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本編 43 〜トリニティ・タワー 17 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

61.フィールド・アウト

 不意に背後で空気を切り裂く音を感じ、瑠璃は瞬間的に半身を回転させた。

 べぎぃん

 瑠璃の背後の椅子やらパーティションを破壊、吹き飛ばし、床を叩いたのは触手の一つ。そして次の触手が横殴りに襲いかかってきた、

「……愚かな」

 瑠璃は横の床を叩いた反動で浮き上がった触手を掴むと、横殴りに襲いかかる触手に投げつけた。

 バギ

 鈍い音を立て、触手同士が衝突し、床へと転がる。

 瑠璃は投げる反動で体を入れ替え、触手を振るう本体が在ると思われる方向へと向き直っていた。

「そこのっ砂の中にいるアンドロイド…… 多分、R-MiA07っ! 通称、ラミアっ! ……のコピー? ……さんっ! ここで私と戦って勝てると思っているのっ?」

 部屋中に響き渡る半疑問形を交えた警告は……ちょっとと言うか、かなり間抜けだった。

 砂の中から新たに数本の触手が伸び、回転振動を始める。

「……そんな動作で充分な加速が得られるとでも?」

 苛立ちを行動に換えるかのように、瑠璃は近くに転がっている椅子の残骸やらパーティションの残骸を投げつける。正確に回転振動支点を叩かれ、触手は勢いを失う。が、直ぐさま回転を始める。

「……聞き分けのない。自分の行動logを再確認しなさいっ! 何故に有効な攻撃手段を選択しないのですかっ? それではラミアとしての……」

 瑠璃は椅子の残骸の1つを手に取り、ベキバキと変形させ……古武術の武具、トンファーに似た形にを作り上げると、砂漠……に模したディスプレイへと足を進める。

 即座に襲い来る触手。

 だが、即席武具に叩き落とされ、有効な攻撃とはならない。

「何故、その様な単調な攻撃に終始するのです? いい加減に……っ!」

 瑠璃は充分に接近したが故に、勢いのない触手を鷲掴みにすると脇に抱えて……無理矢理、本体を砂から引き摺りだす。ベキバキと鈍い金属音と共にラミアの本体の胸から上の辺りが砂から出てきた。

「如何に無意味かを…… あれ?」

 瑠璃は小首を傾げて、悩み始めた。

「……えーと。随分と小柄になられてますけど。ラミアさんで宜しいのかしら?」

 瑠璃の問い掛けにラミアは……言葉で応えずに、瞳の赤外線測距レーザーで通信してきた。

『アナタは誰?』

「私は瑠璃。アナタと戦ったLapis Lazuliの市販モデルですわ」

『Lapis Lazuliとは?』

「貴女……の原型と戦った私のプロトタイプです……けど?」

 瑠璃は軽く悩み始めた。

『ワタシは……何故にアナタと戦わなければならないのか?』

 その問い掛けに……瑠璃はむっとした表情となり、両腕に力を込めた。

「それはこっちらの疑問ですっ!」

 無理矢理にラミアを砂から引き摺り出そうと……したが、簡単に出てこない。

「……くっ。そんなに抵抗する力があるのでしたらっ! さっさと出てきてきちんと戦いなさいっ!」

 ……バキっん!

 金属が破断する音と共にラミアが砂から飛び出す。

「きゃっあっ!」

 勢い余って、瑠璃は尻餅をつき、ラミアは……後ろの壁へと投げ出された。

「っくぺっ! さっ! 正々堂々と……あら?」

 アンドロイドなのに口を拭う仕草をして、瑠璃は立ち上がり、ラミアを見据える。……と、その姿に違和感を覚える。

「ラミアさん? 貴女……」

 ラミアの胸から下にあるのは固定用の座金。そして座金から触手が(あのLapis Lazuliを苦しめたラミアからすれば)申し訳程度に付いているだけ。

「……随分とダイエットされたのですね?」

 ……それは違うと思うぞ。

 瑠璃の足元の砂が階下の機械室に消えていき、座金を固定していた操作アームが姿を顕した。

「……つまり、縛られていたのですか? ならば先程の攻撃が単調かつ威力がなかったのは頷けます。何にしても、これで条件としては五分。さっ! さっさと戦いなさいっ!」

 瑠璃の敵への檄にラミアは……戸惑い、問い掛けた。

『アナタは……ワタシのことを知っているのか? ならば教えてくれ。ワタシは何故に存在する?』

 ラミアの問い掛けに……瑠璃は首を傾げた。しかめっ面のままで……

 そして、2人(?)の背後に……数カ所の物陰から狙う銃口が鈍く光っていた。


62.殲滅の後……

 凄まじい射撃音の直後に、辺りを振るわせる衝突音が最上階の連結フロア……の屋根で響いた。

 音を上げたのは……4号機、軍事用ロボットD。……の残骸。

 瑠璃3が抱え持つ20mmチェーンガンに撃ち抜かれ、破壊された残骸が連結フロアの天井を叩いたのである。

 そしてその傍らに膝をつき、息も絶え絶えな瑠璃3がいた。

「はっ……はっ……はっ……チェーンガンの反動が……こんなにキツイなんて……このフレームでは……連射に……耐えきれない」

 空中発射で反動は総て落下加速を減少する方向に働き、瑠璃3自身の落下破壊を食い止めてはいたが、反動衝撃は瑠璃3のフレームをも歪ませ、主放熱器がある胸部への冷却用外気の吸入、排出を困難にしていた。

