第十二話 「演奏」
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Tea time.12
For whom was the concert held?
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どこかで誰かの、慌てた声がする。
忙しさで駆け回る誰かの音が、別の誰かを苛立たせた。
館に溢れる、不協和音。
「何をしているの?」
「ピアノの調律です。この前お嬢様が演奏されたとき、僅かに音がずれていましたので」
「それは、確かにわたしも気づいたけど……貴方、良くわかったわね。それに調律までできるなんて知らなかったわ」
「まあ……一時期は色々な事を経験しましたから。お嬢様はどうしてこちらに?」
そう執事に切り替えされた少女は、なんだか誤魔化されたみたいだけど、と、少し唇を尖らせた後、
「部屋の掃除で追い出されたの。それに、この時間帯は、皆忙しいから。
わたしがうろうろして、皆に気を散らさせてしまっては、悪いでしょう?だから、少しここでピアノでも、と思って」
「そうでしたか。それでは、お邪魔にならないよう、私は退室いたします」
「……忙しいの?」
明らかに不満げに問いかける少女に、執事は少しだけ困ったように額を押さえ、
「いえ、私の場合、この時間の方が落ち着いていますね。その代わり、朝と夕方が忙しくなるのですが」
「なら、いいじゃない。執事は主人の傍で仕える事が、一番の仕事でしょう?それに――」
自分で、曲を作ってみたの。
そう言って、少女は少しだけ頬を染めてピアノに向かう。
「そこで、聞いていてくれる?」
「喜んで」
鍵盤をなぞる、宝石のような指。
風に乗せて、屋敷に音符達が広がっていった。
働く者達の足音が、ほんの少し柔らかくなる。
そんな、昼下がりのコンサート。




