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Prolog 1

 対テロ用アンドロイド Lapis Lazuliの戦い

101人の瑠璃 Prolog

   Lapislazuliの戦い。


1.奇跡のアンドロイド

 その惑星、7つの大陸と4つの大洋の世界は、事実上アルファ連邦の独裁下にあった。

 1つの大陸のほぼ全てを領土とするアルファ連邦は、軍事的、経済的、政治的に全世界をその影響下に置き、全国家協議会である万国平和連合会、略して「万平連」もアルファ連邦の傀儡にしか過ぎないことは、誰の目にも明らか。

 誰一人として対抗できないこの国に対抗しようとする勢力の取った手段……それはテロであった。

 突発的にかつ予測不可能なテロに対してアルファ連邦は、それを完全に制圧できず、ただ首謀国をでっち上げてはその軍事施設を爆撃破壊して、自国の世論を抑えることしかできなかった。

 しかし、対テロに有効な手段が発見された。

 高性能なアンドロイドが、テロに対して有効な手段となる事が、ただ一体のアンドロイドに因って証明されたからである。

 そのアンドロイドとは人類初の完全女性型アンドロイドLapis Lazuli。

 「彼女」はあるテロに巻き込まれたのだが、それを完全に制圧し、テロ団を当局に引き渡した。

 それはすぐに全世界に知れ渡り、一躍、時代の寵児となったのである。

 そして、その次世紀の世界の重要な要因となったアンドロイド資産の全てを掌握しようとするアルファ連邦は対テロアンドロイド・コンペの開催を決めたのであった。

 時は世紀末。数千年前に予言された「転換」の世紀が始まる数年前である。


2.対テロアンドロイド・コンペティション

 会場はアルファ連邦内陸部に位置するネバー砂漠の端、ダークサイド・シティ郊外。

 各国のロボット会社が自社製の警備用ロボットを有らん限りの手段で高性能化し展示している様子は、さながら「軍事用ロボット展覧会」の様相を呈していた。

「では、このロボット……いや、アンドロイド・コンペの意義を開催責任者でありアルファ連邦陸軍中将でもあるディスバー将軍に伺います。将軍、このコンペの意義は何でしょう?」

「このコンペは、我が栄光あるアルファ連邦の平和のみならず、全世界の平和を脅かそうとする勢力に対して、全世界が対抗する事を証明した事にあります。ご覧ください、此処には我が栄光あるアルファ連邦のみならず、ベータ・イプシロン連合共和国、ガンマ人民民主国、デルタ国王連合国家などの全世界の政府、企業達がその自慢の製品を展示しています。この事実こそが、全世界がテロという卑劣な手段に断固立向かう事を証明しているのです。そして……」

 大仰な将軍の演説が始まったのを感じ取って、アナウンサーは質問を変えた。

「でも、将軍。一部には、このコンペはアルファ連邦政府がアンドロイドという次世紀を制覇しかねない画期的な新技術の独占を狙ったものだという批判がありますが?」

「何を馬鹿な事を! 我が栄光あるアルファ連邦は常に平等と平和を希求している。今回のコンペでも技術の提供は強制してはいない。ただ、平等で公正な手段で採用された機種については技術の流出の停止を要請しているだけだ。しかも、その条件を予め提示しているにもかかわらず、これだけの企業が参加したという事は、彼らもまた平和を希求しているという事だ。つまり、この事こそが……」

「判りました将軍。では、世界初の対テロアンドロイドのコンペティション会場からリスノー・サンフラワーでした」

「おい。なんだ? もっと言わせろ。此処には本当に参加を自ら希望している者しか居らん。嫌がっている者など……」


2.嫌がる者

「だから、こんな所には来たくないといったんだ!」

 その会場で待機用テントで一人、その場に居る事を悔やんでいるのはLapis Lazuliの開発者の一人であるF.E.D.氏であった。

「旦那、既にオレ達はコンペに参加している。もうそんな台詞は止めときな。それに、これまでお嬢ちゃんはよくやっているんだぜ?」

 F.E.D.に話しかけたのは……工兵ヘルメットを被った雪だるま、もう一人の開発者であるSNOW WHITEである。

「……確かにラピスはよくやっている。だが、あの木偶人形は何だ? あいつらだけ楽なテストで……」

 二人が話しているのは、その直前に行われた射撃テストの事である。

 アルファ・ゼネラル・アンドロイド社がこのコンペに参加させた機種、アルファXT2は9mm弾の拳銃での射撃テスト。それに対してLapis Lazuliの射撃テストは……

「こっちは20mmバルカン砲の実射テストだったな」

 SNOW WHITEは何処からか葉巻を取出して火をつけた。

「それのどこが公正で公平で平等なテストなんだ?」

「まぁ、そう怒るな。どの銃を選ぶかも自由。その結果は使った銃の難易度で公正に評価される。つまり……」

「……「表現と言論の自由」がこの国の憲法に記されている事は知っている! だがな、奴等は、審査官とか名乗っているヤツは最初からバルカン砲を……」

「全弾、命中させたんだから問題あるまい? なぁ、お嬢ちゃん?」

 SNOW WHITEに呼ばれたLapis Lazuliは見た目には18歳前後の少女。腰まであるかと思われる長さの緑と青と金色が混じってみえる艶やかな黒髪がTシャツとGパンの軽装に似合っている彼女は……紛うことなく対テロ用アンドロイド。……は腕をさすりながら答えた。

