第九話 「料理」
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Tea time.9
She cooks as if writing a love letter.
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「貴方って、本当に嬉しそうに料理するのね」
「あら、お嬢様。何か変ですか?」
「だって、大変じゃない。献立を考えて、色々準備して、ずっとおなべをかき回して。
そういうのにも楽しさがあることは、分かるつもりだけれど」
「そうですねぇ…確かに大変なんですけど。でも、あたしには恋をしているのと同じようなものですし」
「?……よくわからないわ」
トントントンと野菜を刻み、他の素材と混ぜ合わせ。
時には包丁を滑らせ、手の甲に新しい傷を増やしてしまう。
コトコトと、ずっとずっとシチューと格闘。
熱気が襲い、頭がぼうっと苦しみを訴える。
毎日が、そんな事の繰り返し。
それでも――。
「だって、恋をすると、どうしたら相手が喜んでくれるか、好きになってもらえるかと考えて、色々するじゃないですか。
それは大変かもしれないけど、やっぱり楽しいでしょ?」
美味しいと言ってくれる誰かがいるから。
朴念仁のあの人も、顔を綻ばせてくれるから。
「だから、きっと料理は、あたしの恋文なんです」
料理は愛情ですから――。そう続けて、笑う彼女。
少女は気づかなかったが――
それは、一人の執事をめぐった、小さな小さな恋敵宣言。




