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本編 32 〜トリニティ・タワー 6 〜

 トリニティ・タワーで瑠璃達が……

48−2.予定されない幕開け(2)

「あ゛ーっと、瑠璃2。燥いで走り回らない。」

 トリニティ・タワーの下から3番目の連結フロア。そこに展示されている子供向けの玩具展示場で瑠璃2は燥いでいた。瑠璃1は瑠璃2の位置とS.Aikiの位置を確認しながら、周囲の人々に不相応に年齢の高い大人たちが熱心に玩具に注視しているのを不可思議に見ていた。

「何でこんなに大人が居るんでしょ?」

 眼鏡を直しながら誰とも無く呟いた瑠璃1の言葉にS.Aikiが応えた。

「元々、外国の玩具ってのも国内規制……安全基準に合致していないモノが多かったからな。それのバイヤーとか……子供の付き添いとかじゃないか?」

「バイヤーにしては視線が熱過ぎますし……子供の人数に見合う数にしては多過ぎますけど?」

「まぁ……マニアも居るだろうけど、大概は子供へのお土産かもな。あ……」

 応えに詰まったS.Aikiは視線を窓の外に投げて声を上げた。

「どうしました?」

 問う瑠璃1にS.Aikiは窓の下を指差した。

「正面とかじゃ気がつかなかったけど、下の連結フロアって高速道路に近いんだな」

 話のしょうも無さにちょっとだけ目眩いを感じながらも瑠璃1は指差す方を見て確認する。

 窓の外。上空に様々な観覧ヘリやら近くの空港に降りるのであろう旅客機をも背景とした青空に照らされた道路が光っていた。

「あ゛ー。確かに。でも繋がってはいないですね」

「あ。想い出した。この下は警察とか消防署が入る予定だったんだ」

「それで?」

「途中で予算が合わなくなって取止め。そのままこのフロアと同じ展示場となったんだ。ほら、高速道路のカーブが変なままだ」

 指差すカーブは確かに途中で妙に曲がっている。

「高速道路直結の警察署とか消防署というのも変ですね」

「いや、その当時はこの道路は高速道路じゃなくてこの埋立地の周回道路のなる筈だった。外と繋がる高速道路は別に計画されていた筈だが……それも財政難を理由に兼用になったんだ」

 指差す先は埋立地と外とを繋ぐ高い吊り橋とその下で斜めに交差する斜張橋。さらにその下のトラス橋がこの埋立地という場所の歴史を語っているような風景。言われてみれば一番新しい吊り橋から繋がる道路の線だけが微妙に変だ。

「へー。御主人様って物知りなんですね」

「いゃあ、あのトラス橋の横、十六夜埠頭展示場にはよく行っていたからなぁ」

「何しに?」

 感慨に耽るS.Aikiに瑠璃1の素朴な質問は核心をつきすぎていた。

「え゛、え゛ーと。モーターショーとかパソコンのビジネスショーとか……」

「ふーん。だから、御主人様はメカとかパソコンに詳しいんですね」

 瑠璃1の素直な反応に安堵の息を吐きながら、S.Aikiは辺りを見渡した。

「あれ? そういえば瑠璃2は」

「あ゛。何処行った?」

 慌てて瑠璃2を捜しはじめた。二人を冷たく監視する目には未だ気付かずに。



「特別ゲストは? 下のフロア? 了解。……ふん。悪運が強い事だけは認めるよ」

 イヤホンで状況を確認したビショップ・オブ・ルビーは舞台の袖で苦笑した。脇に居るジルコニア・クィーンに悪びれもせず。

「キミが望んだゲストは通行人Aに成ってしまった。シナリオがBからWに変ってしまった以上、仕方ない事だと認めて貰えるかな? 無論、彼の人形達には手を出さない。箱の中に閉じこめた以上はこちらとしても手を出す必要がない。宜しいかな?」

 美女は仕方なさ気に肩をひょいと上げて応えた。

「では、カーテンコールを……舞台の始まりを告げる死のカーテンコールを」

「……判ったわ」

 ジルコニア・クィーンは携帯電話を手に取るとある番号を素早く入力して、呼び出した。……最初の生贄を。



「久しぶりだな。北面の」

「御主の孫の披露宴以来だから……2年ぶりかな? 西面の」

 二人の老人が互いの秘書達に囲まれながら向合い座り、親しげな挨拶を交わすこの部屋はトリニティ・タワーの最上階の一つ。窓の外にはもう二つのビルが下の連結フロアから伸びている。