「全弾、的に命中しました。しかし、右腕の肱関節に損傷を受けたようです」

「なに? どこが損傷したって?」

 慌てて駆け寄り調べるF.E.D.氏。

「肱関節の摩擦係数が10%上昇しています。潤滑機構が損傷したものと思われます」

「その程度ならば、最終テストまで問題ない」

 天井を見上げ葉巻の煙を燻らすSNOW WHITEにF.E.D.は噛付いた。

「どこが問題ない!? 現に損傷しているんだ! これ以上、私達の最高傑作であるラピスをあの木偶人形共と戦わせる必要はない!」

「その木偶人形、アルファXT2の元を作ったのもオレ達なんだぜ? 旦那」

「う……」

 そう。此処、アルファ連邦のロボット研究所で史上最初のアンドロイドを制作したのも、この二人、F.E.D.氏とSNOW WHITEであった。

「しかし、あれは……あまり人がやりたがらない仕事、福祉や清掃を行うための汎用アンドロイドだった」

「汎用だからこそ、軍事用に転用できる。そして、改造する事もな……」

 SNOW WHITEはさっとテントの幕を上げてF.E.D.に言った。

「旦那、見てみな! 警備用、警察用と言ってはいるが、全部「軍事用」ロボットにアンドロイドだ。しかも、「アンドロイド」と名がついているのは、全部オレ達が昔作ったアンドロイドの派生品だぜ?」


3.無残な叫び声

 テントの外、世界各国から集まったアンドロイドやロボット達は大抵金属製の腕の先に銃が装着されている。

 銃を装着していないユニットもあったが、それらも、それ相当の武器が装備されている事は間違いなかった。

「しかし、ラピスは純粋に対テロ用アンドロイドだ。転用できないように女性型にして……完全な人間型の最高のアンドロイドだ!」

 F.E.D.氏は俯いて呻くように言った。

 その肩をぽんと叩いて、SNOW WHITEは葉巻の煙をゆっくりと吐き出した。

「だからこそ、オレ達は優勝しなければならない。(此処のキナ臭い空気を払うためにもな……)そうだろ? 旦那」

 途中の言葉を噛締めて、SNOW WHITEはF.E.D.氏に確認した。

「そうだな。優勝すれば……」

「無事、ベガスで豪遊できる」

 ぴくっ

「……なに?」

 額の片隅を痙攣させて、F.E.D.氏はSNOW WHITEに尋ねた。

「なんのことだ?」

「ん? ああ、優勝したら、お嬢ちゃんの開発費を出してくれたカイ・ロボットC.C.がベガスシティーで豪遊させてくれるそうだ。ほれ、これが契約書だ」

 雪だるまのピンポン玉のような手に握られていた紙には……『優勝宣誓書』と書かれていた。

「軍曹、俺の目に何も問題がないとすると、それは契約書ではなく「優勝宣誓書」と書かれているように見えるが?」

「旦那。細かい事は気にするな。コレが優勝した時に何をして貰えるかを書いてあるという視点からいえば契約書に間違いはない」

「宣誓書というからには、向うから持ちかけられたのではなく、こっちから言い出した事になると思うが?」

「その指摘には正しいが、過去の出来事の順番なんぞ気にしてどうする」

「そうか? ところで、優勝できなかったらどうなるんだ?」

「失敗した時の事など気にする必要はない。ま、あえて確認するならば向うの要望を一つなんでも聞く事になっている」

 F.E.D.氏の額の痙攣は血圧の上昇と怒りが堪難いレベルに達している事を如実に物語っていた。

「……ラピス。現状でどれだけ戦闘能力があるか確認する必要がある。この雪だるまを相手に打撃練習を行え。手加減はいらん」

「なに? どうしたんだ? ベガスシティーが気にいらんのなら、デビルフェイスシティーでカジノでも構わんぞ?」

 驚くSNOW WHITEをF.E.D.氏は横目で睨みながら命令を追加した。

「それから練習といえども「寸止め」は必要ない。打撃能力の確認だからな」

「命令を了解しました」

 それから暫く、そのテントから悲鳴が途切れる事はなかった。


4.招かねざるアンドロイド

 その頃、別のテントで行われていたのは、「面接」と「爆弾除去テスト」だった。

 爆弾除去といっても、それは花火程度の火薬しかセットされていない、テロ対策軍隊が訓練で使用する物であった。

 そして、面接とはその除去方法の確認と試験対象となるアンドロイドの仕様の確認の場でもある。

 その会場でこれからテストを受けようとしているのは……白髪の老研究者の手を引いた少女型のアンドロイドだった。

「皆様、ご覧ください。あれが、今回対テロアンドロイド・コンペに参加した数あるアンドロイドの中で唯2体しかない「完全人間型」アンドロイドです。あの肌、あの動作、まるで人間としか思えません。あれ程の完成度を持っているのはあのアンドロイド「多元分散計算無限理論実証型」アンドロイド? なにそれ? ……よくは判りませんが、皆さん既にご存じの我らの天使、地獄に咲いた可憐な花のLapis Lazuliちゃんのライバルである事は……」

