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捜索

 俺はタクシーを捕まえると、安西と電話で連絡を取りながら一度自宅に立ち寄った。

 金や免許証などを入れた小さなカバンを持って、待たせていたタクシーに戻る。

 そこからレンタカー店に向かった俺を、先に着いていた安西が出迎えた。


「車は?」

「準備させています。後は湊河さんがサインをして金を払うだけです」

「あの連中の居場所は?」

「樋口と木戸が確認しています。上南3丁目の雑居ビルです」


 その2人は店の常連客で、安西のグループだ。

 俺は支払いを終えると、借りたワンボックス車に乗り込んだ。


「安西。お前は人をできるだけ集めてくれ。ただし暴力団がらみで危険がある。それでも構わない連中だけだ。集めるのはどこでもいいが、店から少し離れた場所にしてくれ」


 目的地近くまで車を走らせると、見知った顔が手を振っていた。おれはその雑居ビルの前に車を止めた。


「この路地の奥です」

「分かった。お前たちは安西の所へ行ってくれ」


 俺はカバンから長めの結束バンドとガムテープを取り出した。

 数本の結束バンドを右腕にゆるく巻き、数枚のガムテープを左腕に貼った。


 路地を進んだ先。ビルの裏口がある場所に2人の男が立っていた。

 どちらもあの祭りの日にケンカをした相手で、今は暴力団の末端だ。

 俺に気付いた2人は、驚きの表情を見せてからこちらを警戒する姿勢になった。


 身を守るように構えた相手の両腕をつかんだ俺は、抱くようにしてその腕を後ろへ回した。

 そして相手の両親指をまとめて右手でつかみ、左手で結束バンドを俺の手首から相手の親指までずらして締め上げた。

 最後に左腕からはがしたガムテープを口に貼って、軽く地面に転がした。


 安西を相手に何度も練習をしていた成果があって、2人とも数秒づつの作業で済んだ。

 2人を両脇に抱えるとワンボックスまで運んで後席に投げ込む。

 呻き続けている2人を無視して車を店へと走らせた。





 パーティションに囲まれた奥の席に二人を座らせる。

 明かりは点けていないため、窓からの光だけでは店内は薄暗い。


「お前たちに質問がある。風俗以外で組員以外の一般人を連れて行く場所があるだろう。何処だ?」


 そう言いながら、口のガムテープをはがした。


「知らねえよ。そんなことはしてねえ」

「お前たちの話じゃない。組でそういうことがあるとき、連れて行かれるのが何処かってことだ」

「だから知らねえって」

「うわさ程度の話でもいい」

「しつこいな。知らねえもんは話せねえんだよ」

「そうか」


 俺は再び2人の口にガムテープを貼ると、俺と話していた方の頭にフルフェイルのヘルメットを被せた。

 そして両脚をガムテープで椅子の脚に縛りつけた。

 自分の手にバスタオルを巻き付けると、その手でヘルメットのあごの部分を軽く横へ叩いた。


 全く痛くは無いはずだが、それをひたすら繰り返す。

 右から左、左から右、右から左、左から右、右から左、左から右……


 数分間繰り返しただけで、男の目つきが怪しくなってきた。

 自分が何をされているのか分からず、不安が蓄積されているのだろう。

 俺はそろそろ説明してやることにした。


「ボクサーのラッキーパンチって知ってるか? あごを掠っただけなのに、相手が脳震盪を起こして倒れてしまうんだ。脳っていうのは頭蓋骨に固定されているわけじゃない。わずかに浮かんでいる状態なんだ。だからこんな風に叩いていると、その度に脳と体をつないでいる部分がすこしねじれることになる」


 俺はジェスチャーも使って彼らに説明した。


「それが数十回なら問題ない。数百回でも、もしかしたら少し痺れるかも、と言う程度だ。叩くのを止めたら回復する。だが千回を超えるぐらいになるとちょっと事情は変わる。ダメージを受けた部分が元に戻らなくなってくる。動かなくなる部分がどんどん増えていって、最後にはベッドの上で一生を送ることになる」


 その説明が2人の頭に十分浸み込むまで待って、俺は説明の続きを言った。


「体には傷一つ残らない。毒物の反応もない。だから後で面倒なことにもならない。信じられないか? だから2人連れてきたんだ。実際に壊れた人間をその目で見れば、疑うことはできないだろう」


 叩いていた方の男が急に暴れはじめた。

 俺は男が疲れて動かなくなるまで数分間放置した。

 動きが緩慢になると、俺はまた男のあごを叩き始めた。


「んん~。んっ、んっ、ん~~」


 男が悲鳴のような鼻声を上げ始めた。


「どうした? 何か思い出したのか?」


 必死になって首を縦に振る男を見て、俺はヘルメットを脱がすとガムテープもはがした。


「どうした? 何か思い出したのか?」

「ああ。……あんたの言って――」

「ちょっと待て」


 俺は男の言葉を止めて、また口にガムテープを貼った。


「嘘をつかれても困るからな。先にもう1人から聞いておくことにする。答えが違ったらどちらかが嘘をついてるってことだ。そのときには予定通り、お前を壊してからもう1人に聞くことにする」


