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本編 23 〜増殖 9 〜

 瑠璃が増え始めた……

「ですから、瑠璃1さんの身長が……」

「ストップ。その話は後にして。で、店長。電話で言ってたモノってドレ?」

 つかつかと店内に入ってきた瑠璃1を、見慣れたにやけ顔で迎えた若き店長はその後ろの2体のアンドロイドを見止めると、驚いた顔で瑠璃1に確認した。

「おぅ。ブツは倉庫に在る。いいぜぇ。何やら増産したと同時に品質も良くなったみたいだぜ。今度の防弾シリコンは。それに軍事用の女性型アンドロイドもLapis Lazuli型と称するゴツいタイプが……と。すまんが、後ろの方々は?」

 瑠璃1の後ろには……フワモコとしたゴチックドールそのもののフリルいっぱいのドレスの瑠璃2と、S.Aikiのスーツでマニッシュに装ったバニースタイルの瑠璃3。まぁ、あまり一般的な格好では無い事だけは確かだし、この店には更に相応しくは無い格好ではある。

「ん? ああ。まぁ気にしないで。姉妹……みたいなモノだから」

「姉妹みたいなモノ? ん〜。判った。従姉妹だな。ようこそ世界のジャンク街、紅葉原。その中のジャンク屋の中のジャンク屋。戦闘機から風車の羽まで扱う『bolt's&nut's』へ。……でだ」

 再び、若き店長は瑠璃1に耳打ちした。

「なんで、ゴチックドールとマニッシュ・バニーガールの格好なんだ? コスプレ・パレードは先週終ったぜ? そぉいや、アンタも何時もゴチックドール系っぽい化粧だよな? 類友ってヤツか?」

(ゴチックドールの格好しているんじゃなくて、そのモノなんだけどなぁ……)

 瑠璃1は事実を声には出さずに、適当に応えた。

「ん〜。趣味よ、趣味。気にしないで」

「そぉかぁ? 残念だが、ウチはハードパーツ専門店でお嬢さん達の趣味に合うようなファニーファンシー系のブツは扱って無いんだが……」

「ふぁにぃふぁんしー? 何それ?」

「アニメとかの女性キャラ用の小道具一般だよ。おっと、そうだ。ヤツなら知ってるかも知れねぇ。おーい」

 店の奥に声をかけるが……反応は無い。だが、突然、何か金属部品をとっ散らかしたような雑音が響いた。

「あっ……まぁた。ぶちまけやがった。おーい。大丈夫か? まったく、今まで着物しか扱っていなかったからって……すまんが、そこで待っていてくれ」

「ん。ところで誰なの?」

 くいっと小首で店の奥を指して瑠璃1は尋ねると、若き店長は立止まり、口端を上げて応えた。

「ほら。店じまいの衣装をいろんなパーツと一緒に御買い上げ頂いたろ? あの店で働いてたオレのダチ。その後の店長から使えねぇって追ん出されたんで、ココに置いてンだけど……力仕事がカラキシでね。いつもこんなだよ。おーい。生きてっかぁ?」

 やれやれと呆れ顔の瑠璃1に瑠璃3がそっと尋ねた。

「……素朴な疑問なんですが」

「なぁにっ!? 私の身長の事は後にしてって……」

「いえ。身長じゃなくて……なんで、今の人は私達の事をアンドロイドだと気付かないんでしょう?」

「ん? ん〜と……」

 言われて見ればもっともだ。暫く瑠璃1は考えていたが、ある結論に辿り着いて、(その結論自体も瑠璃1にとってはどうでもよかったが)瑠璃3に告げた。

「んな事はどーでも買物自体には影響無いからいいんじゃない? 向うも売る事しか頭に無いようよ。頼みも聞きもしていないファニーファンシーなんて、思いつくぐらいなんだから」

「……はぁ」

「もっとも、コッチとしても売る気まんまんな相手は買い叩くには丁度いいからいいんじゃない?」

「……そういうもんですか」

「そゆこと。アッチにしても私達が精緻なアンドロイドでも怪しげな木偶人形でも不可解な人間でも大差は無いハズよ」

「……売買って細かい事は気にしないんですね」

「そうそう。それが資本主義ってヤツの本質よ」

 瑠璃1と瑠璃3が雑談している間に店の奥で散らかした部品を片づけ終わったらしい店長が戻ってきた。

「ふぃー。ワリぃワリぃ。御注文のLapis Lazuliタイプの部品だったモンで再梱包に手間取っちまって。今度のは凄いぜ。なんでも純軍事用の派生品らしい。ゴツくて、頑丈をそのまんまパーツにしたような……」

「……店長。あんなに重いの扱うならチェーンブロックぐらい倉庫に付けましょうよ」

 若き店長の後ろからついて来たのは……見るからにヤサ男と言わんばかりの男だった。

「……聞いてます? 天井走行クレーンとかジブクレーンとは言いませんから、せめて電動のホイストチェーン……おや? 綺麗なドレスだねぇ。お嬢さん。ゴチックドール・ドレスなんて、前の店以来だなぁ」

