幕間1 「魔と戯れよ」
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Intermission.1
The Melancholy of the Steward.
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悪魔が近づいてくる。
黒い悪魔が、少女に向かって這いずる様に。
しかし、その動作は決して緩慢なものではなく。
時折その漆黒の翼を広げては、厭らしげに己を誇っている。
「い、いやぁ……」
あまりの恐怖に、その場に崩れ落ちた少女のドレスが歪む。
逃れられない。
逃れられない。
逃れられない。
「誰か…助けて…助けてよぅ……」
虚しい願いの吐息。
そして、悪魔は少女に襲い掛かり、再び悲鳴――
「ほい、と」
あっさりと、執事が手袋越しに黒い悪魔を捕まえ、そのまま何事もなかったように窓の外へ捨てる。
その悪魔は草の葉に紛れ、かさかさと音を立てて消えていった。
「大丈夫ですか? お嬢様」
少女を安心させるためか、普段見せないような慈しむ笑顔で、執事は腰が抜けて座り込んだ少女の前に跪く。
「さあ、お嬢様」
そして、悪魔を倒した『その手』を差し出して――
「あ、ありが……」
手を――
「い……」
「……い?」
「いやー!! もうキライ嫌いきらい! こっちにこないでー!」
とある使用人の私室にて。
「……」
「……お願いだから、落ち込むなら自分の部屋でやって」
そして彼女の、辛辣な言葉。




