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本編 38 〜トリニティ・タワー 12 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

56.拡散する舞台

「んくっ! どうして開かないのよっ!」

 その頃、トリニティタワー第四展示場の一室、とはいっても倉庫の中の小部屋で瑠璃10がドアノブと格闘していた。

「……んっ! ふー。なんか、溶接したように固いですね……ひっ」

 ばべきっぃいん……

 瑠璃10が思わず引いたのは背後から瑠璃が攻撃(?)したが故。そして正面蹴りで繰出されたハイヒールは見事にというかあっさりと鋼鉄製のドアを圧し曲げて……どうやらロックをも破壊した……いや、外したようだ。

「……正当な理由なく閉じ込めようとは……テロリストの仕業と……」

 まるで地獄からの使者のような総てを威圧するかのような眼光を放つ瑠璃を瑠璃10はなんとかなだめようとした。

「ま、まぁ……落着いて下さい。テロリストの仕業というよりは何かの拍子にドアロックが働いただけかもしれませんから。ほら、今回のイベントでビル全体が厳重に警備されてテロリストなんて忍び込むはずもないじゃないですか……ね?」

 引きながらもなんとか説得する。

 とは言え……既にこのビルはテロリストの巣窟と化しているのだが。

「……そう? でも、こんな仕打ちは……」

「まぁだ決まった訳じゃありませんからっ! 兎に角っ!、外に出て聞いてみましょう」

 瑠璃をなだめながら、瑠璃10は変形したドアを無理矢理に押し開け、部屋の外に出た。……が、そこはまだ倉庫の中。

「……あ゛。あ、……まぁ、あのドアがロックされているなんて……ね?」

 聞かれるともなく応えながら瑠璃10は外へと通じるドアのノブに手をかけて……次の瞬間、動作が止まった。

(あ゛、あ、ぁ、……開かない)

 止まったまま笑顔を作り、振返る。冷たい視線の瑠璃が次の動作……つまりはドアが開く事を待っている。

「あ……」

「開かないのですか?」

「ちょぉっとだけ……お待ち下さい」

 眼は笑いながらも両手をドアノブにかけて、掌と腕のアクチュエーターの出力を上げて行く。

 べぎぃん

 鈍く響く金属音を残してドアノブは引き千切れた。というか破壊された。

「あ、あれー。変ですね。随分とやわなドアノブ……」

 ばぎぃいぃぃん

 取繕うとする瑠璃10の言葉をも蹴散らすかのように瑠璃の側面蹴りがドアをあっさりと蹴破った。

「……あ゛ら゛?」

「ドアノブが壊れた以上、もっとも簡単に開ける手段は蹴破る事です」

 ……そうか?

「兎に角、御主人様を捜して来て下さい。私は主催者に状況を確認してきます」

「は、はい。了解しましたぁっ!」

 逃げるように瑠璃10はホールへと向かう瑠璃とは反対方向へと捜しに行った。


「……呆れたな。自ら箱を壊して出てくるとは……」

「で? どうするの?」

 美女は醒めた声で男に尋ねた。

 美女の声の調子に少しだけ眉を顰めて男は応えた。

「……どうしようかな?」

 別のモニターに眼を移す。そこに映っているのは非常階段を登る瑠璃30と瑠璃31。銃器展示フロアから拾ってきたバックには倒した小隊の装備を詰込み、肩には同じく奪ったアサルトライフル。手にはサブマシンガン。完全装備状態で警戒しながらゆっくりと登っている。もうじきに銃器展示フロアの上の階のエレベーターホールに辿り着く頃だ。

「『世論形成』には未だ早そうだから……時間は在る。だが、臨機応変に対応するためには割ける時間は少なさそうだ。兎娘達が辿り着くまでの時間も予想以上にかかりそうだ。ならば……」

 部下に指示を出す。

「『ロボットL』の動作開始。客は兎娘達から『秘書』変更。丁重に出迎えるように。操作は任せる。ついでに兎娘達の進路を遮断。エレベータへ導け。到着地をセカンドフロアに変更。セカンドフロアの連中にロボットで出迎えるように指示。接待時間を短縮をしておこう」

 指示された部下は……その顔に破壊衝動を隠さずに顕した。……邪悪な笑みを。

「……壊すの?」

「さあ? 性能的に如何なのかは知らんが、あの『踊り子』のコピーだからな。丁重に出迎えるだけさ」

 踊り子……それは対テロ用アンドロイド・コンペでの作戦で優勝アンドロイドであるLapis Lazuliに付けたコードネーム。

 美女は……その言葉を使う男に、言葉にできない不安を感じ始めた。

「『踊り子』……ね」

「……どうした?」

「別に……。で? 白衣のコの方は?」

「あのコも対テロ用アンドロイドには違いないからな……。戦闘能力としては不明確だが。……ま、最後列で『的』にありつけないとぼやいているヤツラに『的』として提供しよう」

