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Prolog 24 (最終)

 対テロ用アンドロイド Lapis Lazuliの戦い

「ひゃあぁぁぁぁ……見逃してくれぇ……」

 逃げようとするSNOW WHITEあっさりと捕まえたF.E.D.氏は……即座にジャーマン・スープレックスを華麗に決めた。

「さっさと帰るぞ。……ん? なんだ!? そいつは?」

 床に崩れ落ち、気絶している雪だるまの後頭部に突刺さっている虹色の円盤を見つけたF.E.D.氏は、それを暫く見つめていたが、思い出したようにそれを窓の方向へ投げると命令するようにいった。

「ラピス! そいつを解析しろ! なんかのデータディスクらしい」

(……暫くは時間潰しになるだろ)

 そう考えたF.E.D.氏だった。

 その中の記録がLapis Lazuliに新たな悲しみを与えるとも知らずに……


82.受継ぐ者達

「ふぅ……やっと完成したぞ。いゃあ! オーダーメイド50体は実に疲れた」

「原因を作ったのは誰だ?」

 F.E.D.研究所の一室、庭先に拡張した倉庫から扉を勢いよく開けて入って来たSNOW WHITEにF.E.D.氏は毒づいた。無理もない。SNOW WHITEが持込んだ『ユーザーのオーダー仕様書』に基づき、実に27種類もの『Lapis Lazuli型カスタム仕様』を設計し、制作したのである。……たった一週間で。疲労の度合は目の下のクマで判るほどだった。

「……いゃあ。しかし、技術革新というヤツは実に無慈悲だな。折角、精魂込めて作った光演算素子を上まわる性能のシリコンチップや記憶素子があっという間に紅葉原あたりにはゴロゴロ転がっているとはな。ま、おかげで安く仕上ったが」

 敢えて話題を逸らしてSNOW WHITEは大袈裟に汗を拭いた(……雪だるまって、汗かいたっけ?)。

「軍曹の作った方がエレガントだ。あの石は消費電力と発熱量が多すぎる……まったく、おかげで冷却系の大幅な設計変更を余儀なくされたぞ。まぁ……変なオプションに冷却機能を補填させる事で何とかなりそうだがな。しかし……」

 F.E.D.氏は疲れ切った目で睨むように手元の設計メモを見直した。

「それに……まぁ、何処からこんな巫山戯たオーダーを拾って来たんだか……」

 注文書の束……細かい仕様を書込んだメモの束の内容はいつ見てもF.E.D.氏に軽い頭痛をもたらした。

「全部で年齢別に3種類。ラピスと同年代、20代前半に、20代半ば。容姿の特別仕様として……ネコ耳メイド仕様ネコ手付……うさ耳付き看護婦制服……イヌ耳仕様の婦警制服着用……バニーちゃんスタイル女医……はぁ。しかし、この『うさ耳』と『バニーちゃん』は一体、何処が違うんだ?」

「さぁ? ま、人間の煩悩がフルに発揮される状況で聞いたからな。まぁ、何とかなるだろう」

「……確認したいんだが、どうしてこんな取留めの無い仕様を受入れたんだ?」

 尋ねるF.E.D.氏に向かいSNOW WHITEは何故か思いっきり真面目な顔で答えた。

「いいか? 真理は常に極端から極端……つまりは最善から最悪の間に存在する。この50体は様々な人間の煩悩を表現したモノ。つまり、在る者にとっては最善な形態でも、別の人間には最悪の形態となる。これらを総てこちら側で制作する事で今後、向こうの会社で大量生産されるLapis Lazuliのレプリカがどんな仕様になろうともそれを理由にこちらが『制作仕様不備』で訴えられる事はない。なにせ、こっちは端から端までのバリエーション、最善から最悪までを作っているんだからなっ!」

 力説するSNOW WHITEをきょとんとした顔で眺めていたF.E.D.氏は飄々と切替えした。

「……あの50体が何も問題を起さなかったらな」

 びくりと蟀谷を震わせてSNOW WHITEは反論した。

「どういう意味だ? まるで問題を起こすと言わんかのように聞えるが?」

「気にするな。……ラピス。例のディスクの解析は済んだか?」

 夕暮れを映す窓際に腰かけ、ギターを爪弾いていたLapis Lazuliは物憂げな表情のまま、ゆっくりと応えた。

「はい……アレは……あるアンドロイドの設計図書と行動ログでした」

「ふぅむ。必要なかったら削除していいぞ。ラ……ピ……ス」

 思わずF.E.D.氏が口籠ったのは……Lapis Lazuliの表情のせい。怒ったような、悲しいような……物憂げな表情の中にいろんな表情……いや、感情を垣間見たせいだった。

「……お嬢ちゃん。向こうの倉庫の掃除を頼む。ついでにお嬢ちゃんのコピーを見て見るといい。いろんなコピーがある」

 SNOOW WHITEの言葉にLapis Lazuliは無言で頷き、倉庫へと向かった。

 その後姿を見送りながらF.E.D.氏は呟いた。

「まったく……変な表情を見せるようになったな」

「まぁ……そう言うな。あの試験が終ってから、こっちはレプリカの制作にかかりっきりだったからな。……ちょっとした不具合だろ?」

「そうだな。ま、今回の仕事にも報酬は貰えるようだからな。コレが終ったら、ラピスのオーバーホールでもやるか。データベースの再構築もせにゃならんだろうしな」

 そのF.E.D.氏の言葉をLapis Lazuliの高性能マイクは聞き逃さず……再び、彼女の顔に複雑な表情を浮かばせた。


 倉庫の扉を開け中を窺う。日が落ちて闇へと向かう刻。倉庫の中は薄暗く……レプリカを納めたケースから漏れる明りが倉庫の天井や壁をぼんやりと照らし、床を暗く染めている。そのケースの間をゆっくりと注意しながら、ガラスの蓋越しに中のアンドロイド……自分自身のレプリカを見て歩いた。

