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Prolog 15

 対テロ用アンドロイド Lapis Lazuliの戦い

 空中でラプラス・バタフライからのプレゼントに心から感謝した。

 Lapis Lazuliの予測演算は彼女の残弾数……約160発から倒せるガンアームの数を6体と結論していた。砂丘を越える時に確認した敵の数は10体。4体がオーバー。だが、空中からの一撃とラプラス・バタフライの贈物で既に4体を破壊した。残りは6体。

(残弾で倒せる! ならば……)

 最初に考えたのは、空中にいる間に出来うる限り敵を倒す事。

 だが、既に拳銃の反動で凄まじい回転をしている状況では前方に離れて待機している他のガンアームの弱点を撃抜く確率は極めて小さい。

(地上に降りてから……料理するっ!)

 この時、Lapis Lazuliは忘れていた。

 ラプラス・バタフライが『4体は吃驚して動けなくなる』と言った事を。『吃驚』して動けなくなったのは3体。

 しかも、その事象を引き起こしたのは自分自身の行動だという事を……


51.落下する迷惑

 その頃……F.E.D.氏は爆風に吹飛ばされて崩れかけたテントの下でぐったりしていた。

 共に吹飛ばされた椅子や絨毯等に包まられたままぴくりとも動いていない。ただ、その場所が戦いの場所から離れていた為に銃弾が飛び交うこともなく、騒乱の中の閑所となっていたのは幸運といえた。

「うぃ〜〜。もう呑めねェ……」

 不意にF.E.D.氏がゆっくりを半身だけ起上がり、辺りをゆっくりと見渡した。

「ん〜〜〜? もうコンペが終ったのか?」

 頭を掻きむしり一つ欠伸をして立上ろうとした時、崩れかけた天幕を突き破って何かが砂の地面に突刺さった。

「うわっをっ! ……なんだ?」

 砂煙が納まった時、地面に造られた小さなクレーターの中心にいたのは……言わずと知れた至上最悪の迷惑発生装置(?)付き雪だるまこと、SNOW WHITE。何故か片膝をついたような前傾姿勢で片手を額にピンポン玉のような片手を当てているのは……何処かで見た映画のようだった。

「ぬぁに、気取ってんだ? オラっ!」

 挨拶がわりの中段蹴りが雪だるまを回転させながらバーと思わしき残骸へと吹飛ばす。残っていたグラスが砕け散り、SNOW WHITEを構成する細氷と共にキラキラと宙に舞う。

「へっ。……ん? なんだ? この有り様は?」

 蹴飛ばした反動でくるりとその場で一回転したF.E.D.氏は今更ながら辺りの異常さに気付いた。

「ひっく……戦争でも始まったのか? ぶぅいっ!」

「起きろ! 旦那。戦争だ! 戦争が始まってるぞ!」

 崩れたバーの残骸からSNOW WHITEは手近にあった桶の中の液体をF.E.D.氏に頭から浴びせた。その液体とは……樽酒だった。

 酔いが醒めかけたところに頭から再び酒を浴びたF.E.D.氏はくらっと目眩いをしたようにふらふらと千鳥足になっていく。

「う〜〜〜ぃっとぉ! ははは……戦争なんぞも女装なんぞも知らん。そういうことは一切やらんぞぉ〜〜っと」

「あれ? ……おんや?」

 SNOW WHITEはF.E.D.氏の反応を見て、自分が浴びせた液体が酒だということに今更ながら気がついた。

「ま……いいか。二日酔いには向い酒と言うし」

「そういう問題じゃねぇっだろっ!(ぐべしっ) ……ととと」

 雪だるまの脳天に踵落しを決めたF.E.D.氏は再び千鳥足でバーの残骸の方へと蹌踉けていき……盛大にカウンターの残骸を叩き折るようにして転げ…………盛大な鼾をかいて眠り込んでしまった。

 SNOW WHITEは綺麗に足型に窪んだ頭の眉間に片手をあて首を振った。

「ふぅ……。これでは『歪み』、いや『揺らぎ』を取除く事が……ぐべっ!」

 天幕を突き破らんかのような勢いで何かが上から落下……いや、急降下して雪だるまの頭部と言葉を蹴散らした。それは……質量150kg程の物体がかなりの高さから落下した衝撃。つまりはLapis Lazuliがクッションとして選んだテントの直下に居たが故の不運であった。

