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Prolog 4

 対テロ用アンドロイド Lapis Lazuliの戦い

12.じゃれあう人々(?)

 無節操な現象から目を逸らしたF.E.D.氏が見たのは……

アンドロイドというよりは、文字どおり意識のない機械仕掛けの人形のように体を動かし続けるLapis Lazuliの姿だった。

「おい? ラピス? 感覚センサーにでも異常が?」

 Lapis Lazuliは今先程まで此処で行われていた非常識な殴り合いの顛末にも関心を向けてはいない。

 もっとも、それは日常的に見慣れた光景だからとも言えたが……しかし、今はどちらかと見れば『彼女』は心此処に在らず……(アンドロイドに心なるものがあったとしてだが)……という風に見える。

「……ラピス?」

「退いてろ。旦那」

 心配するF.E.D.氏を退けて、SNOW WHITEが何処からかチタン製らしい銀白色のピコピコハンマーを取出し……おもむろにLapis Lazuliの頭を思いっきり叩いた。

「はうっ」

 目を回して砂に頭から突っ込み、Lapis lazuliは動作を止めた。

「おいおい」

「正体不明のフリーズにはリセットするのが一番だ」

 人類初の完全女性型アンドロイド、Lapis Lazuliは頭部に一定値以上の衝撃を受けると全動作を停止してOSから立上げ直すのである。

「……ハード環境確認。前環境トノ差異……0。前立上ゲ周辺環境トノ差異、……気温+15度c、湿度−30パーセント、照度+1000ポイント……動作ニ影響無シ、動作稼働OS立上ゲ開始……関節動作状況確認……」

 Lapis Lazuliは指先から順に凄まじい速度で関節の動作を確認しはじめた。

 まるで早回しのアニメーション。

「……全関節動作確認。問題ナシ。但シ右肱関節動作障害10%。定期メンテナンスレベルデノチェックヲ要ス。メンテナンスノート記入確認……」

 そして直立不動の姿勢になり固く閉じた瞼をゆっくりと開けてあたりを見回した。

 その目でF.E.D.氏とSNOW WHITEを確認するとLapis lazuliはきょとんとした表情で瞼を瞬かせてから深々と一礼して挨拶をした。

「おはようございます。本日の予定は……」

「半分済んでいる。これから残り半分を処理すればいいだけだ」

 SNOW WHITEが冷静に……ではなく冷ややかな目でLapis Lazuliを見ている。

「何があった?」

「いえ、何も……」

 SNOW WHITEは器用に首だけ180度回転させて、F.E.D.氏を振返って質問した。

「さっき、あの爺ぃと何かあったのか? 旦那」

「いや……何もない」

 F.E.D.氏はその時、ラプラス・バタフライがLapis Lazuliに笑いかけたという事を先程の殴り合いによる頭部への衝撃ですっかり忘れていた。

 怪訝な顔をもう半回転させてLapis Lazuliに向けると雪だるまはくっつかんばかりに少女の目を覗き込んだ。

 じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

「……・あの? 軍曹さん?」

 じぃぃぃぃぃぃいいぃぃぃぃいぃぃィィィィ

「おい? 軍曹?」

 じぃぃィィィいいいぃぃぃぃぃぃぃぃいいぃ

「……こんどは軍曹がフリーズしたのか?」

 じいぃぃぃぃぃぃぃぃいeぃぃぃぃぃぃぃぃ

 しつこく覗き込む雪だるまを制するためにF.E.D.氏は銀白色のピコピコハンマーをその手から奪い取って、思いっきり振り下ろした。

「はっ!」

 器用にも雪だるまことSNOW WHITEは首をそのままに胴体だけ180度回転させ、さらに器用にもピンポン玉のような手でピコピコハンマーを真剣白羽取りで見事に受止めた。

