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Prolog 10

 対テロ用アンドロイド Lapis Lazuliの戦い

(思っていたより損耗したな。……ま、量産効果が出た後で設計を見直すさ)

 ゆっくりとグラスに残っていたシャンパンを喉に流し込む。が、急に泡立つ液体を噴出し叫んだ。

「何ィ! 待機していた機体が消えただとっ! 何故だ!?」

 しかし、その声は別の喚声に掻き消された。

「行けっ! 行けっ! 踊り子を、Lapis Lazuliを叩き壊せっ!」

 会場の一角、いつの間にか黒山の人集りが出来ている。

「Lapis Lazuliだと……?」

 他の客達、自分が出展した機体が破壊され早々とヤケ酒を飲んでいた技術者達もウェストの声ではなく、黒山の方の喚声に反応していた。

「Lapis Lazuliが? まだ居たのか?」

 今、改めて黒山に集った客が中心に居た若き技術者に尋ねる。

 彼は満面の笑みで叫んだ。

「ああ! まだ生きている! だが、もう直に終わりだ!」

「なんだとぉ!?」

「どういう意味だ?」

「おい! 俺にも見せろ!」

 集まって来た群集は騒ぎ出し、収拾がつかなくなっていく。

「おい! そこのTVカメラ! アレをあのスクリーンに映せ!」

 ウェスト達の手を離れ、スクリーンは客達が望む物を映しだした。

 碁盤目の中を動く点。Lapis Lazuliを示す紅い点とラミア達を示す白い点を……


「ふぅん。そろそろ、オレ達も参加しますかね?」

「……そうだな」

「クライアントの希望とは随分違うが?」

「……ふ。それも、一興。契約はしたが、支配下に入った覚えはない」

 あるケーブルTVの中継車を占領していた3人の男達はインカムで自分達の仲間に指示を出した。

「鉄人形を地下通路に入れろ。そう……5体ほどでいい。あぁ。それからメインスクリーンに客達が望んでいる映像を映してやれ。そうだ。メイン会場に出してやるのさ。クライアントも泣いて喜ぶだろうぜ」

 彼らは自分達のコントロールテーブルを操作して別働隊が乗っ取っていたウェストの部下達の確認用映像信号をメイン会場に流し始めた。

 地下の戦闘映像を……


 ふっとスクリーンの映像が途切れ、ざわめく客達は悲鳴に似た喚声を上げた。PCの画面から切替わったのは地下の元核ミサイル基地。その中を逃げ走るLapis Lazuliと追回るラミア達の姿だった。

「おい。なんだ? まだ、生きているじゃないか……Lapis Lazuliは……」

 客達の関心はそこにTVカメラが設置されていた事ではなく、映しだされた画の中の完全人間型アンドロイドLapis Lazuliの存在そのものだった。

「……ん? 当然だろ? Lapis Lazuliを上まわる機種なぞこの地上には存在せんわっ! うぃ……ひくっ」

 カウンターの片隅で酒に酔い、突っ伏したままいうF.E.D.氏の寝言に耳を貸す人間は居なかった。

「行けっ! 『踊り子』を叩き壊せ!」

 今はノートPCの画面ではなくメインスクリーンに向かって喚声をあげるラミアの技術者達以外はただ食入る様にスクリーンを注視していた。

 その後ろで誰も聞いてもいないのに一人、身を隠すように跪きマイクを隠しながら指示を出すウェストは声にならない悲鳴を上げた。

「(何ィ、奴等が……映像を乗っ取っただと!)」


 そして……全てが暴走を始めていた。


35.反動と転回

(前方の壁まで横の通路は後一つ……)

 走りながらLapis Lazuliは銃を取出した。60口径マグナム弾使用ロングバレルハンドガン。走りながら安全装置を外し真横に構える。

(計算通りなら……これで)

「はっ!」

 気合いと共に引き金を引く。弾丸は横を転がるラミアAには当たらずに壁に当たり砕けた。が、Lapis Lazuliが狙いは敵ではなく……銃の反動そのものだった。反動はLapis Lazuliの走る軌道に横向きのベクトルを与え、彼女を横の通路へと弾き出した。結果として、後ろを転がるラミアCの前方からLapis Lazuliを消したのである。