「……爺ィ。飛んだ置き土産を……」

 言葉は意識と共に途切れ、SNOW WHITEは殆ど吹飛んだ頭諸共F.E.D.氏の上に倒れ込んでいった。


52.戦場へ……

「ん? なんか踏んだかな?」

 天幕が破れなかった為に下にSNOW WHITEが居た事を知らないLapis Lazuliは脚部への予想外の衝撃を不可解に感じながらも即座に敵、6体のガンアームの側方に向かって素早く駆け出した。旧式の軍事ロボットであるガンアームは対正面には強大な火器と装甲を備えていたが、側方からの攻撃には……装甲は薄く、対抗火器は無きに等しく、明確な弱点であった。ただし、弱点となるのは攻撃が……薄いとはいえ軽戦車を上まわる装甲を撃抜く武器を持って行った場合だけ。さらには……数体のガンアームが互いに側方を自らの正面とするような布陣……例えるならば車掛りの陣を敷いた場合は、弱点は消えてしまう。もう一つ、側方の弱点となる最も装甲が薄い箇所とは……銃砲を装備している腕と胴体との接合部。人間で言えば脇の下だけ。銃砲を低く構えていた時には腕に隠されてしまう箇所。

 弱点を弱点としたままに攻撃を仕掛ける為、Lapis Lazuliは素早く……敵に自分の位置を知られる前に移動する必要があった。

 果せるかな、崩れたテントや壊れた資材の群の中を素早く移動し、ガンアーム達の側方を見渡せる崩れた資材の影に移動できた。敵は小さな広場……約数百mの向うで未だ何が起こったのか把握できずにいる。人間達は……敵と自分との射線方向には誰も居ない。そして腕は……戦闘態勢のまま。つまり『脇の下』がまだ見えている。

(よしっ!)

 拳銃から弾倉を引抜き、弾丸の種類を確認する。

(一番上は炸薬弾……今、薬室に装填されているのは粘着弾。いけるっ!)

 静かに弾倉を装着し直し、タイミングを図る。手前のガンアームの頭部がくるりと回転し始めた時、物陰から飛出し側面に銃撃を仕掛けていく。

「当たれぇえぇェェ!」


53.対峙する感情

「何処だ? 何処から撃ちやがった!?」

「焦るな! 探せ! 探し出せ!」

 目の前の4体の鉄人形、ガンアームが訳のわからない方法で吹飛び、視界を遮られたテロリスト達はLapis Lazuliの姿を見失っていた。

 勿論、4体の内1体は白い風船もどきに吹飛ばされる前に上空から銃撃されて破壊された事は長年、戦場に身をおく者として識別して……いや感じていた。

 もどかしいのは、鉄人形に備わっているレーダーが地上用と対空用に別れていた事。

 腹立たしいのはその対空用レーダーが機能していなかった事。

 スイッチを入れてなかった訳では無い。少なからず上空からの攻撃を受ける可能性は完全には排除できなかった。しかし……遠隔操作に必要な回路を取りつける為に最も使用する可能性の少ない対空用レーダーを取り外した。

 それが裏目に出た。

「……ただそれだけの事だ」

(現に爆撃機はまだ来ていない……来るはずもない。観客が人質だ。爆撃はできない……だから外した。それだけの事だ)

 サングラスの男、ヌーヴ1と呼ばれていた男は平静を装いながらも、在る感情に伴う汗を感じずにはいられなかった。気味の悪い汗。その汗が示すのは焦りと恐怖と怯え。

(……感情なぞいらぬ。冷静な判断力さえあれば)

 彼の思考は瞬断すらせずに敵の位置を予想し続ける。

(アイツならどうする? 相手は自分の位置を見失っている。ならば……)

 考えつくと同時に配下の鉄人形に左右の視界を補完するように動くよう操作した。

(側方だ! ヤツは観客側から攻撃できない! 観客に向けて銃を構える事も……できない筈だ!)

 ロボット三原則の一つ。ロボット(アンドロイド)は人間に危害を加える事ができない。少なくともそういう行動を選択するようプログラムされている筈。

(それがヤツの攻撃アングルに制限をもたらす……。……ん!)

 果せるかな、左側面を監視しようとした操作した鉄人形の映像信号に映しだされたのは敵、彼らがバレリーナと呼んでいたLapis Lazuliの姿。

「居たぞ! 9時方向! 挟み込め!」

 部下達に短く的確な指示を出すと同時に鉄人形に攻撃させるべく指示信号を出す。……が、映像を捕らえた鉄人形からの信号は爆音と共に途絶えた。


 どぉおぉぉぉん!