「やるな! 軍曹」

「なんの! 旦那の打ち下ろしが鈍いだけだ。それじゃハエも殺せんぞ」


 ぴくっ

 瞬時に顰め面になったF.E.D.氏の蟀谷が震えた。


「やはり、腰の入れ方が重要なんだ。振り下ろしの前に……」

 極めて不自然な格好のまま薀蓄を宣う雪だるまに耳を貸さずにF.E.D.氏はLapis lazuliに命令した。

「ラピス。戦闘モードテスト開始。目標、周囲10m以内の雪だるま状物体。全ての戦闘方法の使用を許可する」

「何っ!?」

 驚くのは雪だるま状物体であるSNOW WHITE。

「命令受領。行動開始します」

 冷静に命令を実行するのはLapis Lazuli。

 命令受領の言葉を発すると同時にLapis Lazuliはくるりとしゃがみながらその場で一回転し、伸び上がると同時に左腕をSNOW WHITEの首に叩き込む。

「ぐぼべぶぉおぅ」

 見事なスピニング・ロケット式ラリアットを食らい、奇妙な声を発して、吹き飛ぶSNOW WHITE……と、その真後ろに居たために余波を食らい、やはり吹き飛ぶF.E.D.氏であった。


13.事件の所在

「……そちらの設計仕様は理解いたしました。では、爆弾除去テストを行います」

 審査官達が神妙な面持ちで、3人(?)にテストの進行を言渡した。

 ぼろぼろになったF.E.D.氏とぼこぼこになった雪だるま、SNOW WHITEは、何故かすっきりとした面持ちのLapis Laszuliに言葉少なに命じた。

「あの……爆弾らしきガラクタをなんとかしろ。ラピス」

「大丈夫だ……いつもの練習を思い出せ。お嬢ちゃん」

 椅子に座り込んだまま指一本を動かすのも煩わしいほど疲れ果てている二人にクスリと小さな笑顔で答えて、Lapis Lazuliは爆弾が仕掛けられた小部屋に向かった。

「大丈夫です。いつもの研究所の爆発に比べたら、あの爆弾は威力にして2〜3倍程度と推定されますから」

 Lapis Lazuliは小部屋に入る前に椅子にへたり込んだ二人に声をかけて、ドアを閉じた。

「……なぁ、旦那」

「なんだ? 軍曹?」

 へたり込んだまま、雪だるまはF.E.D.氏に尋ねた。

「いま、お嬢ちゃんが俺達に笑いかけた様に見えたんだが……気のせいか?」

「それは俺も確認した。そして、その対象が軍曹でない以上、たぶん事実だ」

 暫く沈黙の後、雪だるまはまだ若き研究者に尋ねた。

「……俺だったら、事実とは認めんのか?」

「認められるような現象を一度でもした事があるのか?」

 暫しの沈黙。

「……なんか、自分が期待した答えと旦那が表現したい答えに微妙な違いを感じるのだが? 気のせいか?」

「微妙だとしたら問題だ。俺ははっきりとした違いを意識して答えている」

 暫しの沈黙の後、二人はゆっくりと立ち上がるとファイティングポーズで対峙した。

「一応、『事』の前に別の疑問を解消したいがいいか? 旦那」

「おぅ。『事』の後では対応する気にもならんだろうから今のうちに聞いてくれ。軍曹」

「『いつもの爆発』の2〜3倍の威力とは、このテスト用爆弾モドキの何倍の威力になるんだ?」

「事前に配られた参加者用パンフの記述から……ざっと推定して約200〜300倍…… ぬぁにぃ!?(意訳:何ぃ!?)」

 ファイティングポーズのままF.E.D.氏は小部屋のほうに視線を投げた。


  刹那!


「隙ありぃぃ」

 殴りかかるSNOW WHITE。

「それどころじゃない!」

 見事なカウンターキック(それは捻りも綺麗に構成された芸術的な中段蹴りだった)を雪だるまの顔面にめり込ませ、非常識な物体を沈黙させたF.E.D.氏は審査官達に噛付いた。

