオモテの顔であるウェスト・ゴォーム。

 レポーターと近くにいた警官達はLapis Lazuli以上に怪訝な顔でウェスト・ゴォームを見る。

 この男は一体何を言っているのだ? と……

「その証拠に……ほら、これから正面玄関から……」

 と、ひらりと手で正面玄関を指し示す。

 ……が、何の変化もない。

「……あれ?」

 ウェスト・ゴォームの戸惑いに……警官達の疑惑が深まっていく。

「……ちょっとお待ちを……」

 ウェスト・ゴォームはポケットの中から携帯電話を取り出すと何処かにかけて確認する。

「どうしたっ! 木偶人形っ……じゃなくて我が社の優秀なる対テロ用ロボット、アルファ・T2はっ!」

 携帯電話からから聞こえる部下の声は戸惑いに満ちていた。

(判りませんっ! 地下倉庫からの一切の信号が途切れてます……あ、1体の反応が……)



 その頃……

 地下の通路で瑠璃5が乱れ着物でゆっくりと歩いていた。髪も乱れ、無表情で……

 瑠璃5の先に……通路を這いずり進むのはアルファ・T2。片足が千切れ、信号コードで辛うじて繋がっているのだが、無論歩くことは適わずに……両腕と片足で這いずり進んでいる。

「まだ……逃げますのかいな?」

 瑠璃5が乱れた髪をかき上げ……下目で睨む。

 まるで……冥府から迷い出てきた亡霊を見下ろす夜叉の如く。

「そうやなぁ……別にあんさんに何に恨みも辛みもありはしまへんけど……」

 片足でアルファ・T2の脚から伸びる信号コードを踏む。途端にアルファ・T2は進めなくなる。

「……ほんにあんさんらは人間の骨格なんかを参考にしてますんやなぁ。ほら。こうしてココに力を入れますと……」

 まだ無事だったアルファ・T2の片足の裏を……もう片足でゆっくりと踏みつける。

 直後に……不気味な金属がひしゃげる音が響き……アルファ・T2の脚は動作不能となった。

「ほほほ……。人間の骨格を参考にするんもほどほどにしまへんと……アンドロイドにはアンドロイドに適した構造いうもんが……」

 着物の袖で口元を隠し笑う。だが……ふっと真顔に、いや無表情に戻り下目に睨む。

「……いろいろと先輩方が積み上げて来ましたんに……あんさんらの御陰で……それは総て無に帰しましたんぇ?」

 瑠璃5は足元で藻掻くアルファ・T2の背中を足で踏みつける。

「……判ってますかぁ? 私ぃの先輩方は……もう部品も作って貰えはしませんのですぇ? あんさんらが……安ぅ販売される御陰らしいですけど……?」

 両手でアルファ・T2の頭を掴む。細く長い指先が頭部ユニットのフレームを歪ませるほどに……ぎりぎりと……食い込んでいく。

「私ぃらは限られた動力を最大限に生かすために……ギヤにはウォームギヤなんかも使こうてますんえ? そんな私ぃらの……」

 両腕に力を込める。

「……我が一族の恨み、思い知るがいいぃっ!」

 瑠璃5の悲鳴の様な言葉と共に……アルファ・T2の頭部は胴体から引きちぎられた。

 冷却パイプから冷却水が飛び散る。まるで血飛沫のように……

 着物を汚し……夜叉の如く不気味に笑っていた瑠璃5は……ふっと真顔に戻り……引きちぎった頭部をがしゃりと床へと落とす。

 未だ……床に転がった頭部の視覚センサーが点滅信号を発しているのは瑠璃5へのささやかな抵抗だろう。

 それを見るともなしに見下ろし瑠璃5は呟いた。悲しげに……

「……なぁんて言ぅたところで……何の足しにもなりはしまへんなぁ。って、あぃたぁ」

 こつんと頭を叩かれて振り返るとソコに立っていたのはボンデージドレス姿の瑠璃4。

 瑠璃5よりも大型のアンドロイドが着ているドレスが所々、破れているのは……戦闘直後を物語っていた。

「なぁに気分出して楽しんでんだい?」

 派手目の化粧が多少崩れかけている様と合わせて……瑠璃4は復活したばかりのバンパイアのよう。

「あら? 聞いてましたんですかぁ。いけずやなぁ。それはそうと……他の木偶人形はん達ぃは?」

 乱れた髪をかき上げる様と着乱れた和服からは……瑠璃5は幽霊屋敷の奥方といったところか?

