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本編 24 〜増殖 10 〜

 瑠璃が増え始めた……

39.ソレゾレの素性

「やぁっ!」

「てぇっいっ!」

「なんのっ!」

「うるさぁいっ! アンタ等はっ! 何時だと思ってんのっ! それにアンドロイドなんだから声で気合いなんか入れなくてもいいじゃ無いッ! ……とや?」

 S.Aikiのアパート前の庭……というか駐車場……何故か車は1台も止まって無いが、片隅にはスクラップといった方が正しい鉄の固まりが数台。その中で瑠璃3とそのコピー2体の組手の声が五月蝿く、窓から叫んだ時、瑠璃1の視界の端に映ったのは……少しだけ驚いているしょぼくれた男とその隣で驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべている長身の美人アンドロイド、瑠璃の姿だった。

「やばっ! ……ん? 何がヤバいんだ? まぁいいや。じゃ帰ってきたから」

 瞬時に身を隠す自分自身の行動に自分で疑問を持ちながらも、玄関前で待っているアンドロイドに声をかけて瑠璃1は組立部屋に戻った。

「ただいまっ! 凄いじゃないっ! 瑠璃1、あの子達は正に護衛用アンドロイドとして……て? 誰?」

 勢いよく開けた玄関のドアの向う。元、板の間というか廊下に三つ指をついて深々と頭を垂れて挨拶している和装、古式髪型のアンドロイド。

「……? アナタはドナタ?」

 問う瑠璃の声には何も反応せずにそのままの姿勢で微動だにしない。

 よく見れば、来ているのは瑠璃がS.Aikiに買って貰った和服ではなく、先日瑠璃1が大量に仕入れた服の中に間違って入っていた……確か『花魁用』とタグのついていたモノ。崩し気味に着こなしているその様はその服に似合っていた。

 ……という事は、そのアンドロイドは瑠璃のコピー?

「ん〜? どうして名乗らないのですか?」

「どした? 瑠璃。……っとぉ」

 S.Aikiの声にゆったりと反応し、そのアンドロイドは一度、更に深く頭を下げてから挨拶した。

「お帰りなさいましぃ。旦那様ぁ。私ぃ、低出力型アンドロイドの雛形としてぇ、瑠璃はんの7体めぇのコピーとして造られましぃた。どうぞ、私ぃに名前を付けておくんなましぃ」

 ゆっくりと上げたその顔は黒目がちで大人しそうな顔の造りながらも、言葉の端々を奇妙に訛らせているのは……自己主張の顕れであろうか?

「えーと。7体めとなると……」

 瑠璃7となる筈である。……が、S.Aikiは『ある事』を考えていた。そして、『その事』に瑠璃が気づいた。

「7体め? 外に居る2体を入れてこの子は6体目じゃないの? 瑠璃1」

 奥の瑠璃1を呼ぶ。……と、何故か物凄く失敗したような表情で瑠璃1が出てきた。

「ん? ん〜。何? その子の言葉づかいなら、なんか昼のTVドラマの……」

「そうじゃなくて……」

「失礼ながら、私達の命名をお願いします。御主人様」

「そうそう。ささっと命名してネ。もうちょっと挙動確認のための組手をしたいんだからネ」

 瑠璃と瑠璃1の会話に割ってきたのは、先程、瑠璃3と組手をしていたアンドロイド達。ウサ耳にレオタード姿。見るからに瑠璃3のコピーとした風情の2体のアンドロイドが息を粗いままにS.Aikiに詰寄ってきたのである。

