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本編 36 〜トリニティ・タワー 10 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

54.ファーストアタック

 最初にフロアに現れたのは、3人の男達。その後ろから2人。別々の方向へと移動し、また1人がフロアへと現れた。……警戒しながらも手慣れた雰囲気を漂わせているのは手練れの証拠。

(……なんかヤバイ雰囲気ね)

 瑠璃30と瑠璃31も皮膚は防弾シリコン。しかし、サブマシンガンの弾ならば兎も角、アサルトライフル弾には無防備に近い。そしてサブマシンガンにしても乱射されたのならば防ぎきれずに損傷することは容易に予想できた。しかも相手は6人……いや、今、フロアに現れた1人を入れると7人。手練れともなれば瞬時に多方向から攻撃して来るだろう。立向かうには余りにも無謀だ。

(せめて……ちょっとは油断してくれないと……)

 だが、その希望は叶えられそうにはない。ショーケースや衣装展示コーナー等の死角を配慮して少しずつ、確実に的を探しだすフロアの移動を見ても完璧なフォーメーションで隙なぞ微塵も感じられない。

(……うーむ)

 フロアの様子を窺いながら瑠璃30が悩む。

(銃は……ショーケースの中が殆ど。試写室にあるヤツは使えるかも知れない。しかし、弾が残っているかは……まぁ無理ですね)

 昨日も弾薬は別の場所から持って来た。それは……銃があっても弾薬が無ければ役に立たないという初歩的な危険回避の管理方法。ショーケースの中の銃も同じ。弾薬は近くには無いだろう。弾の出ない銃なぞ鉄の塊に過ぎない。

(鉄の塊を投げても……一人は倒せても……全員は不可能ですね)

 瑠璃31は何か武器は無いかと今居る倉庫を見渡す。

(段ボール……金属棒……陸帝……は壊れているかも知れない。期待は……)

 実際、スグにでもエンジンがかかればスピードで撹乱できるかも知れない。しかし……

(……駄目だな。からなかったら無意味だし、音が出ることは確実だから……リスキー過ぎる……後は……)

 発泡スチロール、棚、ビニール袋、天井のLED灯……散乱しているゴミとなった物体以外には倉庫にあるべきモノしか見当たらず……このフロアの商品であろう銃は無い。

(……ココには無いって事は別の……倉庫?)

 倉庫の大きさを改めて目で計る。フロアの大きさは……

(えーと。ビルの大きさとこの前来た時の映像と……)

 外観のデータから既知のエリアを差し引く。

(……向うの壁の向うが別の倉庫。……かも知れない)

 別の倉庫と想定されるのは今居る場所からは遠い方の壁の向う。その壁の近くに別の出入り口が見える。が、それは敵のいるフロアへと繋がる事は明白。

(そこがココと同じ大きさならば……その向うに2つか3つは在るはずね)

(……それの何処にあるのかどうかは……)

 瑠璃30が視線を逸らさずに小さな声(超音波帯域)で話しかける。

 通常音声帯域で会話なぞしたら、即座に銃を乱射されかねないと判断しての会話だった。

(確かにね。知ってるのは……)

(……後ろの店主さんね)

(あの武器屋のおっちゃんが超音波帯域で話せればねぇ……)

 人間が超音波で話せる訳もない。いや、聞える訳もない。

 瑠璃31は後ろの物陰でこちらの様子を窺っている店主を見た。

 そして想い出した。

(ん〜〜〜。何とかなるかな?)

(? 何が?)

 訝しげに見つめる瑠璃30にウィンクで『任せて』と示し、そして壁の一点を指差して『頼むわね』とゼスチャーで依頼してから瑠璃31は手に持っていた金属棒を床に落した。


 乾いた音がフロアに響く。


 男達が一斉に倉庫のドア……瑠璃3が壊したままの扉を注視し、銃を構えた。

 その扉から……

「ご、ごんなさぁい。隠れてましたぁ……」

 バニーガールがオドオドした様子で現れた。

 何の事かと一瞬、動作……いや、思考が止まる男達。

 その距離……10m以上。

(むーーー。もうちょっと近づいてくれないかな……)

 瑠璃3を初めとして瑠璃30と瑠璃31は白兵戦専用。彼女(?)たちのオリジナルである瑠璃、その原形であるLapis Lazuliが白兵戦専用であるがための基本性能は動かし難い事実。