 確認するまでもなくLapis Lazuliの不必要なまでに破壊力のある拳銃弾が鉄人形の装甲を撃抜き装備していた弾薬か燃料を誘爆させた結果。

(くっ! 60口径マグナム弾とは言え拳銃弾が装甲を撃抜いただと!? しかも上からでは無く!?)

 事前に仕入れた武器の情報からこの機種、ガンアームを選んだ。相手の武器の威力が判れば防御することは容易い。

(上からならば兎も角、コイツの装甲は薄い側面でも撃抜けない筈。……! 弱点をピンポイントで撃抜きやがったのか! しかも複数弾を集中させて!)

 驚愕が或る感情を圧殺し……二つの感情を……いや、正確には一つの感情とその感情に反する存在を男の大脳から引き摺り出した。

 ザーーーーと爆発に伴うノイズから他の鉄人形の映像信号が回復した時、映し出されたのは転がりながらも銃を構えようとするLapis Lazuliの姿。

(……健気だな。敵である事が……本当に残念だ)

 相手の実力を認めた瞬間に蘇る平常な自分。……いや、高ぶる感情と冷徹な理性が存在し相殺するが故に存在する危ういバランスの上に立つ自我。

(……運がよければ……再見!)

 ゆっくりと……無駄のない動きで標的が照準の中に入るのを待ってから……確りと引鉄を引いた。

 自身の支配下にある3体の鉄人形の全銃砲の引鉄を。そして……ミリセカンド単位で……単発でも致命傷となる砲弾がLapis Lazuliに向けて……放たれた。


54.戦場のバレリーナ

「くっ!」

 一連射で一体の鉄人形、ガンアームを破壊したLapis Lazuliだが、60口径マグナム弾の反動がLapis Lazuliの体勢を崩させ、素早く次の攻撃に移れなかった。

 銃の反動を相殺する為に駆け出し、スピードをつけて銃を撃ったのだが、砂の地面は体勢の微調整を許さず、スピンして転げてしまった。素早く起上がり敵の状況を確認する。

(いけないっ!)

 既に2、3体のガンアームがこちらに照準を合わせていた。

(ならばっ!)

 周囲の状況を確認すると共に側方、やや斜め上に銃を向けて数発、撃ち放つ。強大な反動が瞬時にLapis Lazuliを離れた砂の上に転げさせる。

 敵の銃弾がlapis Lazuliの居た辺りの砂を爆風と衝撃波で吹飛ばした時にはLapis Lazuliは十分な距離を取る事ができた。

 十分な距離と言っても人間ならば飛散る砂や衝撃波で少なからず致命的な損傷を受ける距離ではあったのだが、Lapis Lazuliの皮膚……防弾シリコンとチタンフレームが破片と衝撃波から彼女を守っていた。……が、衣服は飛散った砂礫に千切れていく。

 形振りかまわず、次の攻撃も銃の反動を利用して避ける。

 しかし、その行為は銃弾を浪費する事に外ならない。

(くっ……ならば!)

 反動に因る避弾行動……傍目には物理法則を無視したような直線的な動きから出来るだけゆったりとした動きへと変えて避ける。攻撃を避けるぎりぎりの位置座標を計算し、移動を被弾しない極限のタイミングまで遅くするのは自分の座標計算と相手の座標確認の精度を出来るだけ上げる為。

 そして……

 一転して舞うような動きから相手の弱点に向けて単発ながら銃弾を撃ち込んでいく。一発では当然破壊する事のないポイント。しかし、その狭点を撃砕くしかLapis Lazuliには勝機が見えなかった。

(一回では……無理でもっ! 必ず撃破するっ!)