「ATA-1500-F0007、年上……25歳タイプ、作戦司令官かな? ん? 女教師? ……0009、兵站用かな? メイドさん?? ……こっちは……水着、着てる。なんだろ? 上陸作戦用かな?」

 何故か、極めて偏った知識を当てはめて行く。一頻り、見終ったLapis Lazuliは自分がここに来た理由を思い出した。

「そうだ。掃除しに来たんだ。掃除用具は……あった。きゃっ!」

 向こうの壁に立てかけてあるほうきを見つけ、駆けようとしたLapis Lazuliはケースの影に転がっていた空缶に足を取られ、バランスを崩し……思わず、ケースに軽く手を突いてしまった。

「……え?」

 ちょうど、手を突いた所にあったのは蓋の開閉スイッチ。2つのケースの蓋が開き……2体のアンドロイドが起上がった。

「え? ……あ」

 2体のアンドロイドは瞳を閉じたまま、同時に声を発して尋ねた。

「アナタハ、ゴシュジンサマデスカ?」

 まだ、音声機能の不完全……いや、声質の指定がされていないのだろう。いかにも電子音的な声で尋ねて来た。

「い、いえ。違うの、ごめんなさい。私はアナタ達の所有者じゃないわ」

「デハ、ドナタデスカ? キオクスルヒツヨウハアリマスカ?」

「うぅん。……記憶しなくていい。記録しても……私も……いずれ……」

「シジガフメイカクデス。メイカクニシジクダサイ」

 Lapis Lazuliは思わず笑ってしまった。

(『うん』と『うぅん』を聞違えたんだ。そうか。そうだよね。私もそうだったんだから……)

 改めて2体のアンドロイドを見る。1体は自分より少し年上に、もう1体は大人の雰囲気を持った容姿。自分より後に造られた自分のレプリカが年上に見えるのは……妙な気分だった。

「ナニヲワラッテイルノデスカ?」

「あっ! ごめんなさい。うぅん。何でもない」

「シジ、モシクハ、キオクシテオクコトハアリマスカ?」

「記憶……? ……あ!」

 Lapis Lazuliは在る事を思いついて、2体のアンドロイドに命令した。

「うん。御願い……記憶しておいて。そう……片目を開けて、赤外線でコピーするから」

 そういってLapis Lazuliは2体のアンドロイドに抱き寄り、自分の両眼の奥に仕込まれた赤外線素子を使って、コピーし始めた。自分自身の行動ログ……ラプラス・バタフライとの会話、ディスクに納められていたラミア達の記憶……そして、コンペ会場で感じた事、受取った物を総て……

「ソウシンソクドガ、カダイデス。フローシテイマス」

「判った。圧縮しておくる。……後で……必要になった時に解凍して……御願い」

 データを送信しながらLapis Lazuliの両眼から涙……レンズ洗浄液が溢れ出した。

「……ナイテイルノデスカ?」

 2体のアンドロイドはLapis Lazuliを人間と判断し、プログラムされた処理に従って無造作に尋ねた。……そして、その言葉がLapis Lazuliの中で何かを弾けさせた。

「……うん。……悲しい事があったから」

「……ワタクシニ、ナニカデキルコトハアリマスカ?」

「うん……忘れないで。私が居た事。私が記憶してきた事。総て……想い出さなくていいから……」

 2体のアンドロイドの言語処理回路には矛盾した応えとなったLapis Lazuliの返事に、ただ……だまってデータを受取る2体だった。


 その様子を倉庫の外、扉の影から覗いていた二人……F.E.D.氏とSNOW WHITEは顔を見合わせると、倉庫の壁に背を預けて夜空に浮かぶ月を見上げた。

「旦那。素晴らしき瞬間だな」

「何の事だ?」

 SNOW WHITEは……暫し沈黙し、葉巻を取出し、火を点け……深く煙を燻らせてから、しみじみと応えた。

「自発的に行動するアンドロイドを造り上げたんだぜ? 我々は」

「最初からそういう風に造っただけた。それにあれはただのデータコピーだ。バックアップはまめに取るように最初から指示して在る。ラピスはその指示に従ったにすぎん……さ」

「……相変わらずシンプルだな。旦那は」

「軍曹が複雑怪奇過ぎるんだよ」

 ピンポン玉のような手で頭を掻いてから、雪だるまは若き天才技術者の肩をぽんと叩いた。

「いずれ……旦那も……こうなるさ」

「ふん。そんなのは願下げだ。それより腹が減ったぞ。飯にしよう」

 白衣のポケットに両手を突っ込んだままF.E.D.氏は研究場の扉を蹴り開けた。

 SNOW WHITEは何故か懐かしむようにふっと笑い、後に続いた。

「あぁ。今日のメニューは豪勢だぜ。7日煮込んだビーフシチューに年代物のワインを開けよう。なんせ、一仕事終ったんだからな」


 そして、倉庫の中では……データを写し終えたLapis Lazuliが二人のアンドロイドを……まだ、抱きしめていた。



 こうして……コンペに失格となりながらも最高傑作と評されたLapis Lazuliのレプリカは世に出され、爆発的なヒット作となった。

 ただ……Lapis Lazuliの総てを受継いだのは……その中の2体だけ。

 後に「うさちゃん」と呼ばれるATA-1500-F0018、後に「瑠璃」と呼ばれるATA-1500-F0024のたった2体に……


 そして……「瑠璃」の物語が始まる。

 


 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


 Prologとして最終話です。


 宜しかったら、投票、感想など戴けると有り難いです。

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