 直後、通路から響く2発の銃声。

 次の瞬間、ラミアCの視覚センサーは自分の背後に駆けているLapis Lazuliの姿を確認した。Lapis Lazuliは横の円形の通路の側面から天井を駆け上がる間に逆の方向に2発の弾丸を発射して元の通路に戻り、ラミアCを遣り過ごしたのである。


 ぐしぁあぁぁぁん


 何の攻撃も出来ぬまま壁に激突し動きを止めるラミアC。ダメージを受けているであろう敵にLapis Lazuliの追撃が襲いかかった。

「ぃやぁあぁぁぁ!」

 モードをセミオートに変え、弾倉に残る弾丸を全弾発射する。発射の反動がブレーキとなりLapis Lazuliを減速していく。銃のスライドが開放のまま固定された時、Lapis Lazuliは寧ろ後方へのベクトルに耐えるような姿勢となっていた。攻撃と自らが壁に激突するのを避ける一石二鳥の行動となったのは……単なる偶然だろうか?

 弾丸は……減速するという目的もあった為か命中率が低くラミアCの人間に模した身体には当たらずにいたが、それでもほとんどの触手を千切れさせていた。ラミアCは激突した衝撃と弾丸に因る破壊で動きを止めている。

 両脇の通路を走っていたラミア達は? そちらの通路はまだ行き止りでは無かったらしく、低く転がる音が遠ざかるのをLapis Lazuliの音響センサーが確認した。あの2体の反撃までには少しは時間があるだろう。

「ふぅ……なんとか一体は、仕留めた…………の……かな?」

 Lapis Lazuliの言葉が疑問形で終わったのは……ラミアCの触手の動きを確認したからだった。破壊された触手が関節……継目で外れ……損傷のない部位と結合していく。そして損傷を受けた所は触手の先端へと位置を変えて全体が復元していく。ゆっくりと……しかし、確実に。

「……原子炉点検用ロボットを再設計したアンドロイド。ラミア」

 Lapis Lazuliは設計者の意図を理解した。どんな故障が起ころうとも帰還する能力、可能な限り自己修復する機能。それは人間が行けない場所に行き、点検し、修理をする原子炉点検ロボットに求められる最初の能力、機能。その能力こそがこのサバイバル・バトル・テストに最も必要とされる機能だと。

 素早く、空の弾倉を外し予備の弾倉を装填する。スライドを引き直し、狙いを定めようとした時、背後で盛大な爆発音が響いた。

 彼女たちの背後で鉄人形と木偶人形達が戦闘を始めていたのである。


36.戦う人形達

 鉄人形、ガンアームを木偶人形、アルファXT2は味方という認識(情報)はない。通路に置かれたカプセルから這い出した30機ほどのアルファXT2は通路を進撃してきたガンアームをロケット弾の標的にした。

「なんだぁ! あの木偶人形共は!」

 モニターを見ながら操作する3人の男達が吠える。

 TVカメラで位置や動作を確認しての遠隔操作によるタイムラグは圧倒的な兵装差を無意味なものに変えてしまう。

「構わん! エリア制圧に変えろ! 木偶人形共々、バレリーナを破壊しろ!」

 直線的な通路に差掛ると25mmバルカン砲と45mmロケット砲を使い、通路を制圧する。

「壊せ! 壊せ! 壊せ! 全部っ壊してしまえぇぇ!」

 が、爆煙の向こうから飛んでくる数発のロケット弾が的確に鉄人形に命中する。

「なんだぁ? コイツらは……」

 幾ら木偶人形と呼ばれようとアルファXT2も対テロ用アンドロイド。テロリスト相手の戦法はインプット済みである。相手が攻撃している間は脇の通路に身を隠し、一瞬の隙をついて反撃する。人間では無いために恐怖心が無い。ましてや爆風で影響を受ける身体では無い。人間相手には縦横に掻き回してきた3人のテロリストにもかなり勝手が違う相手。しかも狭い地下道では相手は隠れる事ができるが、こちらの鉄人形は簡単には隠れ難い。何一つ身を隠す事ができない砂漠では圧倒的な兵装差で蹴散らす事も可能なのだろうが……