「何してるんです? あの爆発力は規定からして違反だ。しかもあんな小部屋で爆発したら……」

「気にすることはありません。あの防爆ガラスは使用した爆薬の100倍の強度を持っています。我々が被爆して怪我などをすることはあり得ません」

「そういう事を言ってるんじゃない!」

 両手で審査官達の前の机を思いっきり叩いてF.E.D.氏は叫んだ。

「どうして、規定外の事を参加者である俺達に一言も断りなく進める? これは試験じゃない! 事件だ! 陰謀だ!」

 机を叩きながら叫ぶF.E.D.氏を冷静な審査官の声がさらに熱く怒らせた。

「事件なんぞ此処にはありません。あの箱、防爆ガラスの小部屋の中で彼女が爆弾の無効化処理に失敗して壊れたら……まぁ、あのケーブルTVの連中には事件が起こる事になるかも知れませんが?」

「事件は箱の中で起こっているんじゃないっ! 此処で起きているんだっ!」


「旦那はロングラン映画の見過ぎだ」

 不意に背後に立ったSNOW WHITEが背中越しのショートフックをF.E.D.氏の鳩尾に沈ませた。

「ぐっ……げぼっ……ぎぇざぁぶあぁぁぁ(意訳:貴様ぁぁぁ)」

 不明瞭な声を発しながら力なく雪だるまの足元に崩れ落ちるF.E.D.氏。

「気にするな、旦那。お嬢ちゃんがあの『玩具』に火をつけることはあり得ない。存在しない未来を気にする事こそ健康に悪い」

 平然としながらも審査官達を冷たく睨むSNOW WHITEの足元でようやく呼吸を整えたF.E.D.氏が悪態をつく。

「……ぐ、軍曹と知合いであるという事実に勝る不健康な事象は無いような気がしているが……」

「それは間違いなく気のせいだ」

 言い切るSNOW WHITEの足元でF.E.D.氏は再び脱力して崩れ落ちた。


14.爆発の三原則(謎)

 小部屋の中に入ったLapis Lazuliは『爆弾』に触れることなくサーチしはじめた。

「……起動装置、デジタル式目覚し時計……重量センサー、振動センサー付と推定。一度解体した痕跡確認、トラップ内臓の可能性……67パーセント、解体難易レベルC、必要時間12分+−1分。解体手段放棄。……発火用エネルギー発生装置、単二乾電池。製造後5年9ヶ月経過……ダミーの可能性96パーセント。しかし、重量・振動センサー付故にダミーを偽装している可能性73パーセント。解体難易レベルC……解体手段放棄。……信号線38本確認。必要本数信号用2本+グランド線2本……34本がダミー用信号線と推定。ダミー信号線にトラップグランド線の可能性……99パーセント以上……解体難易レベルD、必要時間12分以上。……爆薬、N70プラスチック爆薬……重量、振動センサー4ヶ所に確認。雷管……2ヶ所に確認、爆薬・雷管部の通常手法での解体不可能と推定……」

 彼女の視覚センサーとSNOW WHITEに叩き込まれた爆弾の知識が『爆弾』の解体の可能性と手段を素早く確認しはじめて……既に8分が経過していた。


「爆発まで……後1分42秒673……解体手段……検索中……」

 Lapis Lazulの呟きは状況が絶望に向かって淀みなく進んでいる事を周囲に告げていた。

「……ラピスぅ」

「お嬢ちゃんを信じろ。旦那」

 小部屋の外で心配するF.E.D.氏と葉巻を燻らせながら審査官達を冷たく睨み続けるSNOW WHITE。


 そして爆発まで30秒を切った時……Lapis Lazuliが呟くように断言した。

「検索完了。 制限時間内でこの爆弾の通常手段での解体手段は皆無……」

「ナニィ!」

 驚くF.E.D.氏とギャラリー達。

 しかし、ラピスは静かに宣言した。

「爆弾強制無効化処理開始!」

 そして……


 片手で爆弾を静かにかつ確実に固定し、その固定した手の人差し指に雷管へと繋がる信号線を絡め、弾くように信号線ごと雷管を弾き飛ばすと、もう一方の腕を水平に薙ぎ払う……手刀で爆薬だけを削ぎとり、蹴り上げた右足が机ごと雷管と時計部を小部屋の天井の防爆ガラスを打ち破って上空に吹飛ばす。


