第十話 「研磨」
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Tea time.10
Who polished the jewel?
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鏡台の前に座る。
湯上りの湿り気を帯びた髪。
ほんのりと上気する白い肌。
フラワーベビードールのネグリジェを、滑らかに隆起する胸のライン。
そう言うと艶めかしく感じなくもないが、「女」ではなく「少女」の自分がそこに居た。
悔しい。
従者であるはずの彼に、どうしたって、自分は届かない。
あの人に求められるために、わたしはどんな宝石になれば良いのだろう。
着飾り、化粧して、花をつければ大人に近づけるのだろうか。
顔も覚えていない、何人かの婚約者候補からもらった、高価なアクセサリーと化粧品の山。
今までずっとほうっておいたが、初めてそのうちの一つを、手にとって見る。
取り出した真っ赤な口紅を、小さな唇にそっと近づけ――
やめた。
ダイヤ、サファイア、トパーズ、水晶。
金、銀、プラチナ、翡翠に琥珀。
もしもただの石ころだったとしても、わたしはわたし。
研磨はしても、絵の具で彩る愚者ではない。
そもそも、そんなものを喜ぶ彼なら、わたしはこんな思いはしていないはずだ。
理を学ぼう。
感性を磨こう。
そして、世界を知ろう。
自分で自分を誇れるように。
彼を支えることが出来るように。
「おやすみなさい、また明日…ね」
鏡の横にぶら下がっている、どこかの誰かに似た人形を、ちょん、とつつく。
揺れる人形が、彼の肩をすくめる動作に重なり、少女はくすりと吐息を漏らす。
ベッドに潜り込み、目を閉じて、ゆっくりと夢の世界を目指していく。
明日も、良き一日でありますように――。




