第十三話 「美声」
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Tea time.13
The girl's voice carries a premonition of a question about love.
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「貴方の声って、きれいよね。たまに、嫉妬するわ」
「ありがとうございます。ですが、私はお嬢様の声が一番好きです。とても美しい声だと思いますよ」
「社交辞令のお返しをされても、嬉しくないわよ」
「私がそのような事が苦手なのは、ご存知かと思いましたが」
「そういえば、貴方はお世辞は言わないのよね。相手がどんな名士でも。……それに、わたしにも」
「飾りは着けた者を引き立たせる為にあります。ですが、着け過ぎた飾り、偽りの飾りは、着た者の価値を貶めてしまいますから」
「そういう……ものなの?」
「私は、そう思います。いえ、……ただ、派手な飾りが苦手なだけかもしれませんね」
「それでは、飾らない言葉で、貴方がわたしの事をどう思っているか教えてくれる?」
「……大切な方ですよ」
「素っ気、無いのね」
「言葉では語りつくせぬこともありますから」
「いいわ。許してあげる。……そのかわり」
届かない首の変わりに、彼の背中に手を回す。少女は彼の顔を見上げ、少し意地悪そうに微笑んだ。
「言葉では、足りない想いを唇に」
「この想いは親愛にて、唇までは届かず」
不機嫌そうに睨む少女の腕からするりと抜け出して、執事は優しい声で続ける。
「なれど主の命令 に応える忠誠により、親愛の証を貴方の頬に」




