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執事さんとお嬢様 ~甘党の為のお茶会~  作者: ぐったり騎士
サブストーリー:メイドさんと見習い少年
62/70

第一話   『ティーポットのある静物』 ポール·セザンヌ

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Canvas.1

 The Boy Stepped into a Sweet Still Life.

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 自分には場違いな場所だ――と、少年は思った。


 住み込みで働いていた場末の酒場を追い出され、空腹で半ば行き倒れていたところを、どこかのお屋敷に仕えているという、メイドに助けられた。

 食べ物のお礼に、と全く売れない自分の絵を渡したら――数日後、なぜか丘の上の大きな館から小間使いとして働かないかとの御達し。

 給金はありがたいことに一般の相場通り。

 それになによりも、館に飾る絵も描くとい条件で、自分のための画材費用をある程度受け持ってくれるという。


 貴族やら金持ちやらは嫌いだが、是非もない。

 

 そして、やってきたその館では――全てが自分とは別世界だった。


 豪華な装飾、絨毯、なにより――暖かい空間。

 

 金持ちの独特のいやらしさは感じず、存在する全てが、それぞれの機能としての美しさで包まれている。

 

 まるで絵画の中のようだった。

 

「どうかいたしましたか?」


 自分を案内する、壮年のメイドが首をかしげた。 

 慌てて取り繕う。


 ――しっかりしろ。正式に雇ってもらえるよう、ここの主人に好印象を与えないといけないんだから。

 

 

 基本的に、この手の人種は物を大事に、人を使い捨てにする傾向があるんだ。

 

 そんな、反吐が出るような主だろうと――生きるため、それに絵がかける場所を、逃すわけには行かない――




「貴方は、紅茶は好き?」


「は、はい?」



 館の主たる少女に、一番初めに聞かれたのがこれだった。戸惑う自分を黙って見つめる少女に、押されるように「YES」と答えてしまう。



「そう…それでは、皆を集めてくれる?」



 少女の言葉に、隣にいた黒髪の執事が、「かしこまりました」と一礼。

 執事は、自分についてい来るように言う。

 

 大きなフロアに通されて――そこで待たされた。

 そうしていると、いつの間にか館で働いていると思える者たちがどんどん集まってくる。



「あの…これから何をするんですか?」



 少年はそばに居た、最初に自分を案内してくれたメイドに、囁くように問うが――彼女達は楽しそうに微笑むだけ。


 しばらくして少女が執事と共にフロアにやってくると――ティーセットをそろえたカートワゴンが運ばれてくる。


「えっ……」


 あの雨の夜の、彼女。




 そのカートを押していたのは、雨の夜に出会った、あの彼女だ。

 今はメイド服に身を包み、凛とした顔で、まるで館の誇りを背負うように。

 

 ――と思ったが、自分と目があった瞬間、彼女は、ふっとウインクを一つ。

 

 彼女がカートから食器を取り出していくと、フロアに香ばしいパイと、甘い紅茶の匂いが広がっていく。

 驚いている少年に、少女はゆっくり近づくと、微笑みながら手を差し出した。


「ようこそ、この館へ。これから、よろしくね」


 皆とするお茶会。

 それが、この館の一員となる、儀式。

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