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本編 25 〜増殖 11 〜

瑠璃が増え始めた……

 身構えるアンドロイド達。一つ咳払いをしてS.Aikiは言葉を続けた。

「……A3Hって何? それに瑠璃4が使役用とか汎戦闘用とかは?」

 一同のアンドロイドはコケた。瑠璃を除いて……

「A3HってぇのはAnti Android And Human、つまりは対アンドロイド&対人用の略語で、単純に言えば白兵戦専用として造られたってとこよ」

 ぼりぼりと頭を掻きながら瑠璃1が応えた。

 他のアンドロイドがコケたのを不思議そうに眺めながら瑠璃が尋ねた。

「まぁ……ね。そのコピー2体を造る時に記憶装置に残っていたデータを解析した結果よ。まぁ、殆どは挙動制御のデータ関係だけだったけどね」

 応えながらも瑠璃1は心(内部記憶装置)で呟いた(考えた事を出力した)。

(……瑠璃3とか瑠璃2とかが妙な行動したからね。何の影響かを知りたかっただけよ)

「……で、瑠璃4の原形はなんなんだ?」

「元を正せば、アルファ・ダイナミック・アンドロイド社製の軍事汎用アンドロイド。戦場とかで大口径野砲の砲弾の充填とか、その砲弾の運搬とか……まぁ、戦場の後方支援で人間の代りに雑用をこなすアンドロイドが原形。それを……」

 瑠璃1は額に指を当てて空を見上げながら応える。

「……あの対テロ用アンドロイド・コンペティションで重火器を背負って参加したのがこの子の直接のプロトタイプになるのかな? まぁ、それも原形からみればスペシャルタイプと言った方がいいわね。原形の方は歩兵戦闘で先陣を切って戦っていたというのが戦闘実績だからね」

 何故か誇らしげに胸を張る瑠璃4。その挙動を……というかより強調された巨乳を軽く睨みながら瑠璃が言葉を繋げた。

「……それならば私にもデータがあります。アルファ・ダイナミック・アンドロイド社製AR−14F。元は使役用アンドロイドながら対人地雷の動作除去というか踏みつけての破壊、敵からの攻撃防御として歩兵部隊で多く用いられた戦闘用アンドロイド。人間の使う武器を装備できるという利点と二足歩行での踏破性の特性……装甲車両が入り込めない森林地帯などでの侵攻に多く用いられ、また、重火器も軽々と扱える事から、あの『鉄人形』に対して『ヘビーガン・ドール』や『アイアン・レディ』とも呼ばれている……でしたね」

 瑠璃の説明に何故か瑠璃4はうっとりと聴き込んでいた。

「そうですっ! 幾多の戦場で先頭を切って突撃し、また人間達の盾となり、撤退する時には負傷兵を抱えながら。更には人間達が数人かかって扱う重火器を片手で扱う……たまには腕の中の負傷した兵士から『MyGoddess』なんていわれた時も……」

 嬉々として話す瑠璃4を呆れた目で眺めながら瑠璃1は心の中で呟いた。

(あ〜ぁ。コイツも変な記憶があるよ。……しかし、何処に在ったんだ? 主記憶メモリーはクリアーしたのに……)

「……それは、何処の記憶だ?」

 きょとんとした顔でS.Aikiが素朴に尋ねた。

(御主人様っ! ナイスッ!)

 かなり古い表現で喜びながら瑠璃1が即座に言葉を繋げる。

「そうっ。アンタのその記憶は? 主記憶メモリーには何も無かったわよ」

「何処って……」

 瑠璃4は暫く悩んでいたが、自分の頭を自分の拳でこつこつと叩き、そして、おもむろに言った。

「……これはアタシの宣伝用キャッチコピーですね。演算装置の横の言語回路のROMの中に在りました」

 コケる一同。……やはり、瑠璃はコケずに瑠璃4を不思議そうに見ていたが。

「……でも、アナタは女性型では無かったでしょ? 少なくとも対テロ用コンペに出てたのは無性別のタイプだった筈よ」

「それは……」

 もう一度、瑠璃4は頭を叩きながら考え始めた。

「大方、Lapis Lazuliの活躍でいろんな研究所で開発を始めたのが女性型だったからでしょ? 瑠璃3達も女性タイプだしね」

 瑠璃1が不貞腐れたような顔で替りに応えた。

「なんで女性タイプ……あぁ、そういえばLapis Lazuliのキャッチコピーにも女性タイプとした理由が在ったな」

 S.Aikiが自問自答し、納得した所に瑠璃が言葉を足す。

「対テロ用として造られた私達のプロトタイプにあたるLapis Lazuliさんからの流れで私は女性タイプとして……瑠璃1と瑠璃2は元から少女タイプのモノ。瑠璃3はLapis Lazuliタイプとして造られた以上は女性タイプで当然。……しかしっ! 瑠璃4は? 純粋に戦闘用ならば無性別でもよかったのでは?」

