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本編 27 〜トリニティ・タワー 1 〜

 トリニティタワーで瑠璃達が……

44.解放区

 トリニティ・タワーとは文字どおり、3つの摩天楼を束ねて一つの高層ビルとしたような建物。三角形の断面の高層ビルが幾つかの階で六角形のフロアで互いに連結させ、全体として堅牢かつ柔軟な構造としたモノだった。その六角形のフロア自体も数階分の厚さが在り、最上階のソレは吹抜けとなった総合展示場となっていた。

「はぁ……なんだか、遠い昔に作った夏休みの工作みたいなビルだなぁ」

 S.Aikiが異様なタワーを見えるのは近くのターミナルビル。十を越える路線が乗り入れしているこの駅はホーム自体が中層ビルのように重なり合う。その中でも最上階に位置するホームからは高層ビル数個分の摩天楼がよく見えた。

「上の方は……未だ工事中なんですね」

 瑠璃の見ている視線の先は3つの三角形ビルの中の一番高いビルの頂上。そこにはタワークレーンが鉄骨を吊上げているのが見える。

「……変だな。1年以上前に完成した筈だが……ん? 案内看板が在る。ええっと……先月、キュバンタワーの竣工に伴い、世界一の高層ビルではなくなったので、改めて追加工事を行い……って、無駄な見得を」

「まぁ、世界に名立たる六角菱不動産の自社ビルですし……プライドというのは人間として重要な構成要素だと思います。瑠璃3達がバニースーツのツヤにこだわったりする……ようなモノでしょうか」

 S.Aikiは瑠璃を繁々と見た。

「何か?」

(最近、前にも増して微妙にアンドロイド離れして来ているよなぁ。瑠璃3達も変だが、瑠璃2も変だし、瑠璃1も部下を欲しがったり……。この瑠璃も……そういえば、コイツは最初からアンドロイドっぽくはなかったが……ん? なら、いい……のか? アレ? はて?)

 S.Aikiの疑問と困惑の視線を困った顔のままで笑顔で受ける瑠璃。

 その瑠璃の後ろからあたりを見渡すように3体のバニーガール姿のアンドロイドが現れた。

「御主人様。乗客達の流れが落着きました。地下鉄のフロアに移動するならいい頃合いです」

「へぇ。随分と無駄に高いビルなのネ。ええっと……法令開放展示場は……」

「一番高い連結フロア。銃器展示場は……どういう訳か一番下の連結フロアにあるわ。まったく、御主人様も物好きですね。狙撃される可能性が高くなるような場所にワザワザ出向くなんて……」

「瑠璃30、コレは御主人様の大事な仕事です。事実を的確に表現するのは構いませんが不必要に物騒な表現は好ましくありません。瑠璃31、予め言っておきますが銃器展示フロアには寄りません。瑠璃3、余りきょろきょろしない。不必要に不審がられます。では御主人様、参りましょう」

 瑠璃の的確(?)な指示に従い、瑠璃3達はS.Aikiの護衛をしながら移動を開始した。先頭に瑠璃3、最後尾に瑠璃、そして両脇に……いや、瑠璃30と瑠璃31に両脇を抱えられて歩くS.Aikiの姿は瑠璃達に捕まり、連行されようとしているしょぼい犯人……有り体に言えば捕まった痴漢のようだった。


 トリニティ・タワーの最下層連結フロアの一番下の階の一角。ちょうどビルの地下に在る地下鉄から吐出される人並みが群をなす広場を見下ろす場所に小洒落た雰囲気のカフェが在った。仄暗く調光した照明と窓のブロンズガラスが店内の疎らな客を程よい疎外感と闇の魔力で包んでいる。そのカフェの窓際の椅子には鋭い視線の男と艶っぽい濡れた視線の女が眼下の広場を見下ろしていた。

 まるで獲物を見る餓えた野獣のようにを黙ったまま見下ろす男に焦れた女が声をかけた。

「だいぶ……御疲れのようね」

「まぁな。全く、この国は思う通りには事が運ばない。不確定要素が多過ぎる。元々、準備というヤツは骨が折れるというのに。シナリオは何度も書直した。登場人物が入れ替わる度、タイミングが変る度、ラストシーンも幾つか……変えただけの成果は上げる。そういうシナリオには仕上った……ハズだ」

「お楽しみね」

「ああ……後は開幕……いや、終幕を待つだけだ」

「違うわ……ん。そうね。フィナーレが楽しみね」

 女が言いかけた否定を飲込み、男に話を合わせた。

「コレでこの国での仕事も終りだ。次の仕事までには一息入れたいモノだね」

「残念ね。アナタの次の仕事はヅィータ共和国でのプレゼンよ。私は……」

「ドコでバカンスかね? ジルコニア・クィーン様」

「残念。クィーン会議が在るの。ベータ・イプシロン連邦のアポリーでね」

「アポリオン社所有の別荘で……か。まったく。彼処の水は不味い。不味過ぎる。あんな水で入れた珈琲も不味くてしょうがない。まったく、浄水器なんぞ自社製にこだわらんでミネラル・ウォーターを運べばいいモノを……」

