第八話 「後悔」
---------------------------------------------------------------------
Tea time.8
A female cat woke up to the twittering of a small bird.
---------------------------------------------------------------------
「大っキライ!!」
走り去る少女。執事は呼び止めず、ただ溜め息だけを漏らした。
原因は些細なことだ。最近、少女の就寝が遅くなっていることをたしなめただけなのだが、どうも、お互い歯車が少しずれたように、口論が歪な方向に向かってしまった。
追いかけはしない。
それで自暴自棄になるほど彼女は愚かではないし、家出をするほど「強く」もない。
そも、このような事も極めて珍しいというわけではなかった。
「あら、こんな遅くに痴話喧嘩?」
「覗き見とは人が悪いですね。それに、痴話は余計でしょう。お嬢様にも失礼です」
「もう…。二人きりなんだから、堅苦しい言葉使い、やめてよ」
「……夜は更けても、この服を着ているうちはそうは行きませんよ。あなたも、まだ仕事中でしょう」
ホールに繋がった廊下から顔を出した、シックな紺色にまとめられたメイド服を着た女性は、ふふん、と軽く笑う。
「あらかた終ったわよ。残ってるのは、戸締りのチェックと…貴方の部屋のベッドメイク、かな。寂しいのなら、朝まで添い寝してあげるけど?」
擦り寄る。
吐息と共に絡ませてくる柔肌は、少女が普段してくる暖かさと違い、気を抜くと堕ちるような、熱さ。
執事は、しばらくそれを味わうように、任せるままにしていたが、やがて軽く彼女を押しのけた。
「……やめておく。そういうことは、雑念抜きでないと、君にも失礼だろう」
「あたしは構わないけど……ううん、やっぱり嫌ね。心の何かを埋めるためなら、遊びでも良いけど、誰かの代わりじゃ悔しいから」
少しだけ名残惜しそうに。
執事の頬に唇の感触を残し、彼女は離れた。
「お休みなさい。気が向いたら、あたしの夢に遊びに来てね。」
「お休み。気が向いたらそうさせてもらうよ」
どうせそれも、お嬢様の機嫌を取る方法を思いついた後でしょうけどね。
執事を見送る女の、軽いため息。