 ヤサ男が思わず近づき、猫なで声で話しかけたのは瑠璃2。……いや、そのドレスだった。

「ん〜。この手触り。絹100%、しかも手縫いの細かい刺繍。上物だなぁ」

 うっとりしているヤサ男の様子にちょっと引きながら思わず瑠璃1は店長に尋ねた。

「何あれ?」

「ん? まぁ……ドレスフェチってヤツか? まぁ、こんなんで前の店でも買い手を選ぶは、上物とかは高値で仕入れるは、端物は安く叩き売るは……」

「はぁ……それで店じまいになって、挙げ句に叩き出されたって訳ね」

 納得して改めて呆れた瑠璃1の後ろで……瑠璃2が極めて低い声で呟いた。

「……音声確認終了。動作特徴確認終了……みぃつぅけぇたぁっ!」

 そして肉を叩き潰すかのような鈍い音と共に響く男の低周音の小さな悲鳴。

「へっ!? なに? ……げ」

 振返ると……股間を抑えて小さく震えて倒れているヤサ男と……何故か晴れ晴れとした表情の瑠璃2が居た。

「……あ〜。ま、ドレスだけを誉められたらレディに失礼だよなぁ。ほれ? 生きてっか? ……まぁ、奥で休んでろや」

 店長は抱えて奥に運ぼうとした……が、脱力しきった人間は思いの外に重い。瑠璃1は瑠璃3に目で助けるように指示しながらも、何故か嬉しそうに燥いで辺りをスキップしている瑠璃2を見つめていた。

(この子って……本当っに訳わかんねぇっ!)

 一応……後で今回の行動に至った理由と選択基準を行動ログから分析しようかとも思ったが、即座にその考えを否定した。

(……やめた。こんな行動の理由なんて知りたくも無いわいっ!)

 取敢えず、ぼりぼりと頭を掻いて、CPU回路周辺の冷却水パイプに震動を与えて素早い循環を促すしか瑠璃1には出来なかった。


「らんらららん。あー。すっきりした」

 スキップしながらリヤカーを引く、モコフワのフリフリドレスの瑠璃2を人々が不思議なモノを見るような面持ちで見ている。その光景を後ろをついて行く瑠璃1は呆れ切って見ていた。

 リヤカーの後ろを押す瑠璃3は時々振返りながら……愚痴を零していた。

「瑠璃1さん〜。物凄く恥ずかしいです〜」

「ま〜。それも『処罰』のうちだと諦めな」

「でも……人々の視線が痛過ぎます〜」

(暇が在ればバニーガールスタイルで頼みもしない警護活動とかで街ん中を走り回っていたくせに)

 瑠璃1は冷たい指摘を声に出さずに、慰めを言葉にした。自身への説得も込めて。

「気にすんな。この道は紅葉原からの帰り道。ほら、直になんか納得したような表情に変って行くだろ?」

「でも……だんだん視線の冷たさが増して行くます〜」

「ま〜。紅葉原から離れていったら視線が冷たくなるのは仕方ない。諦めるんだね」

 二人の会話を全く気にせずに、先頭の瑠璃2は燥ぎ捲っていた。

「わーい。大漁、大漁っ! これで御主人様に誉めて貰うんだ〜」

(はぁ……? 買物だけで誉めて貰う理由が在るまいに……本当に……っ!)

「あ゛ー。不可解なヤツっ! さっさと帰って、組立に没頭してやるぅっ!」

 瑠璃1は一頻り叫ぶと『その後』の事に思いを巡らせて、不敵に笑った。

 その様子を横目で見つめてから瑠璃3は顔を下げてこの『処罰』が今日で終わる事だけを祈っていた。

(こんな不可解に笑うアンドロイドとは同じ場所で同じ仕事はしたく無いっ〜)


 翌日、ビジネス街の隣。歓楽街へと続く道をピンヒールを響かせて歩くゴツい容姿の美女……いや、アンドロイドが居た。

「ほーほっほっ。この私が御主人様を救うなんて……なんて、アンドロイド冥利に尽きるんでしょ。おいコラ。そこの兄ちゃん。何見てンだい?」

 アンドロイドは徐にサングラスを掛けた怪しい男の胸倉をぐいっと鷲掴みにし、そのまま……紙切れかのように軽々と持ち上げた。

「な、な、何も見てませんって。ほんと。許して下さい。姉さんっ!」

「……音声確認終了。同一人物と確認。さぁ、つべこべ言わずに案内しな」

「は? 何の話で?」

「アンタはこの先にあるキャバレー街のスカウトだろ? おっと、違うなんて言わせないよ。さぁ、このアタシが大枚稼げる場所に案内するんだね。案内しないと……」

 ゴツいアンドロイドは男の目の前に空いていた片手を翳し……指先の硬貨をまるで粘土細工のように軽く曲げた。中指と人差指だけで……

「Lapis Lazuliタイプ高出力型アンドロイド、瑠璃4のアタシの力を……ん? 何、気絶してんだい。まったく……コレだから人間ってヤツは」

 男が気絶したのは胸倉を掴まれたまま空中に上げられた為に無造作に絞られたシャツが男の呼吸を阻害したため。それを気にもせず瑠璃4と名乗ったアンドロイドはショールのように男を肩に乗せ上げると、ピンヒールの音を響かせて通りの奥へと歩を進めた。

「まったく。まぁ大体の場所は知ってるからいいけどさ。こんな壊れ易い人間相手なんて気が重いわ」


 その頃。瑠璃1はドライバーとスパナを握り締めて……ほうけていた。

「なんで……瑠璃4は……あんな性格になったんだろう?」

「高出力だからじゃないですか? そんなの気にしないでいいですから、さっさと私の部下を作って下さいっ! 手伝いますからぁ」

 涙目で瑠璃1に訴えながらも、部下が出来る喜びに笑顔が隠せない瑠璃3は部下が出来た時の防御体制の種類を指折り数えていた。

「はぁ……まともな性格のは、なんで出来ないのかねぇ」

 それは御前がいう台詞では無いぞ。瑠璃1。



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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