「兎娘達は?」

「彼女達は武器を持っている。部下を差し向けるには無謀だ。例えポーンといえども無駄にはしたくない。予定通り……」

 男は一角のモニターを指差した。

「……あのロボットのどれかが倒してくれるだろう」

 そのモニターにはロボットの名前が待機フロアと動作状況を示す記号と共にリストアップされていた。

「……第4フロアのロボットDが『交戦中』とあるけど?」

「ん? あぁ、さっき当初の『的』を見つけたとの報告があった。『処理』しているんだろ?」

「……その場合は『FA』のはずよ。『CA』になっているわ」

「ん?」

 男は美女の疑問に応える事ができず、モニターに視線を移しながら、その状況となる可能性を考えた。

「あのエリアの監視カメラ・システムは乗っ取るコトが出来なかった。……ロボットDのオペレーターは……A9だったな? 呼び出して状況を確認しろっ! すぐにだっ!」

 男の鋭い指示は……作戦の綻びを部下達に感じさせた。

 美女は……やっと自分が感じている何かを男が感じ始めた事に少しだけの安心感を憶えた。それが……危険な兆候である事を充分に認識をしながらも。

「……ところで」

「何だ?」

「兎娘達は? 何処にいるの?」

「アイツらはこちらでコントロールしている。今頃はフル・リニア・エレベータで……ん?」

 モニターに目をやる。エレベーターは予想していた挙動をしていない。予定したセカンドフロア、第2連結フロアを通り過ぎ、最上階へと向かっていた。

「何だ? どうしてあのエレベーターは勝手に動いているっ!?」

 部下に尋ねる。苛立つ感情は隠されずに声色に現れている。

「判りませんっ!」

「判明しました。……どうやら機側操作盤が動作していますっ!」

 部下の言葉に耳を疑う。

「直接操作している? どうやって?」


「何でそんなモードを知っているんだか」

 エレベータの中で点検リッドを開けてエレベータの動きを直接操作している瑠璃31の横で瑠璃30は壁の落書きを一瞥し、武器を点検しながら尋ねるともなく話しかけた。

 持ってきたのは拳銃2丁にアサルトライフル。襲撃してきた小隊が持っていたモノをそのまま拝借している。腰に数本、巻いているベルトの装備品も小隊のモノだ。だが、身につけている防弾チョッキは展示場にあったモノだ。腕に抱えて余分にあるのは瑠璃3の分だろう。

「それだったら、さっきの防煙扉も開けて欲しかったわね」

「アレは操作盤がないから無理。んで、コイツを操れる理由は、この前、瑠璃5からデータ貰ったからヨ」

「なっ!?」

 瑠璃31の言葉に瑠璃30は気色ばんだ。

「アナタには誇りはないの? あんな受付嬢だか看護アンドロイド上がりのモノからデータを貰うなんて」

「誇りなんかよりも実用よ。実際、探偵関係のデータは役に立つワ。これで第4展示フロアを通り過ぎてから……」

「……ったく。きゃっ!」

 瑠璃30が驚いたのは急にエレベーターが減速したからだった。

「何? どうしたのっ!」

「ふーん。電源を落としたみたいね……でも」

 再び、エレベーターは減速から一転して加速し始めた。

「……どうしたの?」

「これは災害対応に設定されている箱なのよ。ブレーカーを落としても2重化された電源が復帰して……あれ?」

 笑顔が凍り付いた瑠璃31を見て、素早く防御姿勢を取りながらも、念のために尋ねた。

「どうなったの?」

「……制御不能。こっちのブレーキも効かなくなった……というワケね」

「なんでよっ!」

「そういうのをぶっ壊して制御を乗っ取ったからよっ!」

「ちょっとは後先、考え……」

 反論しようとした瑠璃30の言葉をアラームが遮った。

「モーター制御不能。速度超過。制御不能。天井に衝突します。警告します。衝突します。対処してください。警告します。対処してください。10……9……8……」

「どんな対処があるっていうのよっ!」

「人間達の無駄な警告サービスでしょっ!」

「ロケットランチャーで天井を破壊してっ!」

「そんなのがあってもミスファイヤになったらどうするのよっ!」

 訳のわからない言葉を言い合いながらも、防弾チョッキで頭部をカバーして踞る。

 直後にエレベーターはシャフトの上部に突き刺さり……突き抜けて……屋上に落下した。


 その少し前。

 瑠璃3は屋上でへたったままで朧気に階段の方を見ていた。

(あ……。あっちにも出入り口があるんだ)

 パラパラとはためく音が聞こえる。

(ん? ……ヘリか。……非武装だな。報道か……警察か……な?)

