幕間3 「蜂蜜は異文化の香り」
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Intermission.3
The Melancholy of Steward Ⅱ.
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「きゃあ!」
少女の突然の悲鳴。
執事は、目を見開いて驚いたままの少女に駆け寄った。
「どうなさいました! お嬢様」
「う、うん。急に蜂が飛んできたものだから。でも、もう外に逃げたみたいだから、大丈夫よ」
「そ、そうですか……」
彼は、無礼にならない程度にはあ、と嘆息し、そのまま息を整える。
「……ふむ、先日、メイド達からも同じような話が出ていましたね。
もしかしたら巣を作っているかもしれません。少し注意して調べてみます」
「気をつけてね。ただの偶然だと思うけど、本当にあったら専門の人を呼びましょう」
無意味に貴方が危険を冒すことはないんだから、と――
言葉には出ていないが、そんな少女の気遣いを察し、執事は頷いた。
「でも……ちょっと恐いけど、本当に蜂の巣があったら、取れたての蜂蜜が食べられるかも」
そうしたら、あの子にそれでお菓子作ってもらわなくちゃ。
と、おどけた様子で少女。
執事も、思わず微笑む。
もちろん少女も本気で言っている訳ではないだろうが、それに合わせてみるのも一興だ。
「それはいいですね。蜂の子も取れますし、彼女に何か作ってもらいましょう」
と、そう答えて見て――
「……………………」
「お嬢様?」
少女の雰囲気が急に変わったことに気づき、執事は言葉を止めた。
「え、えと……蜂の子ってあの、うねうねした幼虫……よね」
言いながら、形を再現するように、腕をグネグネと揺らす少女。
少し、顔が引きつっている。
「そうですが……それがなにか?」
「あ、貴方の故郷だと、そういうの、食べるの? その、昆虫とか、芋虫とか……」
「え、ええと、そうですね。よく、と言うほどではありませんが、たまに珍味として蜂の幼虫、成虫、他にはイナゴ……バッタの一種ですが、それを甘く煮付けたものはよく食べましたね」
「…………」
「それから、故郷では一般ではありませんでしたが、私が昔渡り歩いた大陸の地では、アリ、こおろぎを揚げたものや、虫ではないですがサソリやムカデ、蜘蛛やクモ等など、よく食べたものです」
いやあ、懐かしい、と、執事ははっはっは、と朗らかに微笑んだ。
「……………………」
「……お嬢様?」
「……」
「それで、またあの子に追い出された、と」
「…………」
「お願いだから、落ち込むのは自分の部屋でやって」
「……昆虫食は、むしろこっちの国の方が盛んなくらいなのに……蜂の子やイナゴくらいたいしたことないじゃないですか。そんなこといったらこっちの国じゃ『黒い悪魔』ですら養殖までして食べ」
「いいから、あたしの部屋から出て行く」
とあるメイドの独り言
「ふーん、東方の料理とかもいろいろ気になるわね。
詳しいことがわかったら、あたしも東方料理を作ってみようかしら?」
ピコーン!
何かが立ちました。