 そして、今、敵である男達との相対距離は……白兵戦には程遠い。

「何してた?」

 ヘルメットの下、口元にあるらしいインカムから入力された音声が肩に付けられた指向性スピーカーから変な音で出て来る。

「……えーと、イベントに……なんか上のフロアのおっきなイベントに便乗するとかでこのフロアの……なんかのコンテストとかの……イベントに呼ばれてたんですけど……倉庫で着替えてたら……誰もいなくなっちゃって……なんでかなぁーと思ってたら……皆さんが……」

 口から出任せに……とは言え、武器屋の店主の経験を元に筋書きを考えながらも……やはり、そこはかとなく適当な事を言う瑠璃31。

 妙に……辻褄が合う内容に男達の何人かは顔を見合わせて話し合っている。無論、最前列の数人はこちらに銃口を向けたままだが。

 改めて男達の装備を見れば……モノトーン……明灰白色をベースとしたアーバン迷彩の戦闘服に防弾チョッキ、フルフェイスのヘルメット。ヘルメットの脇に付けられたカメラは赤外線暗視カメラだろう。それ以外にも電子装備が充実しているであろうことは背の軽金属製らしきケースから伸びる様々なケーブルが物語っている。さらにはケースの上に細長いボンベ。それ自体は酸素ボンベと思われたが……それを装備していると言うことはある種の毒ガスを用意している可能性も否定できない。

(……どーなるかなー)

 怯えた表情を作りながらも瑠璃31は心の中(内部メモリー)では楽しんでいた。

「わかった。で、聞きたい事がある」

「わーい。で、なんでしょう?」

 若干、棒読みっぽい受答えに男達の一人は眉をひそめたが、過去の経験から恐怖からそういう受答えをする人質が居た事を想い出し、気を取り直して聞き直した。

「我々が……いや、オレ達が来る前に……何か音がしなかったか?」

 一寸だけ躊躇した雰囲気だけを持って瑠璃31は横の壁を指差した。オドオドした動きを醸し出しながら。

「そっちの方で……さっき、ガラスが割れるような音がしましたぁ……」

 男達の視線は一斉にそっちを向く。勿論、1、2名の視線とサブマシンガンの銃口は瑠璃31を向いたままだった。

 顎で瑠璃31に質問した男が指示を出す。それを合図に2名を残して数人……4人が壁のドアに向かった。

(ふーん。アイツがリーダーね。……で、全部で7人……ぷらすα……か)

 瑠璃31のウサ耳の集音センサーがフロアに続く廊下からの微細な音から人の動きを察知する。

(1人じゃない。2人以上……フロアからの退却ルートの確保で配置……かな?)

 だとすると……

(1小隊5、6人で2小隊といったところでしょう。ならば、リーダーは二人いるはずです)

 超音波帯域で壁の影に隠れている瑠璃30が話しかけてきた。

(そっちの準備はいい?)

(……まだ、もうちょっと待ちなさい)

 4人の男達が……別の倉庫のドアに聴音マイクらしきパッドを当てて中の様子を伺っている。

(あちゃーぁ。思ったよりも慎重で熟練だわ)

(……呆れた。何処かの出来の悪いドラマみたいにスグに突入するようなチンピラもどきだとでも考えてたの)

 壁の向うからの瑠璃30の冷たい視線を背に感じつつ、瑠璃31は顔を4人の男達に向けながら視線を自分に狙いをつけている2人を注視しながら、今までの視界の映像から自分の位置を確認する。

 瑠璃30に悪態をつきながら。

(すみませんでした。アレじゃ次の行動が読めないわ)

(アナタの次の行動には変更はないはずよ。……ま、あの倉庫に誰か隠れているか……ネズミでも居る事を期待する事ね)

 ネズミはいるかも知れないが誰かが居る可能性は0に近い。

(……そっちを期待するよりアナタの行動に期待するワ)

 ちらっと……顔をこっちを見ている2人に戻して、心からの引きつった笑顔でぎこちなく笑った。

(ハイハイ。準備はいいわよ)

(じゃ……お願いっ!)

