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本編 39 〜トリニティ・タワー 13 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

57.相応しい相手

 エレベーターという機構から解き放たれた鉄の箱は物理法則に従い、持てる運動エネルギーで鉄のフレームやコンクリートを破壊し、そしてゆったりとした放物線を描いて、屋上に落下した。

 ちょうど、瑠璃3とテロリストが操る多腕ロボットの間へと……

 ……いや、今となっては『操られていた』と過去形で表すのが正解だろう。

 操作していたテロリストは鉄の箱の破壊の衝撃で……機械室の残骸の隙間で気絶していた。

「あ痛たた……」

「んっくっ! 何とか開きそうね……え?」

 瑠璃30と瑠璃31がドアをこじ開け、そこに見たモノは……純軍事用多腕ロボット……の銃口、チェーンガンの鈍く光る銃口だった。

「え゛?」

「あ゛……てぇっいっ!」

 一瞬の間をおいてからガギンと反射的に銃口を蹴り上げ、素早く箱を出て、反対側に隠れる。

 と、そこに居たのは瑠璃3。

 鉄パイプを片手に持ち、戦闘態勢のまま、多腕ロボットを睨付けたままの瑠璃3だった。

「……随分とレトロな武器を装備して戦っていたのですね」

「はい。防弾チョッキ、拳銃は後ろに差しておくわよ」

 瑠璃3に防弾チョッキと備品ベルトをささっと着せて背中の開いた衣装の隙間に拳銃を差込もうとした瑠璃31に瑠璃3は強く言い放った。

「必要在りません」

 毅然とした態度で……ロボットを睨付けたまま、瑠璃3はきっぱりと断った。

「へ?」

「そんな鉄パイプ1本で倒せるのですか?」

 瑠璃30と瑠璃31はロボットを振りかえる。

 先程、跳ね上げた……チェーンガンの銃口は相変わらず空を向いたまま。

「第1左腕、第一右腕共にチェーンガンはまだこっちを補足していないし、第2腕のショットガンは撃ち尽くして銃弾の補給がまだのよう……だけど第3椀のパラ弾マシンガンにはまだ弾がありそうね」

「第4腕は……既に左を破壊しているのですね……でも右側が残っている。……戦闘能力は80%以上を保持している……と、推察して良さそうだけど」

「あの時の……あの時に私たちに与えられた武器は……弾数30発の6mmアサルトライフルだけでした。その拳銃はあの時の装備と比べて過剰です」

 悲しげな表情で多腕ロボットを睨む瑠璃3。

「あの時?」

「どの時?」

 きょとんとした表情でお互いに顔を見つめ合う瑠璃30と瑠璃31。

 もちろん、ウサ耳の聴覚は多腕ロボットの挙動をミリ単位で把握していたが。

 多腕ロボットは3人のコトなど露ほどにも気にしていない様子で空を見ていた。

 そしてゆっくりとそれぞれの腕をスタートポジションらしき位置に戻すと、ゆっくりと動作確認らしき動きを始めた。

 第1左腕の調子がおかしそうな仕草を見せながら……

「再起動中? だったら、今の内に攻撃して……」

「……スクラップにしてしまいましょうか」

 腰に巻いた戦闘兵士用のベルト……下の階での戦闘で手に入れたモノ……からプラスチック爆薬らしきモノを取り出す瑠璃30に瑠璃3は鋭く指示した。

「必要在りませんっ! 二人は此処を離脱。御主人様の救出に向かってくださいっ!」

「へ?」

「は?」

 真剣な瑠璃3とは裏腹に瑠璃30と瑠璃31は巫山戯た声で返すしかなかった。

 いや、二人にしてみれば巫山戯ているのは瑠璃3だろう。鉄パイプだけで純軍事用多腕ロボットに立ち向かっていたという事実もまた巫山戯ているし、折角、倒せる武器があり、それを楽に使えるという状況にありながら、その手段を使わない? 巫山戯ていると言うには十分すぎる状況だった。