 テスト用テントの外で中を撮っているカメラの横で新人らしいアナウンサーがプロレスのように実況している。

 それをファニードレス姿の少女型アンドロイドはジト目で睨んでぽつりといった。

「あの人……ウルサイ」

 少女型アンドロイドはヨーヨーを取出すと、「犬の散歩」をしてすぐに仕舞うと……その直後、何故かアナウンサーのマイクが破裂した。

「……ぼふぉ……なんで」

 口から煙を吐き出してアナウンサーはぱたりと倒れた。

「静かになっタ」

 ぽとんとイスに座る少女型アンドロイドを目を細めて見て居た老研究者は審査官達に向直り、静かに言った。

「それじゃ、テストを開始してもらいますかの」

 しかし、審査官達はざわめいてテストを開始しようとしなかった。

「なにか、問題でも?」

 その言葉に促されたか、審査官は意を決して質問を開始した。

「では、テストを開始します。此処では時限爆弾の除去テストを行いますがその前に、アンドロイドの仕様の確認も行っています。それで、Dr.N.P.Femto。そのアンドロイド、ラプラスバタフライの動作原理なんですが……多元無限分散計算理論実証型というのは、具体的に……どういう方法で?」

 怪訝な顔で尋ねる審査官を困惑した顔で見つめながらN.P.Femto氏は説明を始めた。

「物事には全て原因があり、結果がありまする。つまり、その因果を完全に計算できるのならば、この宇宙開闢時の状態を知りさえすれば、それ以後、つまり、この宇宙が消滅するその日までの全てが計算可能となります」

 老研究者は滔々と説明を続けた。

 つまり、過去の全ての事象を認識し、素粒子単位で全ての事象を計算する事に因って、未来を確定するのだと。

「……信じられん。明日の天気の事でさえ「確率」でしか表現できないのにその理論に従えば、未来は全て「確定」している事になる」

 ははははっと乾いた笑いを上げてからN.P.Femto氏は言葉を続けた。

「確かに、「確定」してますのじゃ。しかし、それは「選択」できるという意味では「確率」で表現する事もできますがの。それらは表現の問題でしかなく、矛盾はしておりませぬぞ」

 笑う老研究者。

「……はぁ?」

「それでも、そのアンドロイドにそれだけの計算処理能力が内蔵されているとはとても思えませんが?」

 別の審査官が質問するとN.P.Femto氏は静かな微笑みで答えた。

「そうこの子一人に、それだけの計算能力はありませぬ。しかし、この子は此処に居るだけではなく、別の次元、別の世界に無限に存在しているのです。そして、相互に結果を通信する事によって、今起こっている事、未来に起こる事、全てを認識できるのです。つまり、未来を知ればそれを阻止する事も可能なのです」

「どういう理屈で?」

「カオス理論というのはご存じかな?」

 それは例えば蝶々の羽ばたきが台風や竜巻に発展する可能性があるという理論である。

「……と言う訳で、この子は現在の事象が未来に及ぼす影響を計算し、いかなる状況をも回避する方法を計算して、実行できますのじゃ」

 検査官は全員信じられないという顔で見合わしているだけだった。

「……つまり、この前の射撃テスト。シティシューティングで、「市民」しか出なかったというのも、そのアンドロイドの能力だと?」

 シティシューティングとは、町に見立てた環境で「敵」と「市民」のパネルがランダムに出現し、「敵」だけを打抜くという実践に近い射撃テストである。

「そう。この子は「なわとび」で歩き回り、それに2重跳びを織込む事に因って、出現するパネルを「市民」だけにしましたのじゃ」

「……それは先程こちらで話し合いまして、その結果についてはこちらの手違いという事でテストは無効という結果をお伝えしなければなりません」

「どっちでも構わん。何れにしてもこの子に射撃などという「実戦」は出来ませんからな」

「実戦ができない?」

「そんなアンドロイドがどうして「対テロ」という任務を実施できる?」

 口々に騒ぐ審査官達に静かに老研究者は断言した。

「対テロだからこそこの子、ラプラス・バタフライの本領が発揮できる! 考えて見るがいい。この子は将来起こる全てのテロを事前に且つ完全に阻止できるのじゃ。対テロとしてこれ以上の能力はあるまい?」

 その自信たっぷりの老研究者の顔を見ながら、会場の片隅で唾を吐くように呟く男が居た。

(完全に阻止されたら、このコンペの意味が……いや、我が野望が……)

 男は懐から葉巻を取出すと火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出すと、影に隠れて姿を消した。



 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。


 宜しかったら、感想など戴けると有り難いです。

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