 瑠璃31の悲鳴にも似た依頼は……ドアの4人が何も聞えないとリーダーらしき男にゼスチャーで応え、そして、そのリーダーがゆっくりと瑠璃31を見た瞬間だった。

『何かを誤魔化している?』

『自身を我々の前に差出して……そうか』

『今、出てきた倉庫に……誰か……庇いたい誰かがいる』

『……隠れている以上……『標的』にしても問題ない』

 リーダー以下、テロリスト全員の思考が一つの結論に辿り着く。歪んだ感情を伴って……


 その時、バニーガールが出来た倉庫から……何かが割れる音がした。

 直後に反応する男達。別の倉庫のドアにいた4人が音のした倉庫へと向かう。

 倉庫の中にいる誰かを殺戮する為に……

 その場にゆっくりとしゃがみ込むバニーガール。その……これから起こるであろう、自らが囮となって庇ったに違いない誰かに起こる出来事への恐怖から発生すると思われた……ありふれた反応に2人の注意がバニーガールから倉庫のドアへと視線と共に流れた。

 だが……ほんの少しの間を置いて天井のスピーカーから警告アナウンスが流れた。

「火災発生、火災発生、これから倉庫Dとこのフロアに窒素ガスが放出されます。非難して下さい。呼吸困難になります。避難してください。ドアは自動的にロックされます。非難して下さい。火災発生、火災発生……」

 男達は動きを止め、避難する事なく、背の装備へと手を伸ばす。酸素ボンベのスイッチを入れる為に。

 獲物は……バニーガールと彼女が庇った誰か。警戒する必要はない。銃を持っていたのならば既に攻撃しているだろう。今、この瞬間に攻撃されたとしてもこちらが全滅する事はない。先ずは直前の窒息する危険性を回避する事だ。ドアのロック? そんなモノは関係ない。獲物を仕留めた後で解除すればいい。破壊してもいいさ。爆薬も準備している。いや、そんなコトより獲物が窒息する前に仕留めなければ……折角ここに来た楽しみが無くなる。……テロリスト達の思考は淀みなく闇へと流れて行く。


 だが……

 その瞬間が瑠璃30と瑠璃31の動作スイッチだった。


 瑠璃31は横に跳ねる。そこは防弾チョッキなどの陳列棚の影。次の瞬間に二人の男が持つサブマシンガンから放たれる弾丸。だが、それらは標的を外れ……防弾チョッキを使用済みにしていく。

 そして……その間にも天井のノズルから放出された窒素ガスが空気の温度を急激に下げ、霧をフロアに充満させる。

「撃つな。まとまれっ!」

 リーダーの声が響く。インカムを通じて男達のヘルメット内部に。だが銃声は……断続的にフロアに響いた。

「……撤退、撤退しろっ!」

 壁伝いに入ってきた入口近くに移動する。既に視界は霧で役に立たない。赤外線カメラの映像情報に集中しながら……

『前方から来るのは……バニーガール……を監視していた二人か。いや……』

 映像に映る人影は1人。

『やられた? いや、ならば銃を奪い取って……こちらには向かわない。しかも……』

 ヘルメットのスクリーンの片隅に映る警報シグナルを確認する。

『既に……呼吸困難レベルに酸素濃度は低下している』

 ヘルメットを奪い取ってマスクを装備すれば呼吸できるだろう。

 だが、そんな時間があったとは思えない。ヘルメットも特別製だ。奪い取ったとしても直ぐには装着できないだろう。それにそこまで部下がマヌケだとも思えない。また、映像も片手を口に当ててもいない。むしろ両手でサブマシンガンを抱えているようだ

『バニーガールがこちらを一撃で倒せる武術を持っていたとしても二人は無理。もう一人を倒している間に呼吸困難になっている』

 銃で倒した? フロアには拳銃は勿論、あらゆる銃器が転がっている。

『弾薬を装填したヤツは……前にここに来た時に外しておいた。あらゆる弾薬があるこのフロアのショーケースから適合する弾薬を探すだけでも時間がかかる。弾倉に詰めたヤツを運良く見つけたとしても……その弾倉が入る銃が近くに転がっている可能性は低い。そういう配慮がされている事がこのフロアへの出店条件……いや……それ以前に銃を手にしたのならば……呼吸できるならば……こちらには不用意に近づくまい』

