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第四十話  「感謝」

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 Tea time.40

  I have the message that wants to be passed on to you.

  However, it doesn't say now.

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 月が美しく踊る深夜。

 

 風の軋みさえ届かない静まった館の一室で、少女が黙々とペンを走らせている。

 

 

「……お嬢様、そろそろお休みになられてください」


「ごめんなさい、どうしても、今は出来るだけのことをやっておきたいの」



 彼女には、彼女の責務がある。

 それらを果たすため、学ばなければならないことがある。


 一つを学び覚えれば、それを有用するための術を覚えなければならない


 有用することができるようになれば、今度はその結果から導かれるさらに効率の良い方法や

 それを踏まえることで理解が可能となる新たなことを、学ばなければならない。


 おそらく、一生かけても尽きることは無いだろう。


 「時は金なり」と、どこかの誰かが言ったらしい。

 時間は金の如く貴重で大切なものだという


 それを至言と思った者が、もし商人でないのなら――ただの愚か者だ



 時は 『命』 である



 時を無駄にする者は、人生を無駄にしているのに等しい。


 だからこそ、勉強する時間があるということは、とてつもなく大きな価値を秘めるのだ。


 しかし――そのために睡眠を削るのは薦められる事ではない。

 学習とはいえ、少女のこれは、ただの我侭に過ぎないだから。

 


「わかりました。あと一時間。それでお願いいたします」



 すでに、普段の少女の就寝時間から、数時間は過ぎている。

 だが、執事は少女にそう告げた。


 彼が承諾したのは、それが少女の「お願い」だから、ではない。

 少女が、為すべき事として自ら決意したものだからだ。


 

「……ありがとう」



 少女が静かに礼をした。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「わかりました。あと一時間。それでお願いいたします」



 従者の言葉に、ごめんなさい、と――口に出さず少女はただ一瞬だけ目を伏せた


 自分の就寝が遅くなる。

 それだけで、彼の仕事は続いてしまう。

 

 これが自分の我侭でしかないことは、承知の上だ。

 

 

 「先に休め」とは言えない。

 

 それは執事としての彼を侮辱することにもなるのだから。

 

 

 絶対に 「ごめんなさい」 と言ってはならない。

 

 彼が、単なる主従から自分の言葉を聞き入れたわけではないことも、わかっているから。


 

 だから、心の中で謝り、そして声に出すのは――ありがとう。



 

 お茶を、入れてまいります、と、執事が部屋を立つ。



 扉が閉まったあと、少女はもう一度同じ言葉を呟いた。

 

次話は明日8時投下

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