第三十三話 「魔法」
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Tea time.33
The wizard made a lot of people pleased by her magic
and changed sadness into the smile,
because she likes to see it.
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小さい頃、それは魔法だと信じていた。
指先が触れていくと、ただの布が宝石へと変わる。
それが嬉しくて、ただ嬉しくて、ずっとその光景を見守っていた。
自分が始めたのはいつだったか。
自らやりたいと思ったのか、糧を得るためやらされたのか。
どちらにしろ、それが魔法の解けた瞬間だ。
魔法に必要だったのは、箒と呪文ではなく針と糸。
指先から鮮血が滴るたび、失敗の代償が血であることだけは魔法らしい、と思った。
それでも、いつかは望んだ形が彩れるようになって――
「綺麗……すごいなぁ……」
感嘆と共に、少女はハンカチに刺繍された花弁を指先でなぞる。
たまに光に透かしてみたり、見る方向を変えてみたりと、せわしない。
「お嬢様用に何か作りましょうか? 動物や植物なら、大抵の物は作れますけど」
刺繍を凝らしていた別のハンカチをメイド服の膝元に置き、楽しそうに彼女が言う。
「いいの?」
「ええ。それに、こういうのものは、自分のためより、誰かのために作る方が楽しいんですよ」
それなら……と、少女は少し照れた様子で、お気に入りの動物の名前を挙げる。
彼女が承諾して、少女は礼を述べると再び刺繍に目を向けた。
「それにしても、元は針と糸だけなのに……。なんだか魔法みたい」
言われて――彼女は、思わずくすりと吹いてしまった。
そうですよ? だって――
「あたしは、魔法使いですから」