「この国の皇を守り千八百と余年、お互い家の役目を違わずに続けてきたが……」

 一人の老人が葉巻の煙を楽しみながら、向合う老人を穏やかに……睨む。言葉を待ちながら。

「御主のところがこれほどまでに海外の輩に手を貸す事になるとは思わなんだ」

 その言葉に老人は不敵に笑いながら応えた。

「百と余年もの前に決めた筈だ。ワシのところは海外から技術、資本、物資を引込む。それを……」

「ワシのところが取込んで新たな技術、資本、人材を造り出す。確かに……な」

「ならば問題あるまい? ワシのところはあの木偶人形に手を貸す。御主は……」

「あの研究所の最高傑作を市販する。確かにコレも我等の千年来の役目通りだ。だが……な」

 鼻で笑いながら老人は問う。紫煙を燻らせながら。

「何がいいたい? 何が不都合でもあるのか?」

 問われた老人は窓の外、未だ上に伸びようとしている隣のビルに視線を投げ、そして煙の向うの老人に言張った。

「あの勢力にそこまで手を貸すとは思わなんだ」

「気にするな。毒を呑まねば毒を消す薬も造れんさ」

「薬を造るのはこちらだ。だが……」

「間に合うさ。これまでも。そしてこれからも……期待している」

「期待はせんでくれ。こちらの『結界』に侵入する速度、手管、……これまでとは違いすぎる」

 葉巻を消すと老人は窓の外に視線を投げた。

「奴等の神話にもあるらしい」

「ん?」

「天を目指した人間は天の怒りに触れ地に叩き落とされるらしい。あのバカのようにな」

 杖で指示すのは、隣のビル。その増築しているタワークレーン。

「御主の後継だろう?」

「いや、ただ単に見栄だけで行動するのは後継ぎには相応しくは無い。今度の……親族会議で挿げ替えるさ」

「……六角の衆は黙っていまい?」

「奴等の『領地』は保証するさ。それだけで十分だ」

「ま、他の領地の事はワシには関係無い事だが……」

 老人は背を向けて、言葉を続けた。

「我らは天を守る。それだけは確かだ。天の番人が天を脅かす者共に負ける事はない」

「……判った。長居をしてしまったな」

 立ち去る老人に背で言葉を投げた。

「必要ならばいつでも……」

「……充分だ。最高傑作に対する支援をありがとよ」

「また会おう」

「早くても3年後だ。それまで……」

「……ん」

 立ち去る老人を背で見送りながら老人は天を見つめていた。

 秘書が出ようとする携帯電話の音を聞きながら。



「あきまへんなぁ。こっちのマネージャーも留守電ですわぁ」

「フン。ま、コッチも誰かが店に出て来るのは4時間後だからね」

「それまで何してましょ?」

 トリニティ・タワー直下の地下鉄。そのホームに置かれたベンチでボンデージドレス姿の瑠璃4と艶っぽい和服の瑠璃5が途方に暮れていた。

「いくらぁ、早出はいいとしても御店が開いてないんでは行きようがありませんなぁ」

「ま、ここで時間を潰すしかないだろ」

「ココは人目が凄いですぇ?」

 確かに。地下鉄から降立つ乗客達の視線が刺すようだ。

「仕方ないだろ? アタシ達はこんなナリなんだ。何処に行ったって目立つさ。動くだけ無駄」

「はぁ。姉ェさんは悟ってるんでなぁ。感心しましたわぁ」

 小さく拍手する瑠璃5の仕草に瑠璃4は照れたように軍隊のような帽子を被り直した。何かを見るようにそっぽを向いた瑠璃5がちょっとだけ困った顔をして不満を表わしたのに気付かずに。


 その時!

 背後で轟音が鳴響き、天井のコンクリートが爆発し、崩れ落ちた。


49.狙撃による爆撃

 トリニティタワーの最上階からエレベーターが動き始めた時、一番上の連結フロアの屋根の点検ハッチが開いた。影が音も無く動くように、ハッチから出た黒づくめの服の男はすぅっとある一角に移動して、手に持った銃を構えた。

 まるで……その位置で構える事が決まっているマシンのように。

 そして……間髪を入れずに火を噴く銃口。

 レバーを引き、次の銃弾をチャンバーに送り込むと同時に構え、銃口がまるで目標から伸びる紐に引かれているかのような澱みの無い動きで構えられた瞬間に次弾が放たれる。

 数発、いや、弾室の中の全ての弾丸が放たれた時、男は何事も無かったかのようにゆらりと出てきたハッチへ向かい……そして影のように消えた。


 男が放った弾丸、最初の弾丸は銃口に予めセットされていた大口径の粘着炸薬弾。ガス圧で銃口から放たれた弾丸はガラスを突破り、コンクリートの壁に突刺さると同時に爆発。コンクリートの壁に1m程の穴を開けた。その壁はエレベータシャフト。続けて……次々と飛込んできた弾丸はそのシャフト内のスチールロープを引き千切り、制御を失わさせた。重力に引かれて落下するエレベータ。その中に居た人には……多分、何も知らなかっただろう。最初の爆発音が聞えてはいただろうが数十m下で行われた狙撃でその箱の制御が奪われた事に。

 ただ……落下速度が加速して行く事だけは感じてはいただろうが。

 最後の弾丸は……エレベータの箱に向かっていた。最後の安全装置としてエレベータに装備されている左右二つのガイドレールブレーキ。その片方に命中し、機能を奪う。加速されていたエレベータはそれでも片側だけのブレーキで制動させて止まろうとした。

 だが……二つあることを前提として造られたブレーキは片方だけでは充分なブレーキとはならず、剰え箱に予定していない方向へとベクトルを与えた。

 エレベータはガラスで外界と隔てられている。

 あらぬ方向へと与えられた重力に因る運動エネルギーは容易くガラスを破壊し、エレベーターを空中へと放り投げた。

 ガイドレールが引き千切られる音を自身の悲鳴と変えて……


 重力の見えざる手はエレベーターを掴み離さない。そして加速させる。

 奈落の底へと……


 エレベータの箱は地上に落下し……地下鉄のホームまで貫いた。

 まるで地下要塞を破壊する爆撃弾のように……


 そして……

 それが幕開けのベルだった。



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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