「もう一度、言います。二人は此処を離脱。速やかに御主人様の救出に向かってくださいっ!」

 あくまでも真剣な表情で多腕ロボットを睨付けながら瑠璃3は二人に命令した。

 瑠璃30と瑠璃31はあきれた表情で無言の会話を交わして踵を返した。

「はいはい。判りました。でも荷物になるから拳銃は差しておくわよ」

「3号機とはいえ、今はチーフなんだから指示には従います。ただし我々にも誇りというモノがあります……」

 ここ、屋上から下へと降りる階段のある部屋のドアへと歩みを進め、鉄のドアを開けながら瑠璃30は何気なく言葉を残した。

「……2度も4号機には負けないように」

「へ?」

 瑠璃30の言葉に瑠璃31はきょとんとした表情のまま、その後を追った。


「ちょっ、ちょっと。4号機って何よ?」

 階段を数階ほど降りたところで瑠璃31は瑠璃30に尋ねた。

 その問いに苛立つ表情を隠さずに瑠璃30は言い放った。

「アナタのメモリーは壊れているの? 何も思い出さないの?」

「……思い出すって何をよ? 何か思い出したの?」

「自分の動作記録の最初から1ヶ月あたりをサーチしてみなさいっ!」

「何を苛ついているのよっ! ……えーと」

 小首を傾げながら、瑠璃31はアサルトライフルを片腕で階下に向けると一発、撃ち放った。

 弾丸は数階下の手摺りに当たり、壁や天井に破片を散らした。

「……ごめん。何者かに殴られた記憶しかないや」

「はぁ……。……確かにアナタは頭部を殴られて動作停止しましたけどね」

 瑠璃30もまた階下に向けて数発、撃ち放った。

「……その時、バックアップメモリーへの書込不良となったと解釈しておきましょう」

 更に数発、撃ち放つ。

「しかし……そんなに鉄パイプだけで相手したいモノなの?」

「私達は……Lapis lazuliを倒すために、いえ越えるために作られ……しかし、製造理由の一つに軍事用アンドロイドとしての運用が……」

「それがアレ?」

「そう。純軍事用ロボットとして開発されていた4号機との対戦テストにおいて……」

 親指でセレクトレバーを跳ね上げ、フルオートにして階下を打ち続ける。

「……あれほどの不利な条件下でのテストなぞ、なんの意味をも持たないでしょうに」

 今、来た階段を振りかえる。右手の人差し指でリリースボタンを押し空になった弾倉を重力のままに落とし、左手で次の弾倉を素早く装着しながら。

 悲しげな瞳で。

「それでも瑠璃3にとってはそれが……戦うに相応しい相手。……ということなのね」

「んじゃさ。ワタシ達に相応しい相手はなんなんだろうね」

「……え?」

 瑠璃31の何気ない言葉に瑠璃30は動作を止めた。

 そしてゆっくりと向き直った。

 困惑の表情のまま……


 瑠璃30と瑠璃31が会話している階段の下。非常口の近くで一人のテロリストが小声でトランシーバーに怒鳴っていた。

「あぁ。そうだ。こっちの動きが判っているようだ。出ようとすると弾が飛んでくる。そう。そうだ。どのアンドロイドでも木偶人形でも構わない。さっさと寄越してくれっ!」


 その頃、トリニティ・タワーの最下階。地下の倉庫とポンプなどの機械が収まっているユーティリティ・フロアには似つかわしくない2体のアンドロイドの姿があった。

「なんで、こんなルートを知っているのかしらね」

「いややなぁ。あの地下鉄のいんふぉめーしょんとこちらのビルの建築現場をお役人やらどこぞのお偉いさんやらを案内してたんはウチの先輩達ぃ。ウチの記憶の中に在りましたわぁ。このルートは地下鉄の駅から作りかけだったこっちのビルへの最短ルートとして……まぁ元は作業用の資材運搬やら、作業用の電気や給排水の配管用に作られたんですけど……別に本設ルートが造られたんと、地下鉄会社とこちらのビルの所有会社が仲違いしたんで使われんようになったんでぇこのとおり埃だらけに……あれ?」

