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本編 44 〜トリニティ・タワー 18 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……


 別のフロアで……

 不意に……瑠璃の聴覚センサーが異常を伝えた。

 視覚センサーの1つ、赤外線センサーが、パーティションの向こうの熱源を、通常光学センサーがその熱源のモノが持っているであろう銃器の銃口を確認する。

「……くっ! (ラミアは囮だったのかっ!)」

 警戒対象をラミアから正体不明の熱源にスイッチした時……天井が爆発した。

 いや、重火器から放たれたと思われる弾丸が天井を突き破り、降り注いできた。

 それは瑠璃3が4号機めがけて放った弾丸。それが数発、天井のコンクリートを突き破り、丁度、瑠璃と正体不明者が隠れるパーティションの間に降り注いだ。

 直後の衝撃音は4号機が屋上に落ちた音だろう。が、瑠璃と敵には判らないコト。

「……くっ!」

 正体不明者は弾丸による粉塵の煙幕に狙いを外し……直ぐさま次の行動に移った。が、瞬時に止め、床に伏せた。

 煙幕の中に突っ込もうかと考えたのだが、その煙幕の中からパイプ椅子が凄まじき回転で投げ込まれてきたが故に……

(……位置確認のセンサー兼即席パイプ椅子ブービートラップという所か? 何れにしても……)

 頭上を通り過ぎ、背後の壁にぶち当たり変形し、落ちる椅子。その様子から当たった時の衝撃を推し量る。

(……正面切って戦う相手ではないと言うことが判っただけでも収穫だ。ココは素直に……)

 素早く、パーティションに隠れ、装備を正す。

(……撤退してあげるよ。ナンバー24さん)

 そして……敵は姿を消した。


 数度に分けて位置を変えながらパイプ椅子手裏剣を投げつけ……瑠璃は敵がいたと思われる位置近くに移動した。そしてセンサーを研ぎ澄ます。……が、予測していた情報は得られない。

(心音……なし。赤外線反応……なし)

 手に持つパイプ椅子でパーティションを薙ぎ払う。四散するパーティション。そして……変形しきったパイプ椅子を奥へと放り投げる。

「……反応無し。既に撤退したようですね」

 ふぅと息を吐き(熱交換器からの廃熱を多めに排出し)、瑠璃はラミアへと歩み寄った。

 ラミアの触手は瑠璃が引っ張った時に少なからず損傷していたようで、ラミアは立ち上がれずに床に転がったままだった。

「ちょっと待って下さいね」

 瑠璃はラミアの身体に繋がったままの座金を……パイプ椅子を引きちぎり踏みつけたりして作った即席工具で外す。座金で隠れていた接続ユニットに砂漠のセットから伸びていた触手を繋げる。

「ん。やっぱり、サイズはそのままですね。別設計する手間を掛けてはいなかったのでしょうね」

 瑠璃の手によってラミアは数本の触手で危なげながらも立ち上がった。

『何故だ? 何故にワタシを解放する?』

「さあ? ……強いて言うならば今の姿が本来のアナタの姿……にはまだ触手がたりませんが……本来に近い姿ですから。さて? 確認しますが……ワタシと戦いますか?」

 ラミアは暫く考え込み(正確には自分のプログラムに残されていた命令を確認し……ゆっくりと応えた。

『戦うべき理由は見あたらない。先程の動きは遠隔操作によるモノと推測される。ワタシの中には命令は残されてはいない』

「では、これで。私は失礼させていただきます」

 一礼して立ち去ろうとする瑠璃をラミアが止めた。

『待て』

「何でしょう?」

『ワタシは……これからどうすればいい?』

 瑠璃は……暫く考えていたが、やがて微笑んで応えた。

「いかようにも。アナタは命令されていない。私と戦う理由もない。ならばこのまま留まっても構いませんし、何処かへ行かれても構いません。そうそう。私がアナタの記憶を引き継いだ場所へ行かれては如何でしょう?」

 ラミアは暫く考えていたが……赤外線信号で『了解した』と応えた。



「……しかし、何処にも誰1人いない。一体全体、どうなっているんでしょう?」

 瑠璃は1人で最上連結フロアの全室を探し回ったが、依然として人間は誰1人としていなかった。

「あ、瑠璃様。見つかりました?」

「誰もいません。変ですね。瑠璃10。アナタは誰かに出会った?」

「人間には誰も……。あ、テロリストには1人だけ出会いましたけど」

 テロリストは人間ではないのだろうか?