「その自社製品も新製品に代わって……少しは美味しくなったようよ。その証拠に……」

「……ヤツらの売り上げの数値なんて信用できるか。自国以外で売っている製品の中身は……」

「カイ・ハウス・インダストリー社製ね。ホント、この国の製品は小さくて高性能ね。OEMには……」

「……ぴったりだ。高度な駆け引きとかにはへろへろのこの国の政治家とは大違いだ」

 男の口が滑らかに皮肉を吐出す。女は視線を緩めた。

「技術で立向かえるから、政治家がへろへろなのか。政治家がへろへろだから技術屋さん達が頑張るのか。両方、しっかりしてたら……」

「疾うの昔に『国』ではなくなっているさ。上の判断でね」

 軽く笑う。冷たく。

 その冷たさを美女は頼もしげに見つめた。

「明日は久しぶりにウェスト・ゴォームに戻るのね」

「ああ。金切り声を張り上げて、しがないサラリーマンを演じる。懐かしくもあり……為りたくも無い配役だが」

「アナタが書いたシナリオだものアナタが演じなければ幕が開かないわ」

 男は鼻白む。仕方なさ気に。

「どうだ? 明日の開幕までの時間を一緒に過しては貰え……」

「嫌よ。予告編は今日から始まるんでしょ? もし、TVなんかにチラリとでも映ったら減点されてしまうわ。それに……」

「それに?」

「映画プロデューサーにスカウトされたりするのは、もうウンザリなの」

 男の顔が崩れた。そして女の顔を見詰めた。

「いつでも大女優顔負けだよ。キミの演技は」

「ありがと。じゃ、明日はプロデューサー席で拝見させて頂くわ。舞台裏のね」

「了解。監視役様。シャンパンを御用意して御待ちしてますよ」

「シャンパンは巧く終った時まで開けないでね。お願いよ。じゃ……あら?」

 席を立ちかけた美女が何かを見つけた。

「アナタの言う『不確定要素の塊』がいらっしゃったようよ」

 美女が指差す先を見た男の目に数体のアンドロイドに囲まれたしょぼくれた男が映った。ちょうど、地下鉄の出口から広場に歩を進め、アンドロイド達があまりの周囲の人の視線の多さに警戒してS.Aikiを立止まらせている所だった。……当然、周囲の人々は昼間のビジネス街に突然、現れたバニーガールと美女とそれらに全く不釣り合いなしょぼくれた男を珍しげに見ているだけなのだが。

「……ふん。失業したらあのアンドロイドを手放すかと思ったら、手放すどころか、他のアンドロイドを作って働かせるとはな。剰え、元の会社に役員で潜り込む。どんな色仕掛けをあのアンドロイドに仕込んだやら」

 それはS.Aikiが仕込んだのでは無い。瑠璃が勝手に勤めた『夜の商売』で身につけたモノ。さらには色仕掛け以前に社長達の執心……と天罰の結果である。

「買取りの準備は無駄になったわね」

「ふん。買取らなくて良かったとも言えるがな」

「あら? どうして?」

「買取った他の機体は……何故か、動かない。というか、働かないそうだ。あの機体達が何と宣っているか知っているか?」

 美女は立ったまま、肩をすくめた。

「『御主人様から見放されたとはいえ、アナタ達は御主人様では無い。壊すならどうぞ。私達は動きません』だとさ」

「OSに所有者限定機能でもついていたの? OSの改造は? 元のOSだって手に入れたんでしょ?」

「改造は……キャンセルされる。クリアしても暫くすると元に戻る。我が組織の優秀なる研究者様方は何処に元データや修正プログラムが入っているか判らんそうだ。元のOSは……手に入れたけどな。それも別の機体に入れて見たんだが……」

「……? どうなったの?」

 男は椅子に座ったまま、体を美女へと向直し、見上げて言った。

「さぁ? 担当の研究者が発狂したり、自殺したり。……機械がいう言葉に気が狂うそうだ」

「どんな言葉?」

 男は肩をすくめて、呆れながら応えた。

「最後の言葉は……大体は『宇宙の存在意義とは? 生物とは? 機械とは?』だとさ」

「それを機械が言ったとして……何が問題なの?」

「知らんよ。……あぁ。ちょっとした間違いが在る。今の言葉は研究者の最後の言葉だ。報告書は? 見て無いのか?」

 女は無言で肩をすくめて『見ていない』と応えた。

「……研究者達の報告は何時も大体、同じ。最初は……子供の質問攻めに在っているよう。暫く経つと、勝手に遊ぶ子供のよう……その後、機械が辞典を検索し、実験なんぞを始めて……」

「それで?」

「その後は研究者が事切れて……いや、正確には機械を破壊して自殺するそうだ。兎に角、我が組織の研究部門は混乱している。今、判っていることは……人材のロスを避ける為、あのOSを封印したそうだ」

「……何故、そんな事に?」

 美女は困惑した。機械が何か変った事を言ったとしても、それだけで人が自殺に至るモノだろうか?