 既に投入した5機のうち半数近くが行動不能な状態となりつつあった。

「えぇぇい! 埒が明かねぇ!」

「……地下道に10機追加。残りは地上の舞台に上げろ」

 3人の男達のうち、ヌーヴ1と呼ばれていた男が冷たい声で指示を出した。

「終幕か? いいのかぁ?」

 言うことを聴かない毀れかけの鉄人形を操りながらけたたましく別の男が叫ぶ。

「……茶番に付合うのもそろそろ終りにしよう。地下に行くヤツには爆弾を抱かせろ! バレリーナには砂の海で瀕死の踊りを踊ってもらうさ」

 確かに、彼らの演出で勝利者を演じてもらうつもりの木偶人形に手駒の鉄人形を破壊されるというのは茶番であった。彼らがバレリーナと呼んでいる標的、Lapis Lazuliを破壊するという目的も手段を選ぶ必要は最初から考えてもいない。ただ……破壊したという確証だけが必要だった。

「バレリーナには……木偶人形と共に砂に沈んでもらう。いや……」

「爆弾と共に派手に飛散って貰おうぜ!」

「くく。それでいい……任せたぞ」

 一人がインカムを置いて席を立つ。

「何処へ行く? ヌーヴ1」

 男は懐から拳銃を出してスライドを引き、飛び出した弾丸を口に咥えた。

「クライアントに挨拶してくるよ。演出が変った事を詫びねばならん」

 冷たく笑う男の声はテロリストとして舞台へ上がる事の喜びに低く震えている。

 しかし……彼らが占領している中継車は既に警備兵に遠巻きに取囲まれていた。今回の出来次第で『昇進』が掛っている人間。ディスバー将軍が審査官『ビショップ・オブ・ルビー』の指示を受けて行動したのである。

 暴走する事態を収拾する為に。


 だが……それは暴走する事態に混迷する事態を加えるだけだった。


37.撃ちあう人々(あるいは忘れかけていた出演者約2名)

「構え〜」

 テロリスト達が占拠した中継車を見下ろす砂丘の上、警備兵を引連れて年代物のサーベルを高く上げて指揮するディスバー将軍はまるで古い映画の主人公になったように上機嫌だった。

(ふふふ。ビショップ・オブ・ルビー様から直接、御指示の電話を頂けるとは……これで昇進は間違い無いっ!)

 事態とは全く正反対の期待に心を弾ませる将軍の真横、顔のすぐ近くから中継車を狙う銃口がぬっと突出る。

「ば、馬鹿モノ。こんな近くで構えるヤツがあるか! ……誰だ? 貴様?」

 銃を構えていたのは……狂乱の白い雪だるまSNOW WHITE。構えていた銃はブローバック式対戦車ライフル銃(特注製ロングバレル)である。

「なんだ? 加勢してやろうというのにいらんのか?」

 銃を構えたまま頭をくるりと回転させて雪だるまは尋ねた。

「この銃ならば仕込まれた特製反物質炸薬弾があの中継車を跡形もなく消し去るというのに……ぶごっ」

 突然、金属バットの一閃に奇麗に胴体を残して飛行く白い雪だるまの頭部。金属バットを振るったのは……老研究者N.P.Femto氏。

「馬鹿者。それではここいら一体(推定半径数十km)も奇麗に無くなるわい」

「では、貴様から消し去ってやろう」

 残った胴体がくるりと縦回転すると砂の地面、胴体の下になっていた部分からから飛び去った頭部が胴体について現れた。

「甘い!」

 巨大なチタン製ピコピコハンマーが一瞬で雪だるまを砂の中に打込む。

「お前の出番はまだ早いのじゃ!」

「てめぇっ! 爺ぃの出番を永久に無くっ ぶっ」

 ずさぁっと砂から出現するSNOW WHITEをモグラ叩きのように打込む老研究者。二人はドタバタ喜劇を、いや究極のツッコミ漫才をしながら警備兵達から次第に離れていった。

「え〜〜〜と。なんだっけ?」

 暫し惚ける将軍と警備兵達。

「そうだっ! あの中継車はテロリストに占拠されている! 全員構え! テロリスト共を殲滅せよっ! 撃てっ!」

 号令と共に張られる弾幕。だが、警備兵が携帯していた銃は小口径の自動小銃。常々からテロ現場や犯罪現場にも出動する事を考えて造られた中継車の装甲壁を打ち抜く事はなかった。

