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エピソード14 〜見守る〜

「アリスさん可愛いですよ」


「……慣れないです」


電車で片道15分。デパートに着いた俺たちは紡木さんの提案でアリスに似合うお洋服を選びたいとのことで女性向けのファッション店に足を運んでいた。

男二人の意見は参考にならないので和気藹々と楽しむ二人を横にポツンと待機。

アリスは普段からショッピングなどに行かないと事前に緋色奈から聞いていたが案の定出かけたことがないというのがバレバレなくらい紡木さんの対応に追われている。


着せ替え人形のごとく、更衣室から着替えては出て、着替えては出てを繰り返し、次第にアリスの顔色に疲労の色が見え始める。

早いぞアリス⁉︎

まだ始まって一時間と経ってないんだぞ、こんなところでバテるな‼︎


次々と衣装を変えるアリスに心の中で必死に呼びかけつつ一人になると浮かない表情をする海斗さんにも気を配る。

とはいっても話すキッカケなどもないので黙って彼の経緯を見守るだけで相談に乗ったり励ましたり、何てことはできない。


「アリスさん、次はこれをどうぞ」


ピンク色でフリル付きのいかにも可愛らしい感じのブラウスをぐいぐいとアリスに勧める紡木さん。

元気がないながらもどこか楽しそうな表情で頷くアリスは差し出されたブラウスを持ってカーテンを閉める。


「あっ、アリスさん‼︎ スカート、スカート忘れてますよ⁉︎」


アリスの今日の格好がワンピース一枚の下にはショートパンツも何も履いていない状態だということに気づき慌てて紡木さんは紫色のラインが入ったスカートをカーテンの隙間から手を入れて着替え中の彼女に渡した。


まぁ、紡木さんがリードしてくれる分には特に問題はないのだが……事情を知っているだけあって海斗さんのことがどうしても気掛かりだった。

電車の中でもそうだったが紡木さんと話す時の彼は心の底からこの一時(いっとき)を大切にしようと優しそうな笑顔を振り撒いていたが、いざ一人になると不安という言葉に押し負け、時折辛そうな表情に変わる。


「……無理、もないよな」


こんな時、裕翔なら一体どんな言葉をかけるのだろうか?

どうしたらいいのか皆目検討もつかなかった。

最期だというのに不安な顔一つ見せずに心の底から笑っている紡木さんに彼女の見えないところでは不安に怯える海斗さん。

俺がこの二人のためにできることは何かないのか?

俺には大切な人を失う辛さも自分の命の灯火が消えかけている怖さもよくわからない。

ただ平和に生きてきただけの俺にできることなんて本当にあるのか?


挙げ句の果てには自分さえ追い込んでしまう始末。

いまのままでは皆ばらばらで、ただ個人的にデパートに買い物を着ている人が一箇所に集まっているのと大して変わらない。


「……ばらばら? そうかばらばらだ‼︎」


「どうした?」


俺の唐突な独り言に怪訝な顔をする海斗さん。

だけどいまはそんなことを気にしている余裕はない。時間は限られているんだ。

俺は洋服探しを楽しむアリスと紡木さんの間に無理矢理割り込んで二人にある提案をした。

彼女は確かにこう言った。“経験したことがなかったダブルデートを楽しみたい”って。だったらこんなばらばらな空気でずっと過ごすより少しでも皆と纏まってできることじゃないと駄目だ。


「せっかく四人で遊びに来ているんだから洋服選びは後にして先に遊ばないか? ゲームセンターとかあるし、ちょうどペアも揃っているみたいだしね」


突然の方向転換に紡木さんもアリスも呆然とするだけでだったがやがて紡木さんの方から、


「うん、賛成。アリスさんもいいよね」


「構わない」


すぐにいつもの調子で俺の提案を了承してくれる紡木さんに心の中でお礼を言いつつ、俺はまだ心の整理がついていないかいとさんに目を映す。

もちろん彼にもこの提案は聞こえている。

紡木さんが賛成の以上彼が反対する理由は特に見当たらない。


そんなわけで俺の立案したゲームセンターへと四人で向かうことになった。



デパート三階にあるゲームコーナー。

高校生の遊びとしてなら手軽に楽しめ、対戦ゲームなどがあれば盛り上がりもプラスできる、いまの俺にとっては好都合な場所この上ない。


「それで清哉くんはどんなゲームで遊ぼうと考えているのかな?」


悪戯っぽく微笑み横顔を覗いてくる紡木さんに俺は自信ありげに笑い返してみた。

デート回数や付き合っている暦などは明らかに紡木さんと海斗さんの方が上。ゲームセンターでの遊びも高校生の二人なら経験済みなことはわかっている。


「まっ二人にゲームで勝つことが目的じゃないしな」


「?」


こちらの考えが読めなくなったか明らさまに疑問の色をその表情に浮かべる紡木さん。

意外とゲームセンターに精通している俺が選んだゲーム、それは……。


「普通のシューティングゲームだよな」


四人まで同時に遊ぶことができる、ちょっと珍しいガンシューティングゲームで、宇宙をテーマに迫り来るUFOを片っ端からレーザーガンで撃ち落としていくという設定とルールが単純で人気も高い。