 そう言ってから、俺はもう1人を居住部分まで運んだ。

 ガムテープを外して答えを聞く。


「実際に見たわけじゃない。ホントにうわさだけなんだ」

「いいから、何処だ?」

「本部があるビルから西に行った――」


 再び店内に戻った俺は、先に聞いた男のガムテープをはがした。


「言っとくけど、確かなことは本当に知らないんだ。田場さんが口にしたのを一度聞いただけなんだ。あんたが向こうで聞いた鈴木だって、間違ったことを言ってるかも知れない」

「嘘かどうかは俺が判断する。早く言え」


 2人の言った場所は同じだった。

 嘘を言っている可能性は低そうだ。


「お前たちから聞いたことを秘密にするつもりはない。後で解放してやる。組に始末されたくなかったら、さっさとこの街を出るんだな」





 何とか目当てをつけた場所は、2階以上が遊興施設や飲食店になった5階建てのビルだった。

 おそらく全ての店舗が、暴力団関係のオーナーによって経営されているのだろう。

 ここに二宮が連れ込まれたのなら、それは一般客の入らない1階か地下だ。


 着信音を聞いて電話に出ると、二宮良治だった。

 二宮のスマホのGPSが途絶えたのは、このビルとは別の建物だった。

 ただしその建物は二宮たちを監禁できるような場所ではなく、このビルとの距離も近かった。


 確実に二宮が居るとは言えないが、今の時点でこのビルより怪しい場所はない。

 居なかった場合も、ここなら次への手がかりを手に入れることができるだろう。

 その方法を考えると、俺にはどうしても手を貸してくれる人間が必要だ。


「安西。どうしたんだ? この図面は」

「まあ色々と。後で消しておいてください」


 こういったビルは、防火のための詳細な図面が消防署に提出されている。

 もちろんそれは、認められた人間にしか見ることができない物だ。


 詳しく聞いている時間は無い。

 俺は集まってくれた十数人の男たちの前に出て、その目的を説明した。

 全員、安西が口の堅さを保証するメンバーだそうだ。


「俺の店で働いていた二宮が、暴力団に捕まった。俺は今から助けに行くが、1人で乗り込んで二宮を助け出すのは難しい。みんなに集まってもらったのは、俺に手を貸して欲しいからだ。一緒に乗り込んでくれと言ってるわけじゃない。やって欲しいのは陽動作戦だ」


 彼らに動揺する様子は全くなかった。


「みんなには今からここにあるジャージを着てもらう。古着だが数は余分にあるから、サイズの合うものを適当に選んでくれ。サングラスとマスクは今じゃなく、ビルに近付く直前に着ければいい。他に持ってもらうのは、自動車用脱出ハンマーと爆竹とライター。ノズルにピンを挿した催涙スプレーの缶だ」


 スプレー缶は俺がまとめて入手していた市販品を加工したものだ。

 加工といっても、ノズルの穴にピンを押し込んでから漏れないよう瞬間接着剤を塗り、乾いた後でノズルを押した状態に固定しただけだ。


 この催涙スプレーは唐辛子の成分をベースとしたもので、本来は直接相手の顔に吹き付ける。

 後遺症はないが激しい苦痛で行動不能になって完全に回復するまで1時間以上かかる。

 量が十分に多ければ、撒き散らしただけでも相手の行動を制限できる。


 その他の小物は安西が仲間と集めてきてくれた。

 計画に合わせて集めたというより、すぐに集められる物を取捨選択して計画を立てた。

 詳しい話はしなかったのに安西は非常に協力的だった。


「みんなにはビルから100メートルほど離れた所でバラバラに待機してもらう。予定時刻が近付いたら、その時間にビルの周りを囲めるタイミングで来てくれ。爆竹の音が開始の合図だ。まずそのハンマーで窓ガラスを割り、そこから火をつけた爆竹を投げ込む。さらにピンを抜いたスプレー缶も投げ込む。注意してくれ。抜くときは穴が顔と反対になるように持つんだ」


 俺は実際にスプレー缶を持って、その使い方を説明した。


「それが済んだら、2か所に停めてある車の中で自分の服に着替えて、後はそのまま解散してくれ。配ったものは全て車の中に置いていけ。何か質問はあるか?」


 幾つかの質問に回答して、俺からの説明は終わった。

 作戦開始は2時間後の午後8時だ。

 その間に人数分以上のスプレー缶を加工して、爆竹の導火線を色々な長さに延長する必要がある。

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