第十六話 「紅茶」
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Tea time.16
It is a magical tea that heals you.
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「ふう……」
「あら、あなたが溜息なんて珍しいわね」
食器棚の前でカチャカチャと音を立てていた、シックなメイド服に身を包んだ女が、少し頭を押さえて天井を仰いでいる執事に、そう声をかけた。
「私にも、一息入れたいときぐらい、ありますよ」
「一息入れたいなら、堅苦しい言葉遣い、やめればいいのに。どうせあたしだけなんだから。……ま、あなたらしいけど」
彼女は、軽く、肩をすくめる。
「君は、仕事はよろしいのですか?」
「とりあえず、ね。本当の戦いは夕方からだけど。今はちょっと休憩もらったから。……あなたは?」
「資料の整理をしていたのですが、書庫への書類の持ち運びが……。久々の力仕事は、少しこたえましたよ」
「なさけないわね。あたし達は、毎日が重労働なんだから」
少しだけ、勝ち誇ったように、彼女。
「それじゃ、そういうときの良いリラックス方法を教えてあげましょう」
「ほう?」
「まず、ゆったりと椅子に座るの」
執事は、言われたとおり、椅子の奥まで腰を落とし、座り直す。
「そして、目を瞑って深呼吸」
深く、深く息を吐き、ゆっくりと吸う。
「さ、それじゃ、静かに目を開けて」
呼吸を整えながら開いた目の先には、彼女がいつの間に用意したのか、テーブルにポットとティーカップを並べられていた。
――二人分。
「そしたら、ココからが重要」
執事の前に座り、女は微笑む。
「あたしと一緒に、紅茶を飲むの」
湯が注がれたカップからは、優しい香りが広がってくる。
彼女に似た、甘い匂いだった。




