第二十二話 「贅沢」
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Tea time.22
Where am I standing in the play?
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「ねえ、貴方はお金が溜まったら、どんなことがしたいの?」
仲のよいメイドに髪を鋤いてもらいながら、少女はふと浮かんだ疑問を彼女に投げかけた。
「そうですねぇ……ここでの生活が楽しくて、考えたことなかったですね」
「そうなの? いつも忙しくて大変そうだし……。たまには街でおいしい料理を食べに行ったり、服とかアクセサリを買いに行くとか、そういう事をしたくはないの?」
「……そういう贅沢って、なんとなく性に合わないんですよね」
言って、笑う。
それは、半分は嘘で半分は本当だ。
そもそも、彼女の給金のほとんどは、彼女の「家族」の元に送られている。
確かに住み込みで働いている以上、生活費はほとんどかからない。
だから、見た目に浪費がなく、質素な生活を送るこのメイドは、ただ、お金を貯めるために働いていると思ったのだろう。
少女は、その年を考えずとも賢明だ。
だが、まだ世界を知らない。
彼女だけでなく、他のメイドや使用人にも。
いつも歌いながら草木を愛でている陽気な庭師にも。
そして、あの彼にも――
皆、それぞれ『何か』を背負ってこの館にいる。
それを自ら語る必要はない。
少女が自分で気づかなければならないことだし、自分が惨めにもなる。
しかし、答えた彼女の言葉は、決して負け惜しみではない。
櫛を置く。
そして、少女のお気に入りのリボンを取り出した。
「作る料理をほんの僅かに美味しくするために、手間をいつもの倍に増やしてみる。そういう贅沢が、好きなんです」
リボンが絹の様な少女の髪に巻かれる。
鏡に映った姿は、女の彼女から見ても、別世界の美しさだと思った。
きっと、あたしは、この館にいる限り主役にはなれない。
でも、それでいい。
「大きな幸せはいらないけれど、今ぐらいの幸せがずっと続いて欲しいって……やっぱり、贅沢かな?」
だって、誰かの後ろで演じる方が、それ以上に輝けるから。




