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本編 34 〜トリニティ・タワー 8 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

52.カウント・ダウン

 その頃。S.Aikiは瑠璃1と第3連結フロアで他の人質と共に居た。

「……御主人様。その本、面白いですか?」

 しらっとした視線で隣のS.Aikiを見る。

「ん? ……あぁ。ま、何にもしていないと……こんな本でも暇つぶしにはなる」

「……判るんですか?」

 更にしらっとした視線でS.Aikiを睨む。

「ん〜。ま、左翼と右翼の名言集といったところかな。動機を左翼、行動を右翼の言葉で繋げて……ま、どこぞの新興宗教というか破天荒なアニメのシナリオよりはマシかな。……というぐらいだ」

「……そうですか」

 膝を抱えて正面を見る。そこには銃を撫でる兵士。ドアの外を気にしながらも心ここにあらずという感じだ。

(あ〜あ。兵士は……全部で10人……かな? こっちはワタシ一人だし。御主人様は守らなきゃならないし。瑠璃2はここに入ったときから行方不明だし。私自身の戦力は……よく判らんし……。こんなコトなら瑠璃3達の戦闘データでも分析しときゃよかった。……ん?)

 ポケットを探るとメモリーカードが指に触った。

(このデータは……瑠璃姉ぇの……だったかな? ま、これでも解析しておこう……なんかの足しにはなるでしょ)

 ふと横を見ると、S.Aikiが本から目を離して窓の外を見ている。

「何か? 見えます?」

「あ……いや。何かが聞こえたような気がして……」


 その窓の外は高速道路。休日前で比較的空いているのは珍しい。

 その道路を……車ともバイクともつかない4輪の物体が車の間を縫うように走り抜けていた。

 その乗り物は……瑠璃1が作った『陸帝』。

 そして、その上には……バニーガールが3人(?)。ヘルメットも付けずに髪を風になびかせて乗っていた。長い耳は後ろに倒れ折れ、その姿も周囲の車に圧倒的なスピード感と……不可思議な印象を与えて、呆気にとられて抜き返す意力を奪いとっているようだった。

 陸帝の上の1人は1番前の運転シートは跨って乗っているのは当然として、後ろの2人は……いわゆる横座り。両脚を揃えて片側に置き、互い違いに座る。足をシートの両側にあるガードバーに引っかけて、そして両手で反対側のバーを掴んで固定し、上半身を陸帝の挙動に合わせて移動させて居た。重心移動で旋回する陸帝の基本構造的には都合がいい姿勢……なのだろうか?

「次は右から抜きますっ!」

「了解」

「ついでにその次も右、んで次は左。それで暫くは邪魔な車はないようね」

 運転しているのは瑠璃3。その後ろでコースを指示しているのは瑠璃31。瑠璃30は最後尾で陸帝の挙動を体重移動で最終的な調整していた。

「しかし……何故、そんなに急ぐのです?」

 既に法定速度は越えている。……まぁ、周囲の車も大きい声では言えないような速度ではあったが、それらを抜いている以上、陸帝の速度は……洒落にならない速度に達していた。

