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執事さんとお嬢様 ~甘党の為のお茶会~  作者: ぐったり騎士
執事さんとお嬢様

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43/70

第三十六話 「弔花」

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 Tea time.36

  In God’s Arms, She Rests.

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「はぁ……」




 ペンを置き、ため息をつくのは何度目か。


 今、少女の後ろに、執事(かれ)はいない。


 一年に一度、曜日に関係なく彼が館を離れる日がある。

 それが今日だ。



「それにしても、ちょっと意外でした」


「どうして?」


「絶対に、知りたがると思いました」



 執事に代わり、後ろに立つのは、少女が慕っているメイドの彼女。

 青年が、何故この日に館を離れるのか、このメイドは判っている――


 ――ということを、少女は今日知った。



 やらなければならないたくさんの事を忘れて、『誰か』の事だけを考えたい日が、彼にもあるんですよ、と。


 そうとだけ告げた彼女の言葉。


 もっとも、彼女にしても彼に直接教えてもらったわけではなく、以前に彼の私物を見てなんとなく、ということだが。



「知りたいに決まってるわ。でも……それは、裏切りになる気がするから」



 それとも、聞いたら教えてくれた?


 ――少し試すように問う少女に、女は慌てて首を振る。



「わたしは、館にいる彼しか知らない。それだって、ただ勝手に『知っているつもり』になってるだけかもしれない」


「……」


「でも、館での彼の姿は偽りじゃないって信じているから」



 だから、今日、館を出る彼に向かって、一言だけ伝えたのだから。


「貴方が、話すべきだと、そして話したいと思ったら、聞かせてね」

 ――と。


 そして執事は、少し困ったように、「失礼します」とだけ答え、館を後にした。



 きっと、それが――彼との距離。



「でも、貴方がわたしの知らないあの人を知っているのは――少し、悔しい」



 責めている訳でなく、少女は、ただ寂しそうに窓の外に顔を向ける。

 その横顔を見ながら、女はメイド服の裾を掴み、あの懐中時計にそっと触れて――無意識に「ごめんなさい」と呟いていた。

 それは、いったい(どちら)に対する謝罪だったのだろう。






 赤く染まった丘の上で、一人の男が佇んでいる。

 

 風が強く吹きぬけ、墓石の前の花束が大きく震えた。

 

 

「……また、くるよ」



 呟きを残して、男が墓石に背を向ける。


 花は、風を受けながら、一枚の花弁も散ることなく、優しく揺れていた。

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