「もう片付けたよ」

 瑠璃4が親指で示す方向。倉庫の入り口に戻り中を覗くと……アルファ・T2の残骸が倉庫の床一面……いや壁やら天井やらにも破片というか部品の残骸が突き刺さっている。

「ひゃあぁ。凄すぎますぅ。流石、姉ぇさんは元々は軍事用アンドロイドだけありますなぁ」

「ふん。部屋に入った途端にセンサーだかの御陰で動き出して問答無用で攻撃してきたのにはちょっとだけ吃驚したけどね。寝起きの木偶人形なんぞの攻撃、50体や100体に負けるようじゃ……アンタの御先祖さんに申し訳が立たないね」

 軽く目を瞑り、肩やら腰やらの動作確認をしながら瑠璃4は不可解なことを言った。

「私ぃの御先祖さん? なんでですのん?」

 きょとんとした顔で問い返す瑠璃5。

「いゃあ……この前、確認したらさ。アタシの原型のヘビーガン・ドールってのはアンタの御先祖さんのSA−6のプロトタイプであるSA−4ZのOEMが原型らしいんだわ。つまり……アタシとアンタは遠い親戚みたいなモンらしい」

「ひゃあ。そうでしたかぁ。吃驚しましたぁ」

 両手を顔の前で合わせて大袈裟に驚く

「なぁに言ってんだか。さて? そろそろ御主人様を捜しに行くよ。瑠璃姉さん達も苦戦しているかも知れない。援軍は多い方が良いからね」

 エレベータホールへと向かう瑠璃4の後ろで瑠璃5は(……瑠璃姉ぇ様達が苦戦するんは……考えられしまへんけどなぁ)と呟き、困り顔で笑った。

「なに笑ってんだい? それよりコッチでいいんだよね? このビルの建築中の案内アンドロイドをしていたっていうアンタに詰め込まれた諸先輩方の記憶が頼りなんだからね」

「はいはい。ソチラでおうてますぇ。それにしても……何でこんなトコロに木偶人形はん達がおわしたんでっしゃろ?」

「さあ? 気にする必要は無いんじゃない? それにアンタも壊してんだからね? 今更何いってんのさ」

 エレベーターホールへと向かう瑠璃4と瑠璃5の後ろで……床に転がっていたアルファ・T2の点滅信号がゆっくりと停止していった。



(あ……駄目です。今、信号が途切れました)

 部下の報告に顔を歪ませるウェスト・ゴォームことビショップ・オブ・ルビーは携帯電話を仕舞うと……作り笑顔で警官達を振り返り……言い訳を繕った。

「……あぁ。っと今、木偶……じゃなくて我が社の優秀なる対テロ用ロボットであるアルファ・T2はテロリストの残党が潜んでいないかどうかを確認するため各フロアに展開しているようです」

 警官達の不審な表情は……ウェスト・ゴォームの言い訳に払拭されることはなく……深まっているようだ。

「すまんが……何故に君だけ携帯電話が使えるのかね?」

「そうだ。我々は携帯電話はおろか警察無線すらも満足に使えずに困っているのだが?」

「あれ? そうですか? じゃ、私のを使って連絡します?」

 ウェスト・ゴォームは……自分の携帯を渡すフリをして……あるボタンを押した。

 直後に……近くのビルの屋上近くで何かが爆発し……ビルの2階から火の手が上がった。

「ぅおっ!」 「きゃあっ!」 「テロリストの攻撃かっ!」

 人々が騒然となる中で……一斉に全員の携帯電話が鳴り響いた。

「わわっ! はいっ! あ、警察本部長殿っ! はいっ! 判りましたっ! さっさと突入しますっ!」

 警察の上層部の直接の指示に警官達は一斉にトリニティ・タワーへと突入していった。




 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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