「私は……私は……」

『ソコのバイク……車? 兎に角、直に止まりなさいっ! 兎娘っ!』

 割込んできた声は後方。振返れば……パトカーが数台、追いかけて来ている。

「ふーん。やっと来たのね」

「随分と遅かったですね。アノ事件に必要以上に手が割かれているのでしょうか?」

「だったら、随分と無能な現場責任者ね。言葉のセンスもなさそうだし」

 兎娘と呼ばれた事が瑠璃31には不満らしい。

『コラ止まれ。止まれといっているだろうがっあっ!』

 横に付いたパトカーの助手席から最後は乱暴に叫ぶ警官。真面目そうな顔に横で小さく笑ってから瑠璃31はにこやかに手を振った。

「う……ぐっ、本官をバカにする気かぁっ!」

「そのようなつもりは一切ありませぇん」

 スピード故、風切音で声は聞えない。だが、口の動きだけでも言葉は伝わったようだ。警官は訝しげに眉を顰めている。

「ところで何の御用?」

 瑠璃30が振返り、冷たく言う。

 何故か……というか当然の反応として警官は瑠璃30の問掛けの意味は判らなかった。

 ただ、感情に任せて後部座席からメガホンを取り、窓を開けて瑠璃30の耳元で叫んだ。

「スピード違反だっ! 既に免許取り消しレベルだっっ! さっさと止めろっ!」

「免許取り消し?」

 耳を折り畳んでいる瑠璃30だが、かなり五月蝿いようで、ウサ耳と人耳の双方を片手で労りながら……それでも冷たい視線で警官を静かに睨んだ。

「運転免許? 何のコトかしら?」

「何っ! 免許不携帯……じゃなくて貴様ら無免許だな? ノーヘルどころか無免許とは不届千万。有難き法の裁きを与えてやるからさっさと止めろっ!」

 益々、居丈高に怒鳴る警官。

「ノーヘル? 何のコト?」

 意味は解っているが、それが不適切な用法だと言わんばかりに冷たく言う。

「ぬぅぬぬぬ。ノーヘルとはヘルメットを被っていない事を言う。ほれ、コレがヘルメットだっ!」

 あくまでも相手が意味を理解していない事を前提に警官は話を進め、後部座席からヘルメットを取出して窓を開け、指で差し示して叫んだ。

 ……素朴な疑問だが、何故にパトカーにヘルメットがある?

「へー。ヘルメットねぇ……」

「そうだ。コレがヘルメット……お? ん?」

 根負けした瑠璃30は何気にヘルメットを受取り、助手席の警官の服装を運転席の警官の服装とを見比べた。

(……コッチの警官は……白バイ用の服装ね。奥とは違う。……人数不足か、何処かで事故ってパトカーに飛乗って馳参じた……というところかな? ま、あんまり、頭脳労働系では無さそうね)

 溜め息混じりにヘルメットを瑠璃31に手渡し、目配せする。

 瑠璃31は悪戯っ娘っぽい笑顔でヘルメットを片手でコンコンと叩き、両手に掴み直すと……頭突きを一閃した。

 べごぉっ

 鈍い音が風切音で聞えないであろうパトカーにも伝わったようだ。警官達は吃驚したままの顔で瑠璃31を……いや、その手のヘルメットを見つめていた。

 見事に凹んだヘルメットを受取った瑠璃30は演説を始めた。

「宜しいですか? 私達の頭部装甲以下の強度しか持たないこのような道具に何の意味があるというのですか? また、私達はアンドロイドであり、運転免許は所持できません。所持できないモノを持たないからといって法に触れるというのであれば、国民全員のみならず全人類総てが大量破壊兵器所持免許不携帯、若しくは無免許で有罪になるでしょう? ついでながら私達は御主人様の一大事に対処する為に移動中です。もし、それが違法であるというのであれば、『アンドロイド移動速度規制法』なるモノの成立以後、逮捕状を請求し、しかる後に私達を……もし、その法律がアンドロイドの所有者ではなくアンドロイドそのモノの逮捕を前提としているのであればですが……逮捕なさるがいいでしょう。というコトで、私達は先を急ぎますのでコレにて失礼。あ、これは御返しします。損害請求なさるのでしたら、行動妨害に伴う時間的損失と差し引きさせて頂きます。では……」

 ぽいっとヘルメットを助手席の警官に手渡す。……が、呆気に囚われていた警官は受け損なって……隣の警官へとパスするような格好となった。で、パスされた警官もまた少なからず呆気に囚われて、急に視界に飛び込んできたヘルメットを受取ろうと……ハンドルから手を離してしまった。運悪く……その瞬間に路面のギャップに姿勢を乱したパトカーは……慌てて姿勢を立直そうとした荒いハンドル裁きにも素直に反応し……後続のパトカーを巻込んでスピンし、クラッシュしていった。