「なんだぁ?」

 突然鳴り響いた壁を叩く音。もちろんそれが弾丸に因るものであることは即座に判った。

「囲まれてるぞ。ヌーヴ1!」

 中継車の上に設置された車外TVカメラで周囲の状況を確認したサングラスの男が叫ぶ。ほんの少し撃つのが遅かったら……ちょうど開け放ったドアから飛び込んだ無数の弾丸が中継車の中を跳ね回っていただろう。

「悪運は尽きていないということか……状況は? 手薄な所はあるか?」

「……砂漠側。コンペ会場側は誰も居ない!」

 サングラスの男達はニヤリと笑い、足元の巨大な鞄を開けた。中には重機関銃と巨大なケースマガジン。素早く装着しレバーを引く。一発目の弾丸が装填された小さな音を確認すると男は叫んだ。

「準備完了!」

「……そうだ、指揮をそっちに移す。ガンアームはコンペ会場を経由してテントに向かわせろ。それで合流できる」

 ヌーヴ1と呼ばれた男はインカムで的確に短く仲間への指示を出し終えると銃を構えた男に向かって親指を上に上げて拳を突出し……さっと反転させて親指で地面を指した。

「いっくっぜぇぇぇぇぇ!」

 叫び声と共に砂漠側の中継車の壁に向かって重機関銃の弾を浴びせる男。

 一連射で壁に奇麗な穴があく。

「よっしゃあぁぁ!」

 素早くその穴から脱出するテロリスト達。出ると即座に反転して警備兵達が居る方の壁に向かって重機関銃の弾を浴びせる。銃弾は壁を簡単に打ち抜き、将軍達が待ち構えている砂丘に向かって飛んでいく。

「なんだ? うわっ! 反撃せいっ!」

 突然、影となっている方の壁から弾丸が撃ち出され、呆気に取られた将軍だが次の瞬間に中継車の壁からこちらに向かって撃ち出された銃弾に慌てて身を隠し反撃を命じた。しかし、彼らの弾丸はズタボロになった中継車の壁をも越える事はない。無駄な足掻きを絵にかいたような反撃、いや単なる徒労に過ぎない。ただ……テロ攻撃への対抗を演出している事だけは確かだった。


38.地獄へ……

 飛び交う銃弾を避けて、Lapis Lazuliは地下道を大回りにある場所を目指していた。それはエレベーターホール。しかし、エレベーター近くの場所が銃撃戦、ガンアームとアルファXT2の戦闘区域であることは間違い無い。

(まぁ……わたしも跳弾ぐらいならば関係ないけどね)

 Lapis Lazuliの皮膚、防弾シリコンは小口径の弾丸程度ならば至近距離でも問題はない。全て撥ね返せる。しかし、ガンアームの銃弾とアルファXT2のロケット弾は……直撃を受けたらば間違いなく破壊されてしまう。

(どうか、出会いませんように……)

 通路から通路へと辺りを探りながらエレベーターへと近づいていく。

(この角を曲がったら……見える筈)

 角に身を隠し、様子を窺おうと顔を出した時、不意に背後に動く気配を感じた。無言のまま通路を飛び越して反対側の通路の角へと身を隠す。ゆっくりと元居た場所を見ると、そこに居たのはラミアE。

 反射的に銃を構えるLapis Lazuli。その背後に別の気配。

「え……」

 振返ろうとした時、衝撃がLapis Lazuliを襲った。

「っきゃおっ」

 奇妙な声をあげて吹飛ぶLapis Lazuli。彼女を吹飛ばしたのは背後の通路に隠れていたラミアDの触手。

「……あ。……失敗した……のかな」

 衝撃がLapis Lazuliの意識をリセットさせ思考回路を閉鎖していく。霞む思考の中で別回路の開放指示の扉が見えた。そして視覚センサーの片隅に映る通路のはるか向うに居る両手に大口径銃砲を装備した大型ロボットの姿。

(別回路の開放指示……なし。……だけど……生存の…ため……回路を…………開きます)

 Lapis Lazuliの『意識』は閉鎖し、別の『意識』が彼女を支配した。

 ジェノサイドモード。

 動く物全てに無差別の攻撃を加えるという悪魔の如き戦闘モードであった。


 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


 宜しかったら、投票、感想など戴けると有り難いです。


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