第五十話 「閉幕」
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Last Tea time.
Goodbye Yesterday.
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「おはようございます! お嬢様」
メイドがシチューの暖かな匂いをさせながら、にこやかに言った。
「宣戦布告!」
と、少女に宣言されたのは、ダンスパーティが終った翌日のことだった。
自分を指差してただ一言そういった少女は、言葉の内容と裏腹に、澄んだ目で微笑んでいた。
彼と、少女に何があったのか、それは聞かない。
だが、きっと、少女の心を強くした、何かがあったのだろう。
自分は、大きな幸せはいらない。
望むのは、あたしにとって、大切な人自身の幸せで――ただ、今の関係が続く事を願っていた。
でも少女は対等の立場で、「『一緒』に幸せを求めましょう」と、そう言ってくれた気がする
だから――あたしは、今より少しだけ、自分の為だけの幸せを求めてみようと思う。
それを――
「はい! あたしも負けませんから!」
そう少女に返して、二人で笑いあった、あの日に誓おう。
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The Dawn Breaks Softly Now.
My Heart Stirs Gently, Too.
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「おはようございます、お嬢様」
執事が、折り目正しく一礼する。
自分がこの国に来たのは、いつだったか。記憶に残っているのは、雨の痛さと、心の憎悪と、冷たいペンダントの感触だけだ。
それでも今までこの国で過ごし、館で働くようになったのは、八つ当たりにも似た、ただの執念じみたものだったのかもしれない。
だが、館での生活はそれなりに大変で、それなりに楽しく、そして――優しかった。
変わってしまった自分がいる。
何も変わっていない自分がいる。
でも、きっと今の自分は、あの時の自分より「まし」になったと、そう信じて――
二人の「女性」に感謝する。
「いつか、あの時の笑顔を思い出せたら――その時に」
きっと、答えを出すよ。
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This Mansion’s Tale Endures Unfading.
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自分は、どれだけ成長したのだろう。
我侭で、意地っ張り。
甘えん坊で、嫉妬深く。
学べば学ぶほど、自分がいかに子供であったかを気づかされてしまう。
彼に、恋をしているのだと思っていた。
でも、本当の恋を知ってしまえば、そんなものは子供の甘えだった。
今にしたって、あれだけ勇気を奮ったというのに、未だ告げることができていない。
たった一言。
「愛しています」と。
それでもいつかは、一人の人間として、彼のそばにいられるように。
だから、今は前を向いて。
そして、自分を支えてくれる全ての優しい人達に、感謝と、親愛をこめて――
「おはよう、みんな! 今日もよろしくね」
そして―― 館の優しい一日が始まる。
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The story continues after tea time...
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これにて、この館を舞台にした少女、執事、メイドの三人の物語は、一旦終幕。
物語は「完結」となりますが、明日、ほんの少しだけエピローグを追加予定。




