幕間5 「天使の水浴び」
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Intermission.5
I beheld the heavens.
I beheld the angel.
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「ね、一緒に入りましょ?」
少女の入浴時間。
いつものように着替えの衣類を用意したメイドに、主たる少女がそう誘った。
「よろしいのですか?」
「一人でゆっくりするのもいいけど、たまには、こういうのもいいじゃない」
元々、少女が主従関係に重きを置かないこともあるが、メイドの彼女自身も、それほど気にしない性格で――。
「わかりました。では、失礼させていただきます」
特に断る理由もなく、頷いた。
「おや?」
執事がいつものように夜の館を見回っていると、足元がおぼつかない様子で廊下をふらつく者が居た。
少し湿った髪を揺らし、見知ったメイドの彼女が半ば呆けたように歩いている。
「君でしたか。お嬢様と一緒に浴室へ向かったと聞いていましたが………………っと、どうしたんですかそれは!」
「え……?」
「鼻血です! ああ、もう! なんで何も処置をしないで放置してるんですか!」
メイドが反応する前に、執事はポケットからハンカチを取り出し、彼女の鼻に押し付ける
彼女はとろとろと鈍重な動作で、ようやく自分で彼のハンカチを手にして処置を開始する。
しかし、相変わらずその目は焦点が合っていないように、どこか遠くを見ている。
「まったく……いったいどうしたというのですか?」
「……危なかった……」
「……は?」
「ふふ……ふふふ……あの肌は……反則、よね」
「あ、あの…何があったんですか?」
「ふふ……あのね、ふにふにしてるの。それで、すべすべしてるの。
……襲いたくなるのも仕方ないの。だってぷにぷにって……ふにゃーん、ぷにゃーん、って……」
「………」
執事は彼女の目を改めて見て――悟った。
なんかヤバイ。
「知ってる?愛情はね、麻薬に近いの……」
「何言ってんのこの子!?」
「愛は麻薬と同じ。幸せを感じさせてくれても、強すぎれば破滅するだけ……」
「それ二十一話のフレーズですよね! それ絶対、愛情じゃなくてただの欲情だろ!」
「そう……つまりお嬢様と浴場で私も欲情を」
「言わせませんよ!?」
そしてまたふらふらと空ろな瞳のまま歩き出す彼女。
「うふふ、うふふふふふふ」
「……」
うふふうふふふふふうふふふふふふふふふふふ――
――館の夜は深けていく。
お嬢様逃げてー




