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本編 35 〜トリニティ・タワー 9 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

53.幸運と不運

「何かが飛込んできたようね」

「ん? あぁ。第1展示場……の倉庫だな」

 モニターに映る異常を知らせるメッセージ。隣のモニターでは異常箇所を立面図と平面図に点滅させていた。

「……運良くというか、運悪くというか。今はあのフロアには誰も居ないな……」

 つまらなそうにビショップ・オブ・ルビーは呟いた。

「どうして配備しなかったの? 銃器展示場でしょう?」

 更につまらなさそうにジルコニア・クィーンは尋ねた。

「警官達は銃を装備している。こちらもだ。一般人が銃をもってこちらに向かってきたらタダの的。銃をもって外に出たら、犯罪者。しかもこちらにとってはカモフラージュにもなる。……ということで占拠する必要性を持たない箇所だ。必要人員はかなり絞ったからな……」

「こちらに向かってきた『的』がこちらの戦力を削いだとしたら?」

 ジルコニア・クィーンの想定にビショップ・オブ・ルビーはニヤリと笑った。

「一般人に倒されるような部下は……『駒』は要らない。そしてもし、『駒』を倒せるほどの腕前の『的』ならばスカウトするさ。……血の匂いを忘れないうちにね。キミのように……」

「……アナタのようにね」

 溜め息混じりに男の狂気に染まった視線を避けて、美女は先ほど頼んだカクテルを唇に運んだ。

「ま、警官達……的は予定を大幅に過ぎても未だに入口を塞いで見学しているだけだ。……暇そうな迎撃隊にでも見に行かせよう」

 男は嬉しそうにモニターへと視線を戻し、部下に短い指示を与えた。

 片隅のモニターにアパートで監視していた部下から瑠璃3達が居なくなり、行方をロストしたという情報メッセージを見逃したままで……


「……なんだ?」

「どしたの?」

 怪訝そうにS.Aikiを見る瑠璃1。

「なんか音というか……揺れなかった?」

「……瑠璃3達のウサ耳、放熱器兼集音マイクを装備していたら判ったかも知れませんが、今の装備では判別できるような異音はありませんでしたよ。揺れは……高層ビル特有の長周期振動では?」

 怪訝そうな視線のまま、周囲を見る。

 なにやら、テロリスト達がざわめいている。

(警官隊でも突入したかな? でも、そんなには騒いでないわね)

「……なんか悔しがっているな」

「そうですか?」

 表情を変えずにS.Aikiは呟いた。

「あぁ。まるで駄菓子屋のクジに外れた子供のようだ」

(なんだその例えは?)

 心(内部メモリー)に浮かんだツッコミを音にはせずに瑠璃1は改めて周囲のテロリストを見た。

(……ふぅん。確かに何やら悔しそうだ)

「まぁ……コッチは何も出来ないが……本でも見ていよう」

「そうですね。黙って待っていましょう。その時を……」


「ふぃー。えーと、ココは……?」

 視界にあるのは……高い天井から吊るされた細長いLED灯だけ。視界の周りを塞いでいたのは段ボールの切れ端。それを片手で退けると……横に段ボールの山から上半身だけを起こしたばかりらしい瑠璃30が居た。

「……倉庫のようですね。運良く、梱包材のゴミ箱にでも突っ込んだようですね。火災報知センサーが動かなかったのは幸いですね」

 辺りに散乱した、段ボールの小箱のゴミ。ほかにもシェル状の発泡スチロールなど梱包用品が木製の荷台や金属棚の支柱など共に散乱している。見上げれば、明り取りの窓が盛大に壊れていた。

 片脚の動きを邪魔していた壊れた分厚い段ボールを手で簡単に引き千切り、辺りを見渡して状況を確認しながら立上る。

「……ふーん。建築デザインの為に無駄に大きい窓だったのが幸いした……ってところかな?」

 確かに突破った窓は倉庫のモノとしては不必要に大きい。

「さて、ココが何処であれ……。あれ? 瑠璃3は?」

「さぁ? ……その辺の段ボールにでも埋もれているのでは?」

「……アレかな?」

 見渡せば……陸帝の後輪だけを残して埋まっている段ボールの山の上。見慣れた網タイツの足が2本、ぴくりとも動かずに天井を指している。

「……リセットに時間がかかるのはいつもだね。我らがチーフ様は」

「それでも私達は既に再起動を完了しているのですから……そろそろ動きだすでしょ。チーフさんは」

 瑠璃30が腕時計に視線を移した瞬間、足が凄まじい速度で動きだした。

「再起動中……ね」

「……悪いクセが出なけりゃいいけど」

 瑠璃30と瑠璃31は諦め顔で視線を合わせた。

 その瞬間!

