第三十七話 「来賓」
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Tea time.37
Tree Of Pet Cemetery.
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猫が、横たわっている。
いつかこの館に迷い込み、その後も何度か訪れていた、あの猫だ。
何があったのかわからないが、ほんの少し前、やせ細った体を震わせて足を引き摺りながら少女の前に表れた。
今は、少女のベッドの上。
少女の寝室に入り込み、にゃあ、と一度短く鳴いた後、彼――それとも彼女だろうか、その猫はベッドに飛び乗って、そのまま動かなくなった。
すでに呼吸は止まっており、その身体は死の感触しか伝えてこない。
横に座る少女が、冷たくなったその毛並を静かに撫で続けている。
執事やメイドが、早々の元に片付けようとしたが――少女はそれを止めていた。
己の死を隠したがるという存在が、最後の場所をここに選んだのなら、きっとそれに理由はあったのよ、と。
それは、単なる自己満足かもしれない。
でも、だからこそ、本当の意味で悼み、安らかなる事を祈れると思う。
「この子、木の根元に埋めてあげましょう?」
撫で続けていた少女の手が止まり、自らの腕で、抱えあげる。
少女が、本来穢れとされる死を抱くことを――執事も、メイドも止めない。
ただ、ゆっくりと頷いた。
館の敷地にある一本の木の下に、僅かに土が盛り上がった場所がある。
そこに、特別な意味があるわけではない。
「それ」のことを知っている者も、改めて祈りを捧げる事はないだろう。
その者は、ほんの僅かな間、この館に来訪していた正客で――
つまりは、幾多の来賓者の中の一人でしかないのだから
去り逝くのなら――それはもう過去のこと。
館は、いつでも次なる来賓のために動いている。
そこには稀に、小さな花が置かれる事もある――ただそれだけの場所。
15日8時、17時にそれぞれ投下予約済み




