願い事を叶えましょう
「へ……」
美少年が立っていた。それはもう町ですれ違ったら、二度見ならぬ五度見くらいしてしまう自信があるほどの、きれいな顔立ちの男の子だった。
歳は私よりも若干年下くらいだろうか、身長は彼の方が若干高いけれど、なんとなく幼さがある華奢な体つきをしていた。
「気が付きましたか? 有坂春子さん」
反応するまで数秒ほど時間がかかった。
いつの間に私はこんな美少年と知り合いになったのだろうか。いささか気になったが、なぜか特にそこは、不思議とどうでもいいことのような気がした。
私はそっと彼から視線をはずし、あたりを見回した。そして、あまりの光景に息をのむ。
満天の星空だった。上を見ても右を見ても左を見ても、数えきれないほどの無数の星が広がっていた。私を囲むように輝いていたのだ。
まるで宇宙にいるような、そんなたとえが相応しい。
「きれいでしょう。僕のお気に入りの場所なんです」
「…ここ、どこ」
自分が驚くほどにかすれた声だった。さすがの私も、だいぶ動揺しているらしい。
そりゃあそうだ。さっきまで住宅街をうろうろしていたのだから。
「ここは…とくに名前があるわけじゃないですが、僕の隠れ家…みたいなものですね。春子さんの住んでいた世界と、また別の異世界の狭間らへんでしょうか。正確な位置はわかりませんが。ここはそういう場所です」
「い…異世界? 狭間?」
なにやら聞き慣れない単語が聞こえた気がするのは気のせいだろうか。耳鼻科にいった方がいいのだろうか。
「僕はあなたの願いを叶えるために、あなたをここへ呼んだんです。…すみません。僕の行動が遅かったばかりに…もう少しであなたを死なせてしまうところでした」
申し訳なさそうに頭をかくその姿に、なにかがぐらりと動かされたような気がしたが、なんとか踏みとどまって、彼の言葉を飲み込もうと努めた。
しかし、致命的に低い私の理解力では、彼の意図を正確に解釈することは皆無である。
とりあえず頷いておいた。
「と、いうことで、今からあなたの願いを叶えましょう。さあ目を瞑って」
言われるがままに目を閉じた。閉じなければいけないような気がしたのだ。
というか、状況が読み取れない。一体何なのだ。というか、私の願いって何? いつ君に願い事をした? ってか、君、誰?
「そのうち分かりますよ。では、また会える日まで」
遠のく意識の中で、そんな声が聞こえた。
なにやら厨二くさいが、そのセリフは真っ白な不思議な衣服を身にまとう彼にピッタリのような気がした。
そして私は、何の理解もできぬまま、本日二度目の意識を、手放したのである。