 そして……ゆったりとした円を舞い踊るかのような彼女の動きは観客達には砂漠の戦場に舞うプリマドンナのように見え、驚愕と感嘆の風で包み込み声を失わせた。しかし……テロリスト達には小賢しい小悪魔の踊りに見え………彼らを不快な感情の沼へと導いた。


 怒りと焦りと固執という泥沼のような感情の湿地帯に。


55.推定される勝利

「なんだぁ! アイツは! オレ達を馬鹿にしているのかぁ!」

「怒鳴るな! 焦らずに狙えっ!」

「敵は一体だけだ。こちらが壊れる前に、一発当てればいいだけだ。ゆっくりと狙え」

「おぅ!」

「了解」

 テロリスト達はヌーヴ1と呼ばれる男の指示に従い、ゆっくりと照準を定めて行く。真綿で首を締めるかのように。周辺からゆっくりと……


 どぉおおおぉぉぉぉぉん


 突如、響く爆音。それはヌーヴ1の支配下にあった鉄人形、ガンアームの1体が十数発の弾丸を集中被弾した結果、装甲を打抜かれて破壊された音。

「くっそぉおおおっっ!」

 映像信号が途絶え、砂嵐を映し出すモニターを叩き、罵声を吐く。

「大丈夫だ。任せろ。ヌーヴ1」

 普段の彼から想像し得ないほどの苛立ちを感じ取った仲間が無線を通じて声をかける。その声にヌーヴ1と呼ばれている男は更に苛立ちを憶えた。

(くっ! こんな事に……事態になろうとは)

 明らかに予定と違う事態。違う状況。その原因の全ては……

(Lapis Lazuli! お前の名は忘れん! 必ず……必ず破壊してや……)


 どぐぉんんんん……


 再び別の機体が破壊された。

 いや、破壊されたのは腕。発射されたばかりの45mmロケット砲の砲身にLapis Lazuliが放った60口径マグナム弾……徹甲弾が浅い角度で飛込んだ銃身の中を跳ね回り、薬室に装填されようとしている次弾の信管を破壊し作動させた結果。薬室の手前で信管を作動させ爆発した弾丸の灼熱の衝撃波と無差別に飛散る破片は腕の中の弾倉中の弾丸を次々と誘爆させ、重複した爆圧は絶妙なタイミングで重なり合い、凄まじき衝撃波となって本体を飴細工のようにひしゃげさせて破壊した。破壊された機体は衝撃波の余波に乗り、隣に位置していた機体に衝突し、転げ倒し、片腕の銃身をへし折り戦闘能力の半分を無造作に奪ってしまった。

(今だッ! ……え?)

 転げた機体が図らずも曝け出した弱点、『脇の下』に狙いを定めようとしたLapis Lazuliの視覚センサーに飛込んで来た、警報信号。それは……

(どうして!? あんな所に人が?)

 斜めに転げた機体の脇の下の向う、腕と胴体の隙間の向うに見える砂丘の上。そこに立つのは……

「総員! 構えっ! 我等の存在意義は、会場の全ての人々の安全を守る! それだけの為に我等は此処に居るっ! 総員っ! 敵、テロリスト達が操るロボットを破壊せよっ! 撃てッ!」

 それは遅蒔きながら、観客達を守ろうと駆けつけた警備兵達とディスバー将軍。

 彼は自分自身という存在が……その場に居る事が……正確にはロボット達を見下ろす砂丘の上という座標に存在し、決してガンアームの装甲を撃抜くことのできない武器で攻撃を加えるという事が、攻撃までの冗長な演説をも上回る程に無駄で無意味で邪魔な事だという事実に何一つ気付いてはいなかった。

(撃ったら……もし、跳弾したら……彼等が被弾するっ!)

 弱点に銃撃を加える事を取止めると、Lapis Lazuliは即座に地面を撃ち、反動で後ろに跳び離れる。

 別の機体からの攻撃……25mmバルカン砲の銃弾がLapis Lazuliの居た場所を撃抜く寸前に。

「……変だな?」

「どうしたぁ! さっさと攻撃しやがれっ!」

「うるせえっ! 当たらねえんだよっ!」

「だったら、注意して……」

 仲間の罵声を罵声で返し、返事をインカムの向うに遠く聞きながらテロリストの一人は……半壊し、Lapis Lazuliに弱点を打抜かれんとしていた機体に乗っていた男は残る片腕のバルカン砲で再び敵を追撃ち続けながら先程の出来事を考えていた。

(変だ……確かに変だ……どうして撃たなかった? オレはどうして無事なんだ? ……変だ。こんな事は有り得ない。ここは戦場だ。そんな事が……どうしてオレは未だ生きているんだ!?)

 撃たれていたら少なからず損傷していたであろう機体に乗っている自分。敵が……Lapis Lazuliが攻撃を止めた故に無傷で居る自分と言う存在に自分自身が疑問を持っている。敵が攻撃を止めた理由。

 それは?


 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


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