 爆発音かと聞違うほどの音と共に足の周りの段ボールが四散した。

 次の瞬間。

「御主人様ぁっあぁぁぁぁぁっ! 只今、参りますっぅうぅぅぅぅぅっ……」

 絶叫音だけをドップラー現象のままに低くその場に残して瑠璃3はあっという間に居なくなった。ドアを蹴り、蝶番ごと破壊し、飛ばして。

「……あ゛ぁ〜あ。何処を目指して行ったのやら」

「ま、ビルの中でしょ。幾ら何でも外に出るコトはないと思うわよ」

 溜め息で会話する瑠璃30と瑠璃31は背後の音に気がついた。

 目配せで互いの役割を確認する。瑠璃31の足元に転がっていた荷台の破片が配役を決めた。

「ハッ!」

 予備動作無しに瑠璃31が蹴り上げる。荷台は緩く回転しながら、予定した位置……の少し横へと飛んで行った。

「ぅわっ!」

 声を上げた物陰に横に動いた瑠璃30が……途中で床に落ちていた金属棒を拾上げ……素早く移動し物陰を造っていた段ボールの山を横殴りに一閃。

 弾け飛んだ段ボールの影から顕れたのは……怯えた男。何故か……何処かで見たような顔だった。

「ん〜? 誰かと思ったら……」

「……武器屋のおっちゃんじゃない」

 昨日の射撃コンテストで通行証をくれたガンショップの主人だった。

「……なんだ、アンタ等か。しかし、どこかのゲームのキャラクターみたいに言うなっ! これでもウォーター・……」

「それよりこんな所で何してんの?」

 金属棒を肩に担いで、無警戒で聞く。瑠璃31にとっていつでも対応可能と判断できる相手ということなのだろう。

「ひょっとしてテロリスト達の?」

 質問の内容は警戒すべき相手の可能性を追求してはいるが瑠璃30の態度もまた腕組みしたままで尋ねるという無警戒状態。まぁ、2体も居れば当然か。

「違ぁうっ! オレはここに梱包用の物を取りに来た時に……」

 聞けば、倉庫に入った時にテロリスト達が一旦、銃器展示フロアを占拠。しかし、即座に解放。お客達や店主達、店員達もその場でスグに退去したのだという。

「……で、何でその時に逃げなかったの?」

「いゃあ……なんか変だなと思ってな」

「どういう所がです?」

「考えてみろ。ココには武器や弾薬がごまんとある。占拠するなら圧えるべき所だろう? 何故、解放する? 武器や弾薬はそのままで? なんか罠が在るような気がして……」

 言われてみればそのとおり。ココには誰も居ない。テロリストが占拠しているビルの入口に近い連結フロアとしては些か……というか、かなり異様な状況だ。

「……ま、事実として占拠されていないんだから、今からでもさっさと逃げたら?」

「……いゃあ、時機を逸したら今度は警官達に……」

「……テロリストと間違えられそうだから、ここに居たと?」

 瑠璃30の指摘に小さく笑いながら頷く店主。確かにその風体は……かなり怪しい。

「全く……幸運というか不運というか。んじゃ……ま、暫くここに居たら?」

「私達がテロリストを一蹴してきますから」

 小さく手でバイバイして立ち去ろうと振返った瑠璃30と瑠璃31の態度とその言葉に店主は驚いた。

「え? するってぇと……アンタ達はテロリストの手先じゃ……ぶ」

 二人の裏拳を顔と身体で受けた店主は後ろの段ボールの山へと吹飛んだ。

「私達は対テロ用アンドロイド。上で御主人様が捕まっているかも知れないから駆けつけただけです」

 ……そう言えば。……S.Aikiが既に逃げたかも知れないのに4輪バギーで飛込んだんだな。コイツらは。

「暇だったらあの上に埋まっている陸帝の面倒でも見てて。じゃあねぇ〜〜〜。!」

 立ち去ろうと……先程、瑠璃3が盛大に壊して出て行った出入り口へと向かった瑠璃30と瑠璃31は素早くドア近くの壁……向こうからは死角となる位置へと移動し、背後の店主に仕草で合図した。声を出さずに物陰へ隠れるようにと。

 そして……ドアの向うをそっと窺う。

 その時、向うのドアから数人の男達が展示場に入ってきた。無論、手にはサブマシンガン、背にアサルトライフルを携えた……一見してテロリストと判る男達が……

(さっさと出て行った瑠璃3の方がラッキーだったのかな?)

(さぁ? 少なくとも先に行くには武器が必要だとわかった方が幸運だと思うけど?)

(でも……当面の問題は……)

(その武器が……ココには無く、向うに在るという事ですね)

 瑠璃30と瑠璃31の武器は……金属の棒だけ。手にしたい銃は……今、居る場所から10数mは向う。そして敵のエリアの中だった。



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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