第四話 『フレデリック・バジールの肖像』 ピエール=オーギュスト・ルノワール
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Canvas.4
I'd like to introduce you to the children of my grandfather,
who have been sleeping for too long.
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「ここ、自由に使っていいわよ」
少女は、まるでペンを一本貸したような口調で――
画材が積み込まれたアトリエを前に、少年は口を開いたまま立ち尽くしていた。
「あ、あの…ここって…な、なんで…」
「祖父の趣味らしいんだけど。必要ない?」
大慌てで首を振る。
確かに絵を描く道具の費用は持ってもらえるとは聞いていたが……
まさか、絵を描くためだけの一室を用意してもらえるとは、考えてもいなかった。
館の離れに案内され、扉を開いた瞬間に広がった、嗅ぎ慣れたツンとした絵の具の匂い。
元の持ち主とは、相当趣味が合ったらしく、部屋の配置、道具、絵の画風、それら一つ一つの意味が、わかる気がする。
「必要なものがあれば、書類を書いて提出しなさい。無意味に高価なものでなければ、用立てるから」
そのかわり、契約どおり、たまには館に飾る絵も描いてね、と。
契約というよりは、友だちと遊びの約束を交わすように。
「お嬢様は…僕の絵に、そんなに価値があると思うんですか?」
「金銭的な意味で言ったら、ないかもね。今後どうなるかは知らないけど」
そんなことを、あまりに毒気なくいわれては、悔しさも沸かない。
しかし、それならどうして――
そう問うと、少女は少しだけ寂しそうに笑う。
「だって、わたしじゃこの子達と遊べないから」
愛し子の頬を撫でるかのように、手近な絵筆に指を這わせる少女。