 S.Aikiは疑問を口にする瑠璃を見、その視線の先を確認すると……瑠璃4の胸、いわゆる巨乳に辿り着いた。

(ふむ? ぅわっと)

 不意に振向いた瑠璃の視線を避けてそっぽを向くS.Aikiを悲しげに見て瑠璃はさらに語尾を尖らせて瑠璃4に尋ねた。

「ですからっ! 何故に不必要ながらも見事なまでに御主人様の嗜好に合致したスタイルで製造されたのかを確認したいのですっ!」

 瑠璃の言動を疑問に感じていた瑠璃1は、S.Aikiと瑠璃の挙動から総てを察し……醒めた。

(ははぁん。瑠璃姉ぇは瑠璃4のスタイルに嫉妬しているんだ……御主人様の趣味嗜好に見事に合致しているもんね。ん? ……嫉妬? そんな。人間じゃあるまいし)

 疑問には思うが、大した話では無い。だが……もし、そうならば瑠璃にとっては重大問題なのだろうと考え直し、瑠璃1はその場を取繕う事にした。

「……そんなら大したことじゃないわ。その子……瑠璃4のパーツボックスの中に開発レポート……というか販促チラシみたいのが入ってて、それによると『Lapis Lazuliタイプ最強! フルアーマーアンドロイドの純戦闘用アンドロイドをベースにLapis Lazuliタイプとして……』とか書いてあったわよ。たぶん、そういうのでも売れるんじゃないかと取敢えず作って見たって所じゃない?」

「でも……そういう場当たり的な販売方針では……」

 納得していない瑠璃に、S.Aikiがさらに言葉を足して繕う。

「……だから潰れた。……というか吸収合併されたんだろ? ゼネラル・アンドロイド社に。人員整理で大量解雇……って、業界新聞に書いてあったしなぁ」

「……そうなんですか。……あ、在りました。アルファ・ダイナミック・アンドロイド社。1対9でアルファ・ゼネラル・アンドロイド社と合併。事実上の吸収……研究・開発部門は整理統合……販売網は再整理。……アンドロイドの過当研究競争の悲劇……防弾シリコン製造部門は独立。将来的に戦闘用アンドロイドはアルファXT2の派生品に統一される模様。長年に渡る戦場でのロボットARシリーズの終焉。つまり……」

 記憶している新聞記事を検索し述べる瑠璃の表情を注視しながらS.Aikiがシメの言葉で割込む。

「……まぁ、ロボットからアンドロイドへと移行する間の出来事さ。瑠璃4はその徒花って所かな?」

 瑠璃の鋭い視線を感じながらもS.Aikiは悲しげな表情を取繕う。

「徒花どすかぁ。うちと同じですなぁ」

 袖で涙を拭くフリをする和装のアンドロイドを横目で睨み、瑠璃4は尋ねた。

「そういうアンタは何処の徒花なんだい?」

「うちは……」

「受付嬢ロボット。ホクメン・インダストリー社製、SA−22……の戦闘用再設計プロトタイプC……でしょ?」

 瑠璃1が割込んで説明する。……取敢えず、この場を終らせたいようだ。

「おおきに。そうどすかぁ? 私ぃのメモリーの中にはSA−24P、typeDcustom2……とありますぅ」

「……SA−20シリーズは受付から始まって、来客案内、接客、さらには看護ロボットなどの専用タイプのSA−10シリーズを統合して開発された汎用アンドロイド達。……そうか、そういうモノもLapis Lazuliに触発されて、対テロ用アンドロイドとしての可能性を研究されたのか……」

 思わず呟くS.Aikiに瑠璃が言葉を繋げた。

「しかし……ホクメン・インダストリー社は次期汎用アンドロイドの独自開発を中止。今後はアルファ・ゼネラル・アンドロイド社と提携し、アルファXT2をベースとした改造タイプを製造販売する方針……。先週の新聞記事ですが」

「……うむ。あちこちでアルファXT2に統合されていくよなぁ。……単価の圧縮には量産効果も出易いし、オプションパーツも造り易いけど……」

 S.Aikiは、何かを懐かしむように呟いた。

「なんか、ワープロとかパソコンのような流れだよな。主流が形成されるといろんな発想の個性的なモノが消えていく。……仕方ない事かも知れんが。同時に面白くもなくなって、それまでの顧客というか市場を支えていた何割かは離れて行くんだよなぁ。まぁ、新たな顧客が増えて市場が確立して行く流れの中の徒花なんだろうけど……」

 S.Aikiの言葉を真面目な顔で聞いていた瑠璃4と和装のアンドロイドと瑠璃3のコピー達は先程までに張合っていた視線の遣り取りを止め……真直ぐな眼差しでS.Aikiを見つめた。

