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エピソード15 〜想い〜

ゲームセンターで一通り遊んだ後はお昼まで自由ということでアリスは紡木さんに連れられお洋服選びに、男性陣は特にやることもないのでお店の正面にあるベンチで待機という形になった。

あの後これ以上のアクションがないのを確認した上でタイミングを図り二人と合流した俺たちは最初に提案したシューティングゲームの四人プレイで遊ぶことにした。


もちろん変な探りを入れられないようにぢゲームの方に集中し全員で高スコアを目指した。しかし案の定アリスがこういうゲームの経験がなくかなりの足手まといになつてしまい結果的には高スコアを出す目標は達成できなかったがそれでも四人一丸となることに関しても目的は達成できたので結果としては上々だった。


「それにしても楽しそうだな」


和気藹々とアリスに試着を勧める紡木さんを見て呆然と呟いた。

女性陣と違い男性陣には海斗さんの件もあり重苦しい雰囲気が漂っている。それを緩和しようと試みるも自分の中に問題を抱えている彼には俺の声は届かなかった。


「……」


海斗さんはただジッと楽しそうにアリスの洋服を見繕う紡木さんを見ていた。

その目に嫉妬心はなく、ただ悔しそうに拳を固く握っていた。


時折俺の方を横見するも目を合わせるとすぐに別の方向を向いてしまうの繰り返し。

やっぱり怖いんだ。

彼は悩み、恐怖している。そんな感情が彼の行動からひしひしと伝わってくる。


自分の方から切り出すのは簡単だった。

しかしそれでは意味がない。彼が自らの意思で相談しないといけない。これはあくまで彼自身の問題で俺の問題ではない。たがら彼は自らの足で一歩踏み出さないといけないのだ。


理屈がまるでない感情的な意見だが俺はそれをあえて貫いた。

それが今後の彼のためだと俺は思うからだ。

それに紡木さんはあえて俺たちを二人にするようにアリスの服選びに没頭しているよつにも見えた。

元々ゲーム後の提案をしてきたのは彼女だ。信頼を寄せているからこそ彼女は海斗さんのことを俺に任せた、直接言われたわけではないが間接的なん態度は間違いなくそんなことを示唆していた。


それに応える意気込みだけは強かったが俺はそれでも受身の態勢を崩さない。


お互いに沈黙を押し通すこと数分。固く握られた海斗さんの拳がここにきてやっと緩んだ。

肩の力をわずかに抜き、重い息を吐いてすぐ隣にいる俺と正面から目を合わせた。


「浅田さん、相談……いや俺の話を聞いてください」


抱えきれなくなった問題の答えを求めるように俺へとすがる海斗さん。

俺が二の返事で頷くと海斗さんはより険しい顔つきでアリスと服選びを楽しむ紡木さんを見据えながら唇を震えさせる。


「浅田さんも知っての通り今日で紡木は寿命を迎えます」


「……」


無言で肯定を表す。

初めて紡木さんと会った頃の俺だったら絶句していたであろう話題にもいまは平静を保ちつつ応じられた。


「……駄目だ、相談したいことが山ほどあるのに纏まらない」


頭を抱え、歯嚙みをする海斗さん。


「纏まらなくても構わない。お前の後悔をそのままぶつけてみろ」


形や過程なんてどうでもいい。

いまの俺の役目は海斗さんの胸に刺さった痛みをどれだけ和らげられるかだ。

そんな俺に後押しされるように海斗さんの紡木さんに対する思いを告発する。


「本当に俺は彼女の側にいてよかったのか? 最近、いや紡木の寿命の件を仁内裕翔さんという人から聞いてからずっと考えていた」


丁寧さに欠けた(いびつ)な言葉。

だけどその歪さこそが彼の本音を物語ってくれた。


「彼女がこんな体になってしまったのは俺に原因があるんだ」


彼の胸に刺さる棘、それは己の後悔という念を顕著に示し表していた。


「もう四年くらい前になる。紡木が初めて魔法を使った日、怖いだろうと思う紡木を励ますために外に連れ出したんだ」


事務所の方が初めて魔法を使った後の魔法使いにどんな処置を施すのか俺は知らないがそれでも二回目を使用する前に何らかのアクションを起こさないといけないということはとりあえず知識としていれておいた。


「だけど出た先で車に轢かれそうになった子供を助けるためにあいつは……」


「二回目の魔法を使用した」


「その時は魔法ってものがどういうものなのかまるで理解していなかった俺は子供の救出に心の底から安堵したけど、後に事務所の方で裕翔さんから話を聞いて絶望した」


魔法使いは二回目の魔法を使うと生涯魔法を手放すことはできない。

そして魔法を所持する代償は寿命。

死刑宣告も同然だ。


「俺のせいだ。俺が軽率な行動を取ったがために紡木は……」


所詮それは結果論に過ぎない。結果論を悔いても仕方のないことだと、もちろん彼は理解している。だけどそれを甘えに己を許すことができず、一生残る傷痕として胸の内に刻んでいる。

否定することは簡単だ。

だけどその後どうする?

紡木さんが死を迎える事実はどう頑張っても覆せない。

自問自答を繰り返しつつ俺は海斗さんの告白をしっかりと己の内に刻んでいく。


「このままだと紡木は5年と生きられない。そう告げられた後パートナーの存在を俺は教えられた。もちろん俺があいつのパートナーとなれれば問題はなかったんだけど……」


パートナーとは本能的に相性のよい者同士の間に成立するものであって、愛し合う者同士に成立する関係ではない。


「俺は相性が合わなかった。そして数日して幸運にも紡木のパートナーとなれる男性が見つかったがあいつは拒絶した」


「……理由は察しがつくよ」


「馬鹿だよな。『私には決めた相手がいますので、彼以外とは特別な関係を持ちたくはありません』って堂々と啖呵切って……」


複雑だった。

自分のことを何よりも大切な人だと認めてくれている嬉しさとその後に待つ悲しい結末へのもどかしさ。それがグルグルと絡み合って自分の心を蝕んでいる。

海斗さんは解いた拳をぎゅっと握り直し、自らを嘲るように笑った。


「俺が浮気でもして、他の女にでも惚れて紡木を縛るものを排除してやれたらあいつはもっと長く生きられたのにな」


俺はそれでも無言を貫いた。

そんなことして彼女が喜ぶとでもと定番の台詞を吐きつつ胸ぐらを摑むなんてことはせずにただジッと次の言葉を待った。

おそらく、いや絶対に彼は……。


「でもできなかった。俺は紡木を絶対に他人に渡したくなかった。ずっと俺の側にいて欲しくて、それで自分の欲望に負けて俺はただ彼女の寿命が尽きるまで一緒に……」


溜め込んでいた感情が吐き出てきた。

周囲の視線が一際目立つような声を上げた彼に集まってくるがそんなくだらない事実になど目もくれずに俺は黙考した。

ここまで来て後退りしそうになってしまう。

聞く覚悟は決めたものの、いまこの場で俺がすべき行動が見つからなかった。


俺は一体どう彼と接したらいい?

進学高校に通う一般高校生としての浅田清哉としてか?

アリスのパートナーになる予定で事務所で体験入社している浅田清哉としてか?


本来ならば社員として彼と接することがベストなのだろうが、俺は……俺は……。


「いつまでも悩んでいるな‼︎」


俺は、自分の感情だけに任せて海斗さんと向き合うことを選んだのだった。

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