69/70
第八話 『炉を守る人』 アメリー・ルース
------------------------------------------------
Canvas.8
Once, breath was my only fire.
Now, the hearth burns for me.
------------------------------------------------
今日の最後の仕事は、暖炉の鎮火。
他の使用人達が次々に就寝に付く中、大広間に最後まで残り、準備をする。
こうして、豪華なソレを前に思い出すのは、この館に来る前の自分。
隙間風に身を晒すしかない安宿。
雨が降ろうものなら、毛布でも被らなければやってられない。
悴む指先に、溜息に似た息を吹きかけ暖を取る。
そんな事を繰り返して、寂しさだけが重なった。
今、自分の前で、それはただ静かに己の仕事に準じている。
温かく、そして優しく、火を爆ぜさせて明々と。
暖炉の暖かさは、特別な価値がある――そんな気がした。
いつもは、みんなの為に。
今だけは、僕の為に。




