第二十五話 「騒動」
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Tea time.25
As she grew older, the girl learned to support him.
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「めんどくさい……でも、それがわたしの責務の一つ、か」
社交界。
はっきりいって、少女には興味がない世界だ。
でもそれは、彼女がこの屋敷にいるために――。
いつもより着飾る。
そんなことに、意味などない。
ドレスも、アクセサリも、見せたい相手の為でないのであれば、単なる重りでしかないというのに。
「準備が整いました。お嬢様」
いつもどおり、執事の声。
一礼し、少女を待っている。
今回のパーティに合わせて、周りには、執事の他にも何人かの館の者達が待機していた。
それは、それだけこの乱痴気騒ぎが、仕事として重要であることを示している。
「ええ、それでは行きましょう……?」
ふと、少女の足が青年の前で止まる。
訝しげな表情。
そして、少女と執事の距離が、触れ合うほどに短くなる。
「お嬢……様?」
少女は腕を伸ばし、執事の頬に手を添える。
いつものような甘え――否。
賢明な少女は、皆の前で、そういう行動は取ることはない。
そして、なにより、少女の表情は甘えではなく――
「~~~~! っバカ!!」
「面目ない……」
執事の部屋。
女はメイド服の袖をまくり、布を水に浸す。
「あなたが熱を出すなんて……よほど疲れが溜まっていたのね。最近忙しそうだったけど、ちゃんと休んでる?」
「一応……二時間は睡眠をとっていた」
「……呆れた。良いから今日は、しっかり休みなさい。これは、あの子の『命令』なんだからね?」
「ああ……すまない。そうさせて……もら……う」
そう言ってすぐに、執事の寝台から静かな寝息が聞こえ始めた。
彼女は、執事の額に、冷やした布を当てる。
思い返すのは、半刻前の玄関ホールでの光景。
いつもと変わらない、いつもの執事。
なのに、少女だけが、異変に気づいた。
自分だって、その数分前には同じ距離で彼と話していたというのに。
それに、もう一つ驚いたことがある。
執事が高熱を出していると気づいたあの時、この執事にべったりな少女は、取り乱したり、パーティを欠席して彼を看病する、と言い出すと思った。
だが、少女は医者の手配と、その後の看護を他に使用人たちに指示した後、最後に彼の容態が大事ではない事を確認して、戸惑いも見せずパーティに出かけたことだ。
少女にとって、彼が大事でかけがえの無い存在であることは、以前となんら変わっていない……むしろ大きくなっているはずだ。
きっと、彼を従者として付き添わせないパーティは心細いだろう。
きっと、彼のことが心配で、すぐにでも彼を看ていたいだろう。
だが、それでも、少女は適切な判断をして――大事な「仕事」に出かけていった。
「あたしは……馬鹿だ」
女は、部屋の片隅でひざを抱えながら、つぶやく。
「あたしに余裕なんて、初めから何にもないのに」
どこかで、自惚れていた。
少女は、どこまでいっても少女でしかないと。
彼や自分に甘えるだけの存在だと。
だから、本当の意味で「この人」のそばにいるのは、自分なのだ、と。
今日、たった数分間の出来事で、その全てが否定された気がする。
少女は……いや、『彼女』は、成長している。
人として――
そして、女としても。
初めて、本気で、小さな恋敵に嫉妬した。