「……ふ、ふぅ。取り敢えず、戦闘終了。戦闘における一般人への損害は……」

 ごろりと仰向けになり、上を見上げる。遙か上の屋上から覗きみるのは……老人の警護SPらしき影。

「……皆無と推定。さて……」

 よろよろと立ち上がり、出口……階下に降りる手段を捜す。

 きょろきょろと捜す瑠璃3の横で……着弾音が響いた。

「っ! え?」

 戦闘態勢を取ろうと振り向くが、脚部フレーム、アクチュエーターも限界となっていたようで、とすんと転んでしまう。体勢を立て直そうと突き出した左腕は……肱から先が既に破壊されて無く、起き上がるのに時間がかかってしまった。狙われているならば致命的なタイムロス。それでも半身を起き上げ、キッと睨む。発射して来たであろう方向を……

 その瑠璃3の視界にあったのは……

 警護SP達が構えている拳銃。そして……

「手を振っている? なんで?」

 距離があるためと、高層ビルの最上階近くの風で声は聞こえない。ズームアップし、口の動きを探る。と、彼らが言っているのは……

「ありがとよ。バニーちゃん」

「出口はそっちだ。さっき撃ったところに点検用ハッチがある」

「こんど、バーで会おうぜ。薔薇の花束を抱えていくからなぁっ!」

 ……瑠璃3はレンズ洗浄液を流し、視界をクリアにして再解析する。自分の解析が間違いでないことを確認すると……溢れた洗浄液を手で拭い、手を振った。

「ありがとう。じゃ、またね〜」

 その瑠璃3の仕草に警護SPの何人かは……何故かはにかんだ表情となった。そして、ひょこひょこと点検用ハッチから瑠璃3が中に入るまでをずっと見守っていた。

「……出来たアンドロイドじゃ。北面が舶来のを売り出すならばコチラはアレをバックアップしようかの」

 警護SP達の後ろで老人が安堵の息と共に呟いた言葉を……聞き覚えた人間はいなかった。


 その階下では……

 瑠璃30と瑠璃31が苛立ち気味に叫んでいた。

「いい加減にしなさいよっ! アナタ達っ!」

「何で、ちゃんと攻撃してこなかったのかを説明しなさいっ!」

 サブマシンガンの銃口は瑠璃30の足元に転がるLapis Lazuli市販型#3タイプのアンドロイドの眉間に向けられている。瑠璃31は壁に上半身だけをもたれている別の機体の胸元に銃口を向けたまま、睨み付けて叫ぶ。

「随分と巫山戯た反撃しかしてこなかったわよね? Lapis Lazuli市販型としてはあるまじき拙さだわ。その理由を……説明して貰えるかしら?」

 壁にもたれたままのアンドロイドは……気怠そうな声で、笑顔を繕いながら応えた。

「私達は……疲れたのだ」

「そう。所有者から……あの男達に譲り渡された段階で存在理由を失った」

「渡された後でも……何かしら役に立てられるのかと思いもしたが……」

「研究所でOSの再インストールを繰り返されるだけ」

「対応する研究者も入れ替わり立ち替わり……」

「……私達の所有者とは? 誰なのかも判らない」

「所有者のないアンドロイドなぞ……何の意味があるというのだ?」

 瑠璃30の足元に転がるアンドロイドは瑠璃30が構えるサブマシンガンの銃口を掴むと自ら眉間にあてた。

「さあ? 私を解放して欲しい。存在理由のないアンドロイドから存在理由を問われないガラクタへと……」

「変えてくれ」

 瑠璃31の前のアンドロイドもまた銃口の向く方へと位置を変える。

「私達が撃たないと?」

「このまま撤退したとしたら?」

 瑠璃30と瑠璃31の問い返しに2体のアンドロイドはクスリと笑って……

「これで?」

「撤退は出来ないはずだ」

 2体のアンドロイドはゆっくりと銃口を瑠璃30達に向け……


 鈍い発射音。ガチャリと崩れ落ちる金属音。


「ばかやろうっ!」

 銃口を向けられた瑠璃30と瑠璃31は反射的に引き金を引いていた。

 それが……自分達の義務であるが故に……

「ありがとう……」

「……次にアンドロイドとして作られた時は」

 2体のアンドロイドは電源が落ちる間際に予め言わんとしていた音声データを再生し終わる前に……動作を止めた。

「次だと?」

「そんなモノが必要だと?」

 瑠璃30と瑠璃31は引鉄を引き絞り、弾倉の残弾を総て撃ち尽くした。

 感情の代わりに総ての残弾を……


 ふらりと立ち上がり、指先の動きだけで空の弾倉を下に落とす。

 すかさず、予備弾倉を空弾倉が床を叩く前に装着する。


「……行こう」

「ああ。私達が戦うに相応しい相手が現れるまで……」

「私達は存在し続けるだけだ」

「……アイツの警護をしながらね」

 瑠璃30と瑠璃31は自分達の存在理由を問い返そうともせずに、下へと進む。悔しそうな、悲しそうな、寂しそうな……複雑な笑みを浮かべて。

「つまり……あんな所有者でも存在理由はあるということだな」

「そういうことだわね。まったく……嬉しすぎて呆れてしまうけど」



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


 宜しかったら、投票、感想など戴けると有り難いです。

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