第五話 『泣く少年』 ジョヴァンニ・ブラグリオリン
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Canvas.5
He drew the world without faces,
yet found a gaze that asked to be captured.
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初めて描いた絵は、おもちゃの船。
欲しくて、でも、どうしても手に入らないと理解して、それでも諦められずにいて、気がついたら紙に描いていた。
それからというもの、欲しいものがあれば、すべて絵に描いた。
紙がなければ地面に、絵の具が無ければ草を潰して描き続けた。
そうして出来た『もの』は、間違いなく自分の『もの』だと信じて。
「風景画ばっかりね。ちょっとだけ静物画があるけど。人を描くより、こういうのが好きなの?」
初めての休みに、久々に絵を描いていると、メイド服のままサボりに来たという彼女がそんな事を言う。
「……いや、単に人を描くのが苦手なんだ」
嘘ではない。描けない、というのが苦手のうちに入るのなら。
僕は風景を描く。建物と自然だけの世界を。
誰も居ないの世界なら、僕が貰っても、いいんじゃないかと思うから。
「じゃあ、あたしをかいてくれない?」
唐突に、彼女はそんな事を言う。
ぎょっとして彼女を見ると、くりくりと目を大きく開いて、僕の言葉を待っていた。
「そうだね…気が向いたら」
なぜかばつが悪く感じて、僕は目をそらしながら答える。
その答えに、ちぇ、と大げさにすねる彼女。
気が向いたら、か。
そんな日が、いつかは来るのだろうか。
だって、人を描いても、それは自分の物にならないって、僕は知っている。
何十枚と描き続けた母の絵が、炎と消えた、あの日から。




