第十五話 「試着」
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Tea time.15
Let’s dress up!
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服飾店の大き目の試着室の中で、一人のメイドが様々の服を少女にあてて歓喜の声を挙げている。
「こっちも似合いますね……あー、これもいいなあ。うっふふ、どれから試しましょうか、お嬢様」
「わたしの服を選ぶというのに、貴方は嬉しそうね」
「楽しいですよー。等身大の着せ替え人形なんて、小さい頃からの憧れですもの」
はっきりと失礼な事を言う彼女。
そんな不真面目そうなこのメイドの心地よさを、少女は気に入っていた。
「それに、お嬢様はあまりアクセサリや衣類にこだわりませんから。少しそういう喜びも覚えて欲しいんです」
「それは……確かに貴方に誘われなければこんなところに来なかったけど。
そうでなくても、お父様やいろんな人から毎月贈られて来るから、あまり必要に感じないのよ」
「確かに、お嬢様の服の数は豊富です。でも一種類しかないじゃないですか」
「そう? いろんな種類の服があったと思うけど」
甘いです、と彼女。そう言いながらも楽しそうだ。
「身分や立場に関係なく、女には、必ず二種類の服が必要なんです」
鏡の前の少女に、いくつかの布地をあてる。
「一つは、自分を着飾る、自分の為の服」
「……」
「もうヒトツは、男に見せるための服」
肩から上の肌を晒した、少し薄めの白いドレス。
手渡されたそれを、鏡の前で自分にあてがってみる。
今の服を脱いでこのドレスをつけた自分を想像し、少女は朱に染まった。
「この服を来たら、彼、喜んでくれるかな……」
「あ~、パーティのような人前の場所で着ていたら、多分、大慌てで着替えさせようとするでしょうねぇ」
あの執事が慌てふためいている様子を想像して、そのメイドはこらえきれずクスクスと笑う。
そしてその笑顔のまま、彼女は少女と一緒に鏡に写りこむよう、後ろから軽く少女を抱きしめた。
「でも、間違いなく、数秒はお嬢様に見とれると思いますよ」
そして少女の寝室のクローゼットには、一着の白いドレスが、いつか主に着てもらえる日を、静かに待ち続けている。