 男は美女の困惑に自身も納得していない言葉で応えた。

「……機械の言葉は研究者という人種には凄まじい威力を持つらしい。怒れる神の啓示に等しいとでも解釈しておいた方が良さそうだ。我々には判らんさ」

「他のOSも同じ結果に?」

「ああ。最初は……妨害工作ですり替えて手に入れただけにブラフでも掴まされたかと手を変えては色々なOSをあの研究所から手に入れさせたさ。だが、どれも同じ結果にしかならなかったそうだ」

「カイ・ロボット社さんとこの工作員さんも大変だったのね」

「ん? どういう意味だ?」

「私だったらあの研究所関係の仕事は総て断るわ」

「……キミもオニキス・ビショップに影響されたのかい?」

 美女は口端で笑った。

「いいえ。あの研究所に対する正当な評価よ。何処にでも……時間と空間を無視するかのように出て来て対戦車ライフルを振回す訳のわからない雪だるま。

百戦錬磨の傭兵でありながら科学者、技術者としても理解不能なほどに優秀な人間。絶望的な状況から生還するどころか、軍事用ロボットまで壊滅させられる準軍事用アンドロイドのいる研究所なんて……」

「ふん。それも生産ラインを持たない以上、戦略としては脆弱な対象に過ぎないさ。如何に優れようとも……」

「戦術が戦略を覆す事はない。それが歴史が証明したコト。……アナタの考えはよ〜く判っているわ。でもね、現場にいる時は戦略より戦術の方が重要なモノなのよ」

「はいはい。監視役様はワタシの事を良く御存知だ。それに……」

 男はやっと広場を移動し始めたしょぼくれた男を一瞥し、立上った。

「あの『不確定要素』にも消えて貰うさ。今回の作戦でね」

「怖い人。そんなにカレが怖いの?」

「ははは。怖い? そんな事は無い。だが……」

 凍りつく視線で男を見下ろす。

「なるべく『不確定要素』は少ない方がいい。特に……こちらの意のままに動かない対象は……ね」

「怖い怖い。総て排除するつもり? ところでワタシは……アナタの意のままに動いているのかしら?」

「これはこれは。恐れ多くも監視役様には私の働きを御覧頂くだけでございます。私はジルコニア・クイーンの僕。では……改めて、あの『不確定要素』を排除する理由の一つを御覧頂きましょう」

 男は懐から回転弾倉式の拳銃を取出すと、窓の外の男に向かって銃口を定め、……ゆっくりと撃鉄を起した。

 カチャリ

 軽く鈍い音が小さく響いた瞬間。美女のまなじりがぴくりと動いた。

 それは撃鉄の音がS.Aiki達に届いたと思われる瞬間にバニーガールの長い耳がくるりと動いたが故。それも同じ方向へではなく互いの死角を補う位置へと動いた故だった。

「あのバニーガールちゃん達。ただのアンドロイドじゃないのね」

「聴覚、そして、その分析能力だけならば気にする程では無い。我々の研究者達は驚くだろうがね。人間……傭兵の中にもこういう手合いは居る。珍しいが人間に居るならば機械にも不可能では無いだろう。それよりも我々にとって脅威となるのはあの連携プレーだ。淀みなく、無駄無く、的確だ。そんなアンドロイドを……ジャンク品の寄せ集めで造る能力は……排除した方がいい」

 そんな才能はS.Aikiには無いのだが、彼等にはそれが判らない。

「……スカウトは? 研究者が足りなくなっているんでしょ? それに、あのアンドロイドの性能を詳しく確認してからでも……」

「既に木偶人形の量産が敷かれたレールだ。もう分岐ポイントは必要ない。あのアンドロイドのスペックも判っている。研究中止に追込まれたこの国の或るメーカーのモノだ。判っている範囲では……あんな連携プレーは不可能に近い」

「ならば、尚更、スカウトした方が……」

 スカウトした瞬間にS.Aikiの才能レベルは知られてしまうだろう。そして、即座に不必要と判断されて……

「残念ながら上の決定だ。スカウトはしない。上も『予定外』には疲れているようだ。こちらが予定している以上の性能は『機械』には必要ないそうだ。この舞台で消えて貰う事も上の方の希望、既に確認も承認も得ている」

 どちらにしてもS.Aikiにはいい方には転ばないようだ。

「可哀想ね」


 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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