「何? アナタ達。少しは礼儀という物をっ! 瑠璃3。組手より先に……って、どしたの?」

 瑠璃が諌めるように指示しようとした瑠璃3は息も絶え絶えに……後ろでへたっていた。

「はぁはぁ……すみません。2体1の組手でちょっとオーバーヒートを……」

「瑠璃姉ぇ。瑠璃3達は熱交換器が人間で言う所の肺にあるから。『呼吸』で熱交換効率を変えられるんよ」

 したり顔で……それでもどこか堅い表情で瑠璃1はその場を取繕うとした。

「はぁ? それで?」

「ついでに言えば、その子達は固体ヘリウム電池を基本出力ベースとして、瞬時の増加出力必要時には汎用アルコール燃料電池を使ってるから内部温度が上昇し易い……」

「それはいいからっ! この子達の……」

 瑠璃は2体のアンドロイドを指差してから……動作を停止し、そして思い出したように呟いた。

「……7体?」

 そして、ゆっくりと辺りを見渡す。

 視界に入るのは、組立部屋の入口で黙ったままの瑠璃1、目の前でS.Aikiに飛びつく隙を窺っている瑠璃2、玄関の外で息を切らしている瑠璃3、その前に居る瑠璃3のコピー2体、玄関で畏まっている新しいタイプのコピー。

 ……やはり6体である。

「アナタ。何で、7体めと……お?」

 その時、後ろの階段を登って来る足音。軋む階段の音からかなりの重量、そして音の高さから履いているのが……

「……ハイヒール?」

「ピンヒールです。ただいまぁん。ご・しゅ・じ・ん・さ・まぁん」

 外から入って来たその大女は瑠璃3とそのコピーを押し退けるようにして入って来ると、いきなりS.Aikiに抱きついた。……というより、S.Aikiの頭をむんずと掴むとその豊満過ぎる胸の谷間に埋めた。

 見れば長身の瑠璃よりも頭一つは大きい。そして、各ボディサイズもまた……あからさまにボリュームが在った。

「ちょっと、アナタっ! 何処のドナタかは……」

「アタシはココの瑠璃4ですっ! ……で、いいんですよね? 御主人様」

 だが……大女の胸の谷間でS.Aikiは微動だにしない。

「……ほら、御主人様は知らないって言ってるわ」

「何言ってんのっ! 御主人様はアタシの胸の感触を楽しんで……あれ?」

 S.Aikiは……その時、既に大女の胸の谷間で窒息し、気絶していた。

 ……またかい。


 何故か居心地が悪そうなS.Aikiの正面に和装のアンドロイド、その隣にはボンデージドレスファッションの大女のアンドロイド、さらにその隣に瑠璃3のコピーの2体のバニーガール姿のアンドロイド。そして正対するS.Aikiの両脇に瑠璃と瑠璃2。瑠璃に正対する位置に瑠璃1と瑠璃3が座って……黙ったまま、様子を窺っている。

 瑠璃はS.Aikiの顔をちらりと眺めてから傍らの4体のアンドロイドを見た。

 改めて眺めて見れば……花魁にボンデージ、さらにはバニーガールが2体。

(……なんか思い出したくないような格好のが揃ってしまいましたね)

 眉をひそめ、思い出したくない記憶をもう一度、厳重に暗号化し圧縮して記憶素子の中の深層部のアクセス禁止のホルダーを造り、置く。

 それでもバックアップされた分は『反省』という名のホルダーに在るのだが。

「……で、どうしてこういう事態になったのか。説明して頂けますか?」

 誰を指すでもなく瑠璃が尋ねる。瑠璃1はその問いが自分に向けられたのだとはすぐに判断したが、応えずにS.Aikiの方を睨み……口端を動かして応えるように促した。が、それを即座に見止めて瑠璃が鋭い声を上げた。

