おまけ~蛇足的な語られなかった設定集~
『ロケットの写真の少女』
故人。
お嬢様と同年齢あたりの、優しく儚げに微笑んでいる黒髪の少女で、執事の青年と少し似ているような気もする。
東方の島国である故郷を追われ、青年と共に大陸へとやってきた。
もともと体はそれほど強いわけではないが、大陸を旅しようやく定住場所を見つけたところで病に倒れる。
その後、様々な医師や薬を頼るが、回復することなく青年に看取られた命を落とした。
その時、彼女が青年に向かって言った言葉は、青年に幸せになってほしいが故の者だったが、それはある意味、青年への呪いとなった。
『執事』
復讐鬼。
愛する少女の命を助けるために、四方八方を巡り、大金をはたいたり無理難題をこなしてでも治療する手段を模索した。
だが、そうやってようやく得た薬は偽薬であり、医師のほとんどは彼の持っていた金を狙ったり、少女の体を治療と称して好きにしようとした詐欺師である。
この時代の医療では治すことのできないもので、まともな医師ならば匙を投げて居る。治せる、と言ったものはすべて詐欺師のみだった。
最終的に世捨て人であるが信頼できる名医により「できる限り延命できるようにする」ことを提示され、治療をあきらめる。その後は彼女と一緒にいる時間をすべてに費やした。
「偽薬として投薬されたのが有害なものであり、偽医者が治療と称して少女の体を嬲っていたこと」
が、彼女の命を大きく削ったのだろうとその名医から言われて、後悔とともに騙した者たちに対する復讐を決意。
情報を得るため、自らの有能さを使って様々な権力者のところにもぐりこんだ。
青年がお嬢様の父親に雇われて最初に館に来たのは、父親が詐欺師の一味と関りがあると思われたため。
結果的にビジネスとして繋がりはあったが、父親は犯罪とは無関係であった。
現在は、少女との約束のためというより、復讐のために様々な情報を集めやすいこの館に雇われている。
最終話の時点で復讐は9割は完了済みで、最後の1割を執事をしながら調査中。人の想いに応えるのはそれが済んでからである、と考えている。
ただし、今のままでは絶対に残り1割にたどり着くことはない。
果たして、『答えを出す』ときは来るのだろうか。
お嬢様をロケットの少女と重ねていることは自覚している。
『お嬢様』
体も精神も急成長中。
もともと学習能力は高く、才能もあるため、物語開始時はまだ書類のチェックをしてサインするだけであったが、今では社交界のホストの他、ビジネス(商取引)についても父親顔負けの才覚を発揮し始めている。
物語終了後に大きな商談を成功させており、父親も跡継ぎとして文句なしだと思っているが、本人は満足していない。
「執事が真実を打ち明けてくれること」が、自分が真の館の主になるときだと思い、それを待っている。
ちなみに執事の復讐の対象の「残り1割」にたどり着くには、成長した彼女の力が必要。
「青年が残り1割の復讐を諦め、答えを出すために主である彼女にすべてを伝えること」が彼の復讐を達成するためのキーとなっている。
果たして、『彼に答えを出してもらえる』ほどに成長することができるのだろうか。
最近メイドたちからの目線が怖い。
『メイド』
元孤児。
孤児院には今でも給金を送っているが、院長からは「無理しないで」「あなたは自分の幸せを考えて」と何度も言われている。
だが、今が十分に幸せなので、そういわれても困る、というのが彼女の本音。
化粧をすれば、その妖艶さで娼婦としていくらでも大旦那から愛人として引く手あまたであろう。
ただし、化粧のためのお金もなく一人で路地裏に立っていた彼女は、不幸か幸いにか、「顔はいいが貧相で覇気のない女」として扱われていた。
青年との出会いの後は、体を売るのは止めて、普通の接客や内職で生計を立てる。
手に入る金は著しく減ったが、その分余計なトラブルもなくなったこと、料理と裁縫の才を見込まれて、メイドとして雇われるべく館へとやってきた。
そこで、すでに執事となっていた彼に再開する。
館での生活で血色がよくなり、体もより豊満になってきたことで、来客から妾としてのアプローチはそれなりに多い。
少女の父親経由では何度かそのような話が出たがすべて断っている。
少女の父親も無理やり話を進めるようなことはしていない。(メイドが少女のお気に入りなので、もしそういうことを勝手にして『パパ、不潔』と嫌われるのが怖いから)
仲間のメイドたちから「お姉さま」と呼ばれるのを何とかしてほしい。
詳細は描かれていないが、物語の途中で急遽雇われた、絵描き志望の使用人見習いの少年と仲がいい。
彼女は少年を孤児院にいた弟のように感じているが、少年のほうはどうだろうか。
『絵描き志望の見習い少年』
孤児。
もともとは母親と姉との3人で、片親ではあるもののごく一般的な生活をしていたが、火事ですべてを失った。
大好きだった姉に命を助けられ、彼のみが生き残り、日雇いの仕事で食いつないでいる。
絵が好きで、給金の大半は絵を描くために費やしている。
画材代の残りに、その描いた絵を売ることでなんとか生きていける程度。
とある理由で人物画を描けない、描かない。
絵が売れずに空腹で倒れているところでメイドと出会い、なぜかそのまま館に雇われた。
お嬢様から「絵を描くの?じゃあおじいさまのアトリエ使っていいわよ。その代わり……」と条件付きでアトリエをゲットする。
お嬢様については恩人であり「僕と同じくらいなのにすごい女の子」という認識。
メイドに対しては恩義と合わせて「特別な感情」がある。
ただしそれが恋といえるかどうかは不明。
物語の最終話時点では、館を辞めているが、交流はある模様。
『エピローグの少女』
やめた使用人の少年の代わりに入ってきたメイド見習い。
基本的に善人であり、疑うことをしない。
疑うくらいなら騙された方がいい、と思っている。
良くしてくれたおじいさん、おばあさんを心から敬愛している。
その縁により、遺族に家を追い出された後に館へ雇われることになる。
なお、少女に託された遺産手続きは正統なものであり、家と菜園は正式に彼女の者である。
現在は遺族が勝手に乗っ取っている状態であり、執事とお嬢様の働きで取り戻すことができる……のだが、それを問われたときに少女は「私はもう十分に幸せになれたから」とその提案を拒否した。
あの家と畑に思い出はあるけれど、それによりおじいさん、おばあさんの親族と争うほうが嫌だったのだ。
しかし、譲渡された畑を親族は維持できず、結局家と菜園は競売に出され、館が書類を手に格安で買い上げた。
最終的に、これらは再び少女のものとして息を吹き返すのであるが、それは別の話。
お茶会などしたことはなかったが、メイドから差し出されたクッキーはとてもおいしかった。
きっと、彼女の占いは当たっただろう。