 だが……ふと、何かを思いついたように瑠璃2が呟いた。

「んでぇ……名前はどうなったの?」


40.日誌

 えーと。過去の日誌は無いから……日誌No.1として整理、報告。

 結局、昨夜はアレから色々と揉めはしたが、高出力タイプの元AR−14は瑠璃4として、元SA−24は低出力タイプのプロトモデルの瑠璃5として、瑠璃3の2体のコピーというか、元々はA3Hの1号機〜3号機、ワタシが造る時に気にせずに部品をシャッフルして繋げた事をぶつぶつといっている真面目な方は瑠璃30……なんでも頭部ユニットは1号機のモノらしいので、瑠璃3の根源として自ら『0』をつける事を望んだという事で、瑠璃30という名を納得したらしい……のと、そんな事を全く気にせずに、単に動作が機敏で在る事だけをなんとなく自慢しているのを瑠璃31として、名前をつけた。……と。今後はワタシのログを……というか全員の行動ログを瑠璃姉ぇに提出する。御主人様は増殖に関する要求は瑠璃姉ぇに相談して……というか報告する事。

 後は……


 瑠璃1はそこまで自分の記憶装置に展開し、昨夜、決まったことはそれだけだなと再確認した。そして、傍らの道具箱から細長いチタンのボルトを一つ、摘まみ上げると口に咥え、もう一本を掴むと、トントンと机を叩きながら続けた。


 ……んで、今日の出来事としては、瑠璃2が御主人様について行くのを自ら止めた。今までは隙あらば引っ付こうとしていたのだが、その行動要求はひとまず落着いたようだ。瑠璃3は初めての護衛用アンドロイドとしての務め……御主人様の出勤に同伴し護衛できる事を感涙を流しながら喜んでついて行った。無論、瑠璃30と瑠璃31も付いて行ったのだが……バニーガールを3体も一緒に行動しての出勤なんて、周りからどう見られるのか? ……なんて、ワタシが心配しても仕方ない事だが。瑠璃4は衣装ストックの中から、瑠璃姉ぇのロングコートを貰って喜んでいたが、さっきは『丈が短い……』と不満を口にしていた。瑠璃5がそれを見て『ほなら、直しましょ』と裁縫していたが……なんで裁縫の行動データベースが在るんだか。尋ねた所、瑠璃5はSAシリーズの過去のデータを殆ど全部を記憶しているらしい。なんでも、研究所に在った主要なバックアップデータを全部コピーされたらしいのだ。まぁ、それであんな変な言葉づかいを自ら選択しているのかも知れない。……ん?


 瑠璃1はドアの外の音に気づいて、顔を出して窺うと……瑠璃4が出勤しようとピンヒールのロングブーツの紐を編み上げている所だった。そして、その隣で……

「瑠璃5。アンタ、何処に行くのさ?」

 瑠璃4の様子をゆったりと見ながら、自分の髪形を手で直している御出かけ様子の瑠璃5が居た。

「へぇ。なんでもぉ、今朝方の請求書で御主人様の財布がお困りのようですからぁ、アチキも僅かながらもぉ、お手伝いさせて頂こうと。瑠璃4姉さんの紹介で店で働かせて頂こうと思ぅとりますぅ」

「ちょい待ち。それは御主人様は知っているん? さもないと……」

「気になさらんと。後で御主人様に直接叱られるんでしたら、如何なる罰でも受けますぇ。それに収入は多い方が良いんとちゃいますぅ? なんでも、この前の駐車場も総て御主人様の借り物になったという事ですからぁ」

「あ゛……」


 追加。昨日……というか昨夕、瑠璃3達の組手に車を壊され……いや、多少、傷をつけられた持主さん達が持って来た請求書と、新しく借りる駐車場の手付金、それに『そんなら全部借りて貰わないとね』と大家さんに言われた書付けを渡し……御主人様は大分しょげてから床に就いたのは、命名が終り、日付が変った直後だった。……と


 瑠璃1は頭の中の日誌に記憶の断片を追記してから、瑠璃5に礼を言った。

「ありがと。危うく忘れるとこだったわ。……ま、確かに収入は欲しい時期だわね」

「そぉいう事ですぅ。では、瑠璃4姉さん。行きましょか?」

「おぅ。今日も殴り倒して、稼ぎまくってやるさ」

「殴って? なんか物騒な所ですなぁ」

「確かに華奢なアンタには向いて無いかもね。まぁ、紹介屋を掴まえてアンタに相応しい店を紹介して貰うさ」

「おおきに。頼りになりますわぁ。瑠璃4姉さんにアチキはついて行きまっせぇ」

「おぅ。正面切って歩くのはアタシの本分だからな。大船に乗ったつもりで……んしょ。ついといで」

 くすりと口を隠して笑う瑠璃5に気付かずにブーツを編み上げ終えた瑠璃4は大手を振ってさっさと歩いて行く。その後を楚々とした歩調で付いて行く瑠璃5を眺めながら瑠璃1は悩みを深めた。

「本当に……アイツらも訳が判らんねぇ。……瑠璃4が単純なのは確かだけど。さて……」

 口に咥えたボルトを取出し、何気なく手に持っていたボルトと一緒に持つ。ふと、それを見ると……

「ん? 長さが違う……? ……え?」


 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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