「テロリストだけ? ん〜人間がいないんじゃ話になりません。別のフロアに行って捜しましょう」

 ……テロリストは人間ではないらしい。

「あ、瑠璃様だ」

「御主人様は? 一緒ではないのですか?」

 その声が誰かと振り向けば……武装スタイルの2体のバニーガール。瑠璃30と瑠璃31だった。サブマシンガンのショルダーホルダーを伸ばし肩に担ぎ、何気にリラックスしている瑠璃31と、しっかりとサブマシンガンを小脇に構えたまま注意深げな瑠璃30。どこかしら……2体ともすっきりしているような表情なのは……何かあったのだろうか?

「瑠璃30に瑠璃31。アナタ達は……自宅謹慎のハズですが?」

 キッと眉尻を上げる瑠璃10の問い掛けに瑠璃30と瑠璃31は「あれ?」と一瞬、目を合わせ……記憶をサーチした。

「あ〜。アタシ達はチーフである瑠璃3の指示に従い、このビルへと突入しました」

 敬礼の仕草を戯けてしながら応える瑠璃31をちょっと睨み、そのまま視線を瑠璃30に投げる。

「はい。間違いなく、チーフである瑠璃3の指示に従い、このテロリストに占拠されたトリニティ・タワーに突入しました」

 瑠璃30は瑠璃31を軽く睨みながら真面目に応える。

「テロリストっ?」

「占拠されているって……どういうコトですっ!?」

 瑠璃30と瑠璃31は疑問符を頭に生やしたかのように小首を傾げ……確認した。

「御存知ない……のですか?」



「えぇぃっ! この瑠璃っ! 一生の不覚っ! 御主人様をロストしたばかりか、テロリスト達の手に渡してしまうとはっ!」

 怒りのオーラを撒き散らしながら瑠璃は手当たり次第に近くのドアを開け……いや蹴破りながら喚き散らす。

 ドアを蹴破るばかりかパーティションも手当たり次第に破壊し続ける瑠璃の姿は……有り体に言って破壊神。いや、破壊の女神。いや、壊れたブルドーザー(女性アンドロイド型)だった。

 その後ろで……呆気に取られて眺めているのは瑠璃10と瑠璃30、瑠璃31。引きつった笑顔で見つめていた瑠璃10達を不意に振り返って瑠璃は命じた。

「何をぼさっと見ているのですっ! 御主人様が何処にいるのか、若しくは何処にいるのか判る証拠を即座に捜しなさいっ! 御主人様に何かあった場合……アナタ達もライフル銃で粉微塵に破壊した後、私も後を追う所存っ! 判ったらさっさと捜しなさいっ! この大地よりも、あの太陽よりも長き刻に渡って存在し続けたければっ! それとも……? このビルと共に存在を終わらせますか?」

 意味不明ながらも瀑布の如く凄まじき気迫をぶつける。

「は、はいっ!」

「捜索を開始しますっ!」

「御主人様っ! 何処ですか?」

 瑠璃10達は直立不動になり、直後に捜索を始めた。

 しかし……ビルの総てを破壊してまでも見つけ出すつもりなのだろうか?

 ……え〜と。

 ビルのためにも早く見つかって欲しい。


「お探しの人はこのフロアには居りませんわよ」

 不意に……瑠璃達に声をかけたのは茶褐色のロングワンレングスの髪を片手でかき上げてサングラスを外した……美女だった。段ボールを乗せたカートを押しているのが奇妙と言えば奇妙。