 ……間抜けだ。


 盛大なカークラッシュを後にして……瑠璃31は呆気にとられていた。

「ありゃあ……盛大に壊れたねぇ。……損害請求は御主人様に来るのかしら?」

「アレは運転者の注意散漫、運転技術の未熟が原因です。念の為、今回の視覚データをビデオ規格ファイルにして保存」

「了解。精度は?」

「40fpsもあれば対裁判資料としても充分でしょ。他の規格に変換しても」

「了解。ほい、メモリーカードに移したわ。瑠璃3、アンタは見て無いでしょ? 念の為、持っといて」

 メモリーカードを両手でしっかりとハンドルを持つ瑠璃3に手渡し(?)、瑠璃31は楽しそうに笑った。

「コレで心置きなく戦える。私達、3体の内1体でも残れば、このデータは失われずにすむわ」

「……私は嫌です」

 アパートを出発してからは、一時たりとも離していないバーハンドルを更にぎゅっと握り締めて瑠璃3は呟いた。

「何が?」

「そういえば先程は何を言おうとしていたのです?」

 瑠璃31と瑠璃30に問われて……瑠璃3は更に空気抵抗を減らすかのように身体を低くした。

「私は……嫌です。もう2度と……部品なんかに戻りたく無いっ!」

 その言葉に瑠璃30と瑠璃31は少しばかり驚いた。

「あの研究所で私達は造られ……そしてテストされ……廃棄されました。あの人達は……私達を造ったのに、必要としないで……壊れたら……テストに不合格だと……ちょっと壊れただけなのに……まだ、自分の身体の動かし方に馴れていないだけなのに……必要な動作データを与えもしないで、時間も……部品も……何もかも充分に与えてはくれなかったっ! それで……そして、壊れた事を理由に廃棄しました。そんなの……そんな……酷過ぎますっ! でも……」

 瑠璃30と瑠璃31の脳裏(内部メモリー)に過去の日々が蘇った。以前の……想い出したくはなかった、しかし、いつも脳裏に燻り続けた過去が。

 鮮明な記憶として……

 そして瑠璃30と瑠璃31に真面目な表情を与えて……

「でも、御主人様は……部品から私を……私達を造って直してくれました。それどころか、テストの時間も新しいパーツも……そして不足していたパーツも……そして……そして目的も与えてくれた。私達を必要としてくれた。私は……私を必要としてくれる御主人様の元でいつまでも……」

 瑠璃30と瑠璃31は顔を見合わせ……そして、笑顔で見つめ合った。瑠璃3の後姿を。

「……ですから、私は御主人様を失いたくは……」

「了解。チーフ」

「えっ!?」

 吃驚した瑠璃3は頭を上げた。

「ほら、次のカーブを左。その先に吊り橋。渡りきった先に目的のあのビル。到着まで……予測85秒」

「どうせ、下は警官で近づけないでしょ。このまま飛込むわよ。チーフ」

「そういう事。んじゃ……」

「……え?」

 後ろをちらりと振返れば……瑠璃31と瑠璃30は姿勢を正してシートに跨がって、自分の身体に密着してきていた。

「ほら。これで対衝撃性能はアップするでしょ?」

「空気抵抗も少なくなるわ。到着まで45秒。後の運転制御は任せるわ」

 二人は軽くウィンクする。その仕草で瑠璃3は理解した。

「はいっ!」

「橋を渡ったら右。それで左脇の突当りにあるプラスチックドラムに向かって」

「ドラムの中の水の衝撃反射でこのバギーを空中に飛出せてくれる」

「後は……第1展示場の中の構造に因る。グットラック」

「無事に窓に飛込んでくれる事を祈るわ」

「了っ解ッ!」

「衝突まで……10、9、8、7、6、5、4、3、2……アタックっ!」

 陸帝は……鈍く響く衝撃音と共に激しい水飛沫を身に纏い……背の3人(?)の兎娘と共に放物線を描いて……ビルの窓へと飛込んだ。

 ……テロリストが待つビルへと。



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


 今回は短めですみません。


 宜しかったら、投票、感想など戴けると有り難いです。

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