 その間、約1,500分の一秒。


 手刀と蹴り足の速度が音速を越えたため、発生した鋭い衝撃波が小部屋の防爆ガラスの壁に無数のヒビを入れる。

 その直後に砕屑となったプラスチック爆薬が衝突し分厚いガラスを粉々に打ち砕く。


 上空で時計が0を刻み、小さな破裂音を立てて雷管が破裂する。

 舞い散るガラス片。

 衝撃波の振動が砂漠に波紋を描き消えていく。


 驚く審査官達。

 何が起こったのか理解できないTVクルー。

 口を開けたまま平静を装うっているF.E.D.氏。

 踏反り返るSNOW WHITE。


 ガラスの破片の落下音が消えた時。

 もはやフレームだけになった小部屋の中でLapisLazuliがゆっくりと振返り、にこりと笑った。


「やったぁ……凄いぞぉぉぉぉぉぉラぁピぃスぅぅぅぅ」

 奇声を上げて駆け寄るF.E.D.氏

「なんだ? 何が起こったんだ? 何故爆発しなかったんだ!?」

 何事が起こったのか理解できない審査官達に雪だるまが高らかに説明を始めた。

「爆発の3原則を知っているか? 爆弾が爆発するためには1.起動装置、2.雷管、3.爆薬が全て完全に接合され稼動しなければならない。どれか一つでも欠けたら爆発することはないのだよ? 判るかね? お嬢ちゃんはその構成のうち、最も重要な爆薬を切り離したんだ。 しかも超音速域の動作でな。ま、つまり解体したのではなく『爆弾』というモノでなくしたのだがな。完璧な『爆弾無効化処理』だろ?」


 踏反り返るSNOW WHITEを呆然と眺めている審査官達。

「は……はぁ? そんな……そんな動作ができるなんて……予想以上だ」


 物陰で葉巻を握りつぶす男が呟く……噛締めるようにゆっくりと。

「予想外だ……しかし、その小部屋で被爆しなかった事を呪うがいい。……じっくりと後悔させてやる。じっくりとな……」


15.不安の覚醒めざめ

「……では、これより最終試験『無制限全総合戦闘試験』を行います。参加希望者は……」

 最終試験の方法がアナウンスされている中、Lapis Lazuliは最終チェックを終了してF.E.D.氏とSNOW WHITEに挨拶した。

「では、行ってきます」

「ああ……周りに気をつけるんだぞ。たぶん敵はラピスだけを最初の目標にするだろうからな」

 それは容易に想像できた。

 対テロ用アンドロイドとして実戦を経験し、しかもその優れた性能を世界に知られているLapis Lazuli。

 彼女を倒したアンドロイドとその開発者、つまりは製造会社は一躍、アンドロイド市場でイニシアチブを握ることができる。

 例え性能的に劣っていても、少なくとも注目を集めることは間違いない。

 Lapis Lazuliが狙われない訳がない。

 そして全員が狙っていることは、周りの雰囲気、自分達の製品を整備しながらLapis Lazuliを見やる冷たい視線からも明らかだった。

 1対全員の非情なデスマッチ。

 それを勝ち抜かなくては、彼女に勝利はあり得なかった。

「要らぬ心配だ。旦那。お嬢ちゃんはちゃんと自分達をベガスシティーに連れて行ってくれる。そしたらギャンブル三昧……ぶへぉつっ」

 無言で放ったローリングソバットで雪だるまを黙らせるとF.E.D.氏は上着のポケットから蒼く煌めくイヤリングとバレッタを取出しLapis Lazuliに手渡した。

 宝石と見紛うそれらは光偏差波回析レーダー。

 このオプションパーツをつける事によってLapis Lazuliには死角はなくなるのである。

「一応、機能UPしておいた。具体的には……」


 べごっ!


 音もなく背後からチタン製ピコピコハンマーで襲いかかるSNOW WHITEを振向きもせずに後蹴りで再び蹴り飛ばす。

「……このぐらいのことは軽くできるようになる」

 したり顔で解説するF.E.D.氏を不思議そうな顔でLapis Lazuliは尋ねた。

「マスターは何処にレーダーを付けているんですか?」


 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


 宜しかったら、投票、感想など戴けると有り難いです。



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