「瑠璃1っ! アナタに聞いたんですっ!」

 びくっと瑠璃1は首をすくめたが、すぐに開き直って言い返した。

「私は御主人様に命じられたままに作っただけですっ! ねっ? コラ!」

 思わずそっぽを向いたS.Aikiを即座に脅しつける。

「静かにっ! 瑠璃1。……で、御主人様。本当ですか?」

 瑠璃の問いに他所を向いていた顔をゆっくりと戻し、そして黙った頷いた。

「……で? その理由は何でしょう?」

「まぁ……一言で言えばだ……」

 S.Aikiは小さく咳払いをして、覚悟を決めて話し出した。

「……支出が嵩んだ為。でだ、私の収入のUPは見込めない……で……」

 長くなるので割愛すれば……まぁ、以前に瑠璃が勘違いして働いていた『夜の仕事』の収入が良かったので、それを行う為のアンドロイドの製作を頼んだ……ということである。

 S.Aikiの話を黙って聞いていた瑠璃は伏し目がちに尋ねた。

「……確認したいのですが」

 S.Aikiはちょっとだけ身構えて……身構えても何も意味をなさないと悟り直し、出来るだけ平静を装って、瑠璃の次の言葉を待った。

「……どうして私に、その仕事をするように申しつけなかったのですか?」

「それはだな……幾らアンドロイドとはいえ……私専用の秘書アンドロイドだとしてもだ……嫌がるモノを頼む訳には……」

 瑠璃の視線から逃れるように目を閉じて正面を向いたままのS.Aikiの顔は苦悶に満ちていた。その顔をにらめっこと勘違いした瑠璃2が面白そうな顔を作る。が、即座に瑠璃にぺしりと頭を叩かれて拗ねて止めた。

 その様子にくすりと笑った瑠璃1をギロリと瑠璃が睨み、その瑠璃の顔に瑠璃3が恐れをなしてたじろいだ。

 無言のままの一連の動作……というか、芝居じみた遣り取りに退屈したのか瑠璃3のコピーの1体が静寂を破った。

「どーでもいいからさ、早いとこアタシ達に『命名』してくんない? ネ?」

 生意気そうな口調のアンドロイドを隣の真面目そうな面持ちのもう1体の瑠璃3のコピーが窘めた。

「御主人様にも御都合というモノがあります。その時まで黙って待ちなさい」

「だってさ、このままじゃ日が変っちゃうからネ」

「そうどすなぁ。日ぃが変ったら名なしのアンドロイドという記憶が一生残りますさかいに。そしたら悲しゅうて、『暴走』するかも知れませんなぁ」

 科を造りながら和装のアンドロイドがS.Aikiをちらりと睨んで、袖で顔を隠し……その袖の影でちろりと舌を出してくすりと笑った。……睨んだ時に即座に恐怖の色を浮かべたS.Aikiの顔が面白かったらしい。

「なんだ。アンタ等、事前に名前が決まって無かったの?」

「そういう貴女さんは決まってますんか?」

 小首を傾げて隣の大女を見上げる和装のアンドロイドは黒目勝ちの目をぱちくりさせた。

「アタシの名前は瑠璃4。御主人様がアタシを瑠璃1さんに造るよう命じた時に一緒に命名して下さったのさ。ですよね? 御主人様ぁん」

 瑠璃4と名乗るアンドロイドの……あまり似合わない科にちょっと……というか、かなり引きながら……更には、それを見咎めた瑠璃4のキッと睨んだ視線にビクッと怯えながらも、虚勢を張ってS.Aikiは大袈裟に頷いた。

「そしたら……私ぃはぁ……ひぃ、ふぅ、みぃ……ななぁつぅ……『瑠璃7』になりますんかいなぁ?」

 指折り数えた和装のアンドロイドを見もせずに瑠璃3のアンドロイドの1体が即座に異議を唱えた。

「ちょっと、お待ち下さい。私達は瑠璃3のコピーとして造られました以上、3からの連番でないというのは合点がいきません」

 真面目そうなアンドロイドは眼鏡をすっと細く長い中指で上げながら、真直ぐにS.Aikiを見つめて言葉を続けた。

「しかし、御主人様が『4』というナンバーをそこのウドの大木のようなアンドロイドに命名を予定された以上、私はその意に従いとは思います。しかしっ……」

「ちょっと待ちな。『ウドの大木』とはなんだい? コレでもアタシは元を正せば汎戦闘用アンドロイド。護衛なんて半端な戦闘用アンドロイドとは造りが違うんだよっ!」

「そのように虚勢を張る事自体が『ウドの大木』たる故。私達はLapis Lazuli型アンドロイドとしてA3H専用のアンドロイドとして新たに設計された機体である以上、アナタのように元が使役用アンドロイドからの派生品とは……」

「やめいっ!」

 今にも殴り合いの喧嘩にもなろうとしていた2体のアンドロイドが毅然とした声に振向けばS.Aikiが難しい顔で睨んでいる。

 2体のアンドロイドは言い争いを止め、静かに座り直した。

「……で、だ。質問がある」


 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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