第三話 『ラ・スープ』 ウィリアム・アドルフ・ブグロー
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Canvas.3
He found a seat at a table where all are equal,
and discovered the warmth that feeds not just the body,
but the heart.
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「あの、こ……れをもって行くように……っと、言われた……んだけど」
大きな樽で小さな体を覆い隠すようにしながら、少年が厨房に入ってきた。
「ありがと、そこにおいといてくれる?……ついでに、少し休んでいきなさい」
顔を真っ赤にしながら呼吸を乱している少年に見かねたのか、メイドは部屋隅の椅子を指差す。
頷いて少年が腰を下ろすと、紅茶の入ったカップを渡された。疲れた身体に、甘さが心地いい。
ふと、少年は自分が運んできた樽に目を向けて、
「この樽は、今日の夕食用?昨日の夕食も美味しかったし、ちょっと楽しみだよ」
「ありがと、うれしいわ。昨日のは、あの子も気に入ってくれたみたいだしね」
「……あれ?あの子……っじゃなくて、お嬢様も同じものを?」
「そうよ?どうして?」
「……だって、普通は主人はいいものを食べて、召使は残り物……とは言わずとも、ありあわせの物で済ませたりするんじゃないの?」
少なくとも、自分が知っている『お偉いさん』はそういうものだったし、それは当然だとも思う。
「あたしも始めは、『いいのかな?』って思って、直接聞いてみたことがあったんだけどね」
くす、と、そのときを思い出したのか僅かに笑って
「賄いのほうが美味しそうだったら悔しいじゃない――って」
メイドは思う。
それはきっと、半分は本気だろう。そして残りは、彼女の彼女の照れ隠しだ。
だって、自分が一人だけ皆と違うものを食べているのは、それが豪華であれ貧しくあれ、とても寂しいことだから。
少年は、やっぱり納得がいかないという顔で、
「やっぱり、よくわからないよ」
「そっか……」
「・・けど」
「けど?」
「貴方の料理はおいしいから、ボクも、そんな気持ちになるかもしれない」
この館が、前より少しだけ気に入った気がした。