「ご親切にどうも……どちら様でしょうか? そして御主人様の居場所を御存知でしたら教えていただけませんか?」

 瑠璃は丁寧ながらも気迫が感じられる口調で確認する。

「って、いうか何で知っているの? アンタもアイツらの仲間?」

 瑠璃31が挑発する言葉を美女はクスリと笑い流す。

「知っている理由は応える必要はないわ……ね? 問題は知っている情報をアナタ達が欲しいかどうかよ? どう?」

 相手も挑発し返す。

「それは教えて戴きたいと思っておりますが……ソコまで仰ると言うことは何か見返りでも?」

「見返り……そうねぇ……」

 美女は瑠璃達の反応をゆっくりと見渡し……時間をかけてから言葉を繋いだ。

「もし? 私がテロリストだった……ら? どうするのかしら?」

 瑠璃達は言葉を返さない。が、表情などはそれなりに動いたようだ。

 瑠璃は眉をぴくりと震わせ、瑠璃10はそっと白衣のポケットに指先を伸ばした。瑠璃30は指先でサブマシンガンのモードを連射へと変え、瑠璃31は肩に担いだままのサブマシンガンのトリガーへと指を伸ばした。

「……ま、テロリストと違うとだけ申し上げておくわ」

 クスクスと美女は笑ってすらりと長い綺麗な指先で床を指差した。

「ココは第4連結フロア。各種イベント用。一番下のフロアは銃器関係の法令解放区。ソコにいないのは……ソコの兎ちゃん達が確認しているはず。そしてその上の金融関係法令解放区のフロアはテロリスト達が占拠中。ソコには居ないわよ。アナタ達の所有者が居るのはこの下、第3連結フロア、ココと同じ各種イベント用だけど今は玩具関係の解放区になっているフロアね。ソコにいるはずよ。それで良いかしら?」

 問い掛ける美女に瑠璃は深々と頭を下げて礼を述べた。

「詳しく教えて戴きありがとうございます。できましたら……知っている理由もお教え願えませんでしょうか?」

 頭を下げたまま視線は美女を捉えて放さない。ゆっくりと頭を上げた今も……

「ふふふ。私はこの木偶人形御披露イベントのイベント・アドバイザー……とでもしておきましょうか? 当然ながら、アナタ達の所有者がMr.S.Aikiだと言うことも知っておりましたし? テロリスト達が占拠したことも知っている。Mr.S.Aikiが下のフロアに移動したことも把握しておりましたし、何事も起こらなければ? 私の部下がMr.S.Aikiをお迎えに行きましたわ? しかし、この事件が起こってしまい……私は今まで隠れていましてよ? それで……誰もいなくなったようなので彷徨っていたら……怪我人を発見しましたので……テロリスト達が占拠していないと確認できた荷役用エレベーターで下りようと思っていましたの。……という説明で納得して戴けるかしら?」

 不敵に笑う美女の説明に瑠璃は眉を顰めて聞いていたが……改めて深々と一礼してから確認した。

「それは失礼を。それで御主人様の場所を教えて戴いた礼は……何を? 護衛が御入り用でしたらこの瑠璃30と瑠璃31を……」

「必要在りませんわ。いまのアナタ達の反応を観察できただけで充分。……ですわよ?」

 一般人にはあるまじき言葉に瑠璃30と瑠璃31は銃を構えた。が、銃口を向けられる動きすらもショーを楽しむかのような微笑みのまま美女は言葉を繋げた。

「……もちろん。アンドロイドのイベント・アドバイザーとしての貴重な体験……という意味でですけど? それでも攻撃なさいます?」

「いえ。瑠璃30、瑠璃31。銃を下げなさい」

 瑠璃の指示に瑠璃30達は従う。美女を睨み付けたまま。

「では。ごきげんよう。皆様の御武運を祈っておりますわ」

 ひらりと踵を返しカートを押しながら後ろ姿で手をひらひらと振り、美女は立ち去っていった。


 美女の姿が消えてから瑠璃10は瑠璃に告げた。

「怪しいですね。あの段ボールの中は……心音と呼吸音の波長と振幅から私が倒した自称テロリストに間違いないんですけど」

「それでも……テロリストとは断定できないわ。できない以上は攻撃できない。仕方在りません。兎に角、御主人様の身柄を確保に向かいましょう。でも……『情報』が正確とは限りません」

「ではフロアを殲滅してからにしましょうか?」

 再び……瑠璃達はフロアのパーティションを破壊し始めた。

 いいのか? それで?



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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