第三十話 「変化」
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Tea time.30
Was it your mind that the cat gazed upon?
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「おや、お嬢様……?」
「……どうしよう、この子」
書斎で学習をしていた少女の膝の上で、一匹のネコが幸せそうにくつろいでいる。
「ああ……そういえば、先ほど猫が入り込んだとメイドたちが騒いでました」
「んー、ごろごろごろ」
猫の喉を撫でる。
指先に返される感触が心地好いらしく、少女は顔を綻ばせている。
「貴方も、触る?」
「いえ、私は……っと!」
猫特有の気まぐれさで、不意に少女の膝から飛び降りたそれは、ぐるるるる……と好意の音を鳴らして、執事の足に身体を擦り付けてきた。
「ほら、この子は貴方が気に入ったみたい」
クスクスと笑いながら、少女は猫から執事へと視線を上げる。
すると、そこにはいつもは見られない、不思議な表情で固まっている青年の姿がある。
「どうしたの? ……猫、苦手だった?」
「いえ……少し、驚いてしまいまして」
執事は、言葉通り恐怖や苦手と言った様子ではなく、本当にただ驚いた顔をしていた。
「猫……犬もそうですが、私に懐いた事などなかったもので。
躾けられた動物も、触らせてはくれますが、どうも嫌そうな感じでした」
それは、母国のときも、この地に着てからも、変わらなかった――
ただ、この地に来て数年、忙しさのあまり、愛玩動物と触れ合うなどという事はほとんどなく、とうに忘れてしまっていた事。
「それが今日に限って、なぜでしょう。なにか、私に食べ物の匂いでも付いていたのでしょうか……」
「なんだ、そんなこと?」
「え?」
「そんなの、簡単なことじゃない。貴方がそのころと変わったからよ」
「私が、ですか?」
「そうよ。わからないの?」
わたしには、簡単にわかるのに。
昔の貴方と今の貴方の違いなんて――
少女は、得意げにそんなことを言いながら、猫に擦り寄られ動けないままの執事に近寄る。
猫を抱き上げ、「にゃーお」とその前足を執事に向けて、
「ここで暮らして……貴方は笑顔が増えたの。きっと、それだけよ」




