表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/70

第四十四話 「罪人」

---------------------------------------------------------

 Tea time.44

  The Penitent Dances

   with Fate to the Tune of Regret.

---------------------------------------------------------




 「あら?」



 この館で働く者達にとって、一番忙しくなる、昼下がり。

 少女がお茶と休憩を求めてサロンに行くと、珍しい光景があった。



――眠っている



 少し深めの椅子に座っている執事(かれが、頭を垂れ、何かを握り締めるように両手を組んで。

 

 朝夕夜に激務をこなしている彼は、来客がなければ、他の者達とは逆に、この時間帯こそが息をつける時間となる。

 おそらく、軽い休みのつもりで、そのまま眠ってしまったのだろう。



 面白い玩具おもちゃを見つけたように少女は破願すると、足を忍ばせ彼に近づいていく。



 起こして驚かせるのもいい。

 このまま彼の寝顔を見つめるのも楽しいかもしれない。

 コッソリと接吻(くちづ)けるのも……



 緩む口元を押さえながら、ゆっくり、ゆっくりと歩みを進めて――そして少女は、執事の数歩手前で気付いた。


 彼の握っている、金の鎖。

 そして、その先にぶら下がる銀細工のロケットを。



 そのロケットは、少女に背を向けていたが、すでに蓋は開かれている。

 いけない事だとは知りつつも、好奇心が勝った。



 彼の正面へと回り、軽く膝を曲げて、少女はそれをそっと覗き込んで――


 あっ、と。

 彼女が声を出さずにすんだのは、奇跡に近かったかもしれない。

 だけれども、口を押さえた手と、屈ませた膝は音を立てずに震えてしまう。


 ……見慣れない風景。

 おそらくは彼の故郷を背景に、見知らぬ少女が映っていた。


 今まで、自分が一度も見た事がない……心から安らいでいる、彼の笑顔と共に――。

 

 写真に映る彼のその目は、どこまでも優しく、傍らで寄り添う『彼と同じ黒髪の』少女を見つめている。

 彼と一緒にいる事がよほど嬉しいのか、溢れんばかりの笑顔を向けているその黒髪の娘は、それでもなぜか、とても儚げに見えた。


 ロケットに手を伸ばし、もっとそれを良く見ようとした瞬間――



『すまない……』



 執事が眠りながら漏らしたのは、少女にはわからない、異国の言葉。



 でも――きっとわからなくてよかったのだ。

 だって、彼は眠ったまま――涙を、流していたのだから。

 



 心臓が飛び跳ねている気がする。

 矛盾するが、心臓が締め付けられている気がする。

 そして……彼を抱きしめなければいけない気がする。


 少女の手が伸ばされ、自分とほぼ同じ高さになっている青年の首に回そうとして――


 それを止めたのは、罪悪感だった。

 多少の偶然はあったにせよ、今、彼の領域に、自分は勝手に踏み込んだのだ。


 その自分に、彼を抱きしめる資格はない……か、どうかすらわからない。

 なら、少なくても――今は。



 音を立てないように、そっと部屋を離れる。

 そして、扉を超えたところで、一度だけ振り返って――彼女は、ソレを見てしまった。




 ああ、そうか――


 やはり、私は過ちを犯し、そしてさらにそれを重ねるところだったのだ。

 今、ここに、自分は居てはならない。まして、抱きしめて起こしてしまうなど、許されない。


 だって、ドアの隙間から見た、彼の姿は――懺悔する、罪人の姿に似ていたのだから。

今日中に最終話までいけるかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