第二十三話 「味見」
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Tea time.23
The secret to the stew's deliciousness remains undisclosed.
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ぺろっ。
「……うー」
ずずっ。
「うにー……」
こくん。
「にゅあー」
「はあ……」
うまくいかない。
レシピには自信があったのに。
「不満そうですね」
彼が呆れと楽しさが半分づつ混じった声をかけてきた。
なんとなく気配を感じていたので、特に驚くことなく、鍋の中のスープをかき回す手を止めずに応える。
「うん。だって、この組み合わせを思いついたとき、久々に会心作ができる! って思ったのに」
はい、と。
先ほど自分がしていたように、小皿に鍋の中身を少しだけよそって、彼に渡す。
彼は、それを十分に美味しいと言ってくれたのだけれど。
「あなたがお世辞を言わないのは知っているけどね」
でもね、たいていの食材は、手を加えなくてもそれだけで十分に美味しいし、
たいていの料理も、普通に作れば十分に美味しくなるの。
「でも――心を込めるのだから、『とっても』美味しいものを作らないと」
「……本当に、君は料理が好きなのですね」
「好きなのは確かだけど……多分、料理をすることそのものは『特別に』好き、というわけではないのよね」
「そう……なのですか?」
彼が首をかしげる。
意外に可愛い。
……そうだ。
ここに彼の好きな香草を刻んで入れてみよう。
みじん切りにして、ぱらり、ぱらり。
一口含んで――うん。うん!
「うん。たぶん作業って意味だと、刺繍とかのほうが好きだしね。でも……」
もう一度、彼にスープを渡す。
二回目の味見の要求に、彼は不思議そうにそれを受け取って、口につける。
「あたしは――あたしの料理を食べた人が、それで幸せを感じて笑ってくれたらって」
それも、建前かもしれない。
彼の、一回目とは明らかに違う表情を見て――
「笑顔を見れば、あたしも幸せになるから」
ちなみに館の本来の料理人は「透明で見えないスープ」を作るために旅にでているとかなんとか。