 思考は一つの結論を導く。

『あれは……部下だ。一人はバニーガールに倒されたか……』

 部下の一人の性癖を思い出す。

『……楽しんでいるかだな』

 周りを見る。別の倉庫近くにいたであろう4人は……まだ見えない。

『……倉庫の中をチェックしに行ったか?』

 倉庫の入口らしき方向を見る。

 人影が一つ。ゆっくりとこちらに向かって来る。片手にアサルトライフルを下げて……静かに。

『既に……仕留めたか。まぁ、仕方ない『標的』が二つではオレに廻って来る可能性なぞ……』

 濃霧の中。しかも酸素濃度の低下したこのフロアで淀みなく動けるのは酸素ボンベと赤外線カメラを装備していた部下達だけ。男は安心して近づく二人にインカムで話しかけた。

「終ったか?」

 それが男の意識に残る最後の自身の言葉だった。


「終らないわ」

「取敢えずこのフロアでのステージは終りにするけどね」

 直後!

 上段回し蹴りがヘルメットを、中段回し蹴りが防弾チョッキを装着したボディに炸裂した。

「ぅぐもぉっ!」

 呻き声とも単に身体への衝撃で肺から絞り出された空気の振動音とも取れぬ声を残して男は壁に直撃し……そのまま気絶してズルズルと床に沈んでいった。

「さてと……全員、御主人様基準で全治1ヶ月程度かな?」

「何を呑気な。4人も相手させられた私の身にもなりなさい。その前にはゼスチャーで長い段取りを説明しなきゃならなかったし……」

 つまり、瑠璃30は瑠璃31が敵の注意を引き突けている間、ずぅっと武器屋の店主に手順を説明していたのである。それは……予想を上回る忍耐を必要としていた。

「……まったく。ドア近くに消化装置の動作スイッチがあったのはいいけれど、緊急避難用の酸素ボンベは消化器のスイッチ・ガラスを破らないと取れない構造だったし、未だ手にしていない酸素ボンベを武器屋の主人に説明して理解するまで長い時間がかかって……」

 背後から忍び足で近づいて来る……のは酸素ボンベの吸入器をしっかりと口に当てた武器屋の店主だった。

「べぇ……んだぁあ、んごう゛でぇばなぁ」

「何と言ったの?」

「察するに……『へぇ。あんたら、凄腕だな』……かしら」

 吸入器越しに発する言葉は濁りきって、良くは聞えなかったが瑠璃30の推定が当ったらしく、武器屋の主人はにっこりと笑って、指で丸を造った。

「ぉぐぉべ、んだぁあ、んぎぁあべぎぃんぐぉぐぁ?」

「今度は? 訳してみて」

 瑠璃30が瑠璃31に訳を任せた。

「ん〜〜。『ところで、アンタ等、息はできんのか?』……かしら?」

 頷く武器屋の主人に瑠璃31と瑠璃30は呆れ気味に応えた。

「だから、アタシ達はアンドロイド。呼吸なんて関係無いわ」

「正確に言えば対テロ用アンドロイド。あの対テロ用アンドロイド・コンペの実質的な優勝機であるLapis Lazuliをプロトタイプとして……いろいろと紆余曲折はあれども……そのコピーであるコトは間違い無いわ」

 素直に感心する武器屋の主人を他所に瑠璃30と瑠璃31は背後のドアの向うの動きを感じていた。

「さて……御喋りはここまで」

「ちょぉっとだけ手荒いけど、地上……要するにビルの外へと御避難下さい」

 二人は武器屋の主人の両腕をそれぞれ小脇に抱えて、近くの珈琲フロアのソファーへと店主を投げた。

「ぐぉ。んだぁ?」

「そのまま、ちょっと頭を下げて」

 直後にアサルトライフルが一撃でソファーの後ろの窓ガラス……床まである大きな窓ガラスを撃抜く。一瞬で罅割れたガラスにサブマシンガンが乱射され……粉々に砕ききった。

「確か、この下は植込みのはずよ」

「願わくば……外の本当の警官達が落下者か跳弾対策でエアマットか防弾シリコンマットを敷いている事を期待しててねぇ〜。じゃあねぇ〜〜〜」

 二人の蹴りでソファーは床を滑らかに滑り……ソファーを空中へと移動させた。

「んぎゃあぁぁぁぁぁ……」

 緩やかに自由落下を始めたソファーの上で武器屋の主人の悲鳴が響いた瞬間……フロアが衝撃波が包まれた。


 それは……廊下で待機していたテロリストの仲間がドアに爆薬を仕掛け……フロア諸共、破壊した爆風だった。



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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