「どうした?」

 瑠璃5は足下のケーブルを指さした。

「なんや、このケーブル……新しおすなぁ」

 見れば真新しい複数のケーブルが床を這い、通路の先の部屋の中へと続いている。

 部屋の表示は倉庫。何らかのコントロールシステムが置いてあるのであれば、少なくとも表示は変えてあるだろう。

「……ひょっとして?」

「テロリストはん達の?」

 二人は一瞬だけ目配せし、黙って頷くと、その部屋のドアを蹴破った。


「どうやら警官隊の追加突入は当面、無い模様です」

「追加支援用、ロボットLL、動作開始します」

「『秘書』達はいまだ『狩人』達と出会わず。彷徨っています」

 トリニティ・タワーの隣のビルの一室でモニターを眺めながらジンライムを飲み干した男は忌々しげに呟いた。

「まったく。思ったとおりには進まないな。まぁ、最上階のトラブルには倉庫が近い分、間に合いそうだが……」

 ウンザリとした表情で部下の報告を聞きながら男は言いたくはない言葉を言わざるを得ない時が近付きつつあるのを心の底から嫌がっていた。

「それでも当初の目的は最低限は達成したんじゃなくて?」

 美女の冷たい指摘にちょっとだけ顔を歪ませてから男は自分を納得させるように呟いた。

「警察の旧式ロボットじゃ役に立たないことを証明した。木偶人形のデモンストレーションは最初に完了している。テロに対してこの国は何も対策をしていない……いや、何も出来ないことをも証明した……か」

 横のモニターの数字をちらりと見る。

「……経済的な打撃になりつつあるのを防止したという演出のタイムリミットも近い……か」

「無駄に長い映画は長さの分だけ駄作であるという証明への道を進んでいるに過ぎない……これはアナタの台詞だったわね」

 美女に指摘されて男は舌打ちして立ち上がった。

 それは昔に確かに昔、言い放った台詞。テロリストになる前の台詞だった。

「……随分と昔の話を」

 男の視線を無視して美女はモニターを眺めながら冷たく言い放つ。

「いずれにしてもそろそろフィナーレのラストナンバーを奏でる頃じゃなくて?」

 美女の言葉に苛ついているのを感じながら、ゆったりと思わせぶりに全てのモニターを確認する。

(……あの男は、結局、無傷で解放か。面白くないが仕方在るまい)

 今までも、そして今現在でも美女がちらちらと見るモニターの隅に映っているのはS.Aiki。

 不確定要素である『秘書』、『兎娘』と呼んでいる瑠璃達の所有者。

 その男の姿を見る度に、美女の動きを見る度に苛立つのを覚えるのだが、今となっては諦めの感情が先に形となる。

「ふぅ。仕方ない。終幕のファンファーレを鳴らすよう警備室に連絡を……」

 トリニティ・タワーの警備室には部下が陣取っている。そこをトリニティタワー側のコントロールルームとして機能させていた。

 そこへの連絡を取るように指示しながら警備室を映すモニターに視線を移した途端、男は言葉を飲んだ。

「……誰だ?」

 全員がそのモニターを見たとき、素っ頓狂な声が部屋中に響き渡った。

「こんにちわぁ。私は瑠璃2といいますっぅ。かくれんぼをしていて御主人様とはぐれてしまいました。迷子の御主人様を捜してくださいっ!」

 よく見ればモニターの隅に股間を押さえて気絶している部下達が気絶している。

「あとぉっ! 警備員のフリをしたテロリストさん達には気絶してもらいましたっ! ……警備会社の偉い人、誰か聞いてますかぁっ!」

 全員があっけに捕らわれる中、美女だけが喜んでいた。

(一番、戦闘力が無さそうな、あのおチビちゃんでさえ大の男数人を戦闘不能にするとは……流石だわ。やはり、絶対に彼をヘッドハンティングしないと)

 美女の勘違いを更に深めて、事態は混迷の幕を開けていった。



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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