 体内温度が低下し、熱暴走が収まりつつあるとき事態が急変した。

 急にドアが開き、中からサングラスの男達がバラバラと飛び出してきた。

(なッ!? テロリスト? いや……)

 疑問は直ぐに解けた。

 男達が見知らぬ老人を守るようにして背後や周囲を警戒していたから。

(護衛? SP? あの御老人は……今日のイベントに呼ばれたVIPの誰か?)

 護衛達はちらりとこちらを見たが、相手にせずに物陰……エンジン辺りが煤で黒く汚れ、動きそうにもないヘリがあるヘリポートへの階段へと御老体を導き、そして、今出てきたドアに向かって拳銃を構えた。

「な、に? 何が? え゛っ!」

 瑠璃3がまた゛熱暴走気味にあたふたとしているときに……ドアの向こうで何かが爆発し、『敵』が現れた。

 ……それは多腕多足のロボット。その多くの腕自体が何らかの銃器。

 紛れもない純軍事用ロボットだった。

 そして、いつのまにか真上に降下してきたヘリを一撃で打ち落とした。

(アレは……間違いないっ! 20ミリチェーンガンっ! つまりはテロリストのロボットっ!)

 反射的に飛び散るヘリの部品、鉄材を拾い上げると……果敢にも向かっていった。

「アナタをテロリストの手先と断定しますっ!」

 丸腰で。銃器の固まりのような純軍事ロボットへと。


「ああ、そうだ。『的』を見つけた。というか追いつめた。いや、追いつめていた。あぁ。そうだ。缶詰にならずに上に居た。アンタの読み通りだ。もう少しで仕留める所だというのに邪魔が現れた。どんな?って? 一言でいえば……バニーガールだよっ! ぅわっ……。ふぅ。判ったろ? 取込み中だ。後にしてくれっ!」

 男はインカムのスイッチを素早く切ると、『的』に集中した。

(ったく。ヘリを壊して逃亡不可能にしてエレベータへ追い込み、それごと叩き落とすというのが最初の作戦だろう? 箱には乗ってないというのはどういうコトだ。替わりのヘリが来るの見越してこのガラクタを上の方に配置しておいたというのは正解だろうがな。……しかし。一体……)

 読みは合っていた。

 『的』は最上階のウェイティングルームに潜んでいた。そいつを見つけ出したのが数分前。そして屋上へと追い込んだ。迎えのヘリは既に撃ち落とした。

(四散した破片で油断した。……それだけだ。それだけだっ!)

 正体不明のバニーガールに反撃されている。

(しかし、どういうコトだ?)

 そのバニーガールに外部カメラやセンサーを2、3台壊されて制御がおぼつかない。

(いや、コントロールは確かだ。だが……視界が……コレでは……)

 物陰から……屋上へと繋がっている機械室の中からディスプレイゴーグル越しに見る景色。ノイズが入り、バニーガールを見失う。

 いや、見失わなかったとしても素早いステップで距離も座標も把握出来ないような動きで近づいては鉄パイプで攻撃しては、こちらの反撃を素早く交わしては死角へと移動する。

 その小癪なまでな動きに腹立たしさを募らせていく。

(護衛達の拳銃弾はこちらのロボット……軍事用に開発された戦闘ロボットには何の驚異ともならない。分厚い装甲の前には雨粒のようなモノだ。だが……)

 愚直な物理攻撃、鉄棒で殴られるということが本体には影響なくともレンズやセンサーには致命的なダメージとなるとは。

(遠隔操作のロボットにとしては欠陥品だっ!)

 自分の中の誰かが冷静に囁く。

(……だから開発中止になったんだろうがな。このガラクタはっ!)

 男は冷静になり、インカムのスイッチを入れて指示を仰いだ。

「こちらA9。……正体不明のバニーガールに攻撃されている。11ミリパラじゃもどかしい。チェーンガンの対人使用を許可願いたい。死亡確認? そんなモノは後で警察がしてくれるさ」

 相手の返事ににやりと笑う。

「ああ。当然、当たらないように配慮はするさ。流れ弾が飛んでいかないように祈っていてくれ」

 インカムのスイッチを切り、心の中でほくそ笑む。

(そうれっ! 紙くずみたいに壊れちまいなっ!)

 コントローラーの裏側の赤いスイッチを入れた瞬間。

 後ろの壁が爆発した。

 それはエレベーターシャフトから飛び出した鉄の箱。瑠璃30と瑠璃31が乗っているエレベーターがシャフトの天井もろとも機械室の壁をも壊した瞬間だった。


 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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