第七話 『両替商とその妻』 クエンティン・マサイス
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Canvas.7
Gold and gospel differ only in the shrine where we kneel.
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いつだったか――
「あん? んだよ、ゴミ漁りが珍しいか? 見てんなら見物料に金かパンでもよこせよ」
「金など、所詮は石ころと紙切れだ。金の魔力に取り付かれるな」
と、街の聖人は少年に聖書を差し出した。
金の為に、媚び諂う人がいる。
金の為に、肌をさらけ出す人がいる。
金で破滅する人も、祝福される人もいる。
あの聖職者は、石ころと紙切れに熱を上げることを哀れだとでも言いたかったのだろうが――
だが、生きるために魔力を求めて何が悪い。
そこにあるのは、価値があるという共通の信仰であり、それが、ただの紙切れを万能の契約書に変えているのだ。
「なんだ……それじゃ、金も聖書も、似たようなものじゃないか」
そう毒づいて、聖職者からもたらされたその真新しい聖書はその日のパンと葡萄酒へと形を変える。
数年後――とある館の少年部屋にて、机の上に、二冊の本があった
ひとつは手垢と折れ目が付き、何度も修繕されたあとの残るボロボロの画集
まるで、誰かが「大切にしないで放置していた」あと、
誰かが「とても大切に」保管して、何度も読み返したようなそれ――。
そしてもう一冊は、内容は全く同じだが、買ったばかりの新品の画集。
一つくらいは、なにより大切なものを自分の力で持っておきたくて――
館での初めての給金は、少年にとっての聖書の代価になった。