「最高点でも叩き出そうって魂胆か?」


こういうゲームに闘志を燃やすようなタイプなのか海斗がやる気満々といった様子で固定された銃を手に持つ。

これを使って四人で遊ぶという本来の目的を達成しようとも考えたが、それはこの後の予定でも充分に完遂できる。

まずは海斗さんの中にある気持ちをはっきりさせないといけない。


「そのつもりだが……いや悪いちょっと緊急の用事があるみたいだからちょっと外させてくれないかな?」


俺はポケットに入れた携帯を開き、仕事の用事を装って両手を合わせて謝った。

デートの最中に仕事の連絡なんて失礼極まりないことだが忙しいものだと認識している二人は嫌な顔一つしない。


「俺は別に構わないけど」


「私も問題ないよ」


「本当にごめん。少ししたら戻ってくるから先に始めててくれ。あとアリスにも話があるみたいだから一緒についてきてくれ」


「わかった」


イメージとだいぶ違うがうまく二人と別れることができ、アリスと二人でゲームセンターを出ることができた。

そしてすぐ近くにある柱の陰に隠れるとアリスの顔色が強張った。


「清哉、こんな時に仕事のメールなんてあり得ません」


雰囲気を崩しちゃまずいと感じたアリスの考慮なのか、胸の内の疑問を二人きりになった瞬間にぶつけてくれた。


「私たちの会社の皆さんは大切な用事の最中に無粋な横やりを入れることはありません」


強くメンバー信頼したアリスが言葉に棘を入れてくる。

だけど俺はそんな反論最初から承知した上でアリスと二人きりになる口実を作ったので平然としていられた。


「確かに仕事のメールは嘘だ。そもそも俺は仕事のメンバーのメアドすら知らない」


開いたスマホの画面にはメールの表記などはなく、送られてきた形跡もない。

すんなりと引き下がった俺を意外に思ったのかアリスは何度か目を(しばた)かせる。


「清哉、どうしてそんな嘘を?」


「ちょっと思うところあってな。海斗さんと紡木さん、二人きりの時間を作るべきだと考えたからだ」


そして俺は自分の胸の内にある意見をアリスに説明する。

海斗さんはおそらくまだ紡木さんの最期を受け入れる覚悟が決まっていない。

もしかしたらそれを見越して紡木さんは最期の最期でダブルデートという二人きりの時間を減らす策略に出たのかもしれない。

だけど俺は一度二人きりで話し合うべきだと思う。きっと海斗さんならキッカケさえあれば解決に持ち込める、そう感じたからだ。


「……それで様子を見守りたいなって思ったんだけど……駄目だったかな?」


必死に導き出した俺のやり方というものを精一杯伝えたつもりだが、アリスはまだ納得はしていなかった。

それでもしばらく迷ったのちアリスにはやわらかく笑ってくれた。


「私な清哉の判断に従います。紡木さんと海斗さん、二人には離れたまま永遠の別れを誓って欲しくない」


「決まりだな」


ゲームコーナーからすぐ近くにあるトイレに行ったとみせかけて再び二人で騒がしいゲームコーナーの中に戻ってきた俺たちはクレーンゲームの機台に隠れるようにしてそっとシューティングゲーム後ろのゲーム機の陰に隠れる。

周りの雑音がうるさくて隣り合わせでゲームをプレイする二人の会話までは聞き取れないが、その背中を見るだけで海斗さんが緊張しているのがわかった。


ここから海斗さんが行動に移るまで数分と掛からなかった。


固定された銃から手を離し、ゲームに夢中になる紡木さんと目を合わせたと思うと、面と向かって早口で何かを伝える。

すると紡木さんはそれに微笑み返し、短く口を開いてゲームに戻った。


それ以降二人の間に会話はなかったが、少なくとも海斗さんの背中から不安という要素は消えていた。

それを確認した俺たちは二人に合流して何気ない様子